薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂内容が固まった。2015年度の入学生から、改訂コアカリに基づく新たな6年制薬学教育が始まる。現行のコアカリに比べてスリム化され、各大学の教育自由度は高まる。「薬剤師として求められる基本的な資質」10項目を教育の出口として設定し、それを達成するために必要な項目として一般目標(GIO)、到達目標(SBO)が設けられたことも特徴だ。今春には、改訂コアカリを反映させた各薬系大学のカリキュラムの骨格が出揃うと見られる。
改訂コアカリ案は、市川厚氏(武庫川女子大学薬学部長)が座長を務める文部科学省の「薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に関する専門研究委員会」の委託を受け、日本薬学会の委員会と調査研究チームが作成。昨年9月には全国の薬系大学関係者を対象に、改訂の要点を示す説明会が開かれた。さらにパブリックコメントの募集を経て内容が固まった。
現行のコアカリは02、03年に策定された。当時はまだ薬学教育6年制は始まっておらず、それまでの4年間の薬学教育を基盤に内容が検討された。このコアカリを基本に06年から薬学教育6年制がスタート。6年間の教育を受けた初の薬剤師が12年に誕生した。6年間の教育を一通り終え、課題が明らかになったことを背景に、改訂コアカリは薬剤師教育にポイントを絞り、6年制学部・学科の学士課程教育に特化した内容として策定された。臨床系の教育が現行より充実すると見られる。
その象徴が、6年制卒業時に必要とされる資質として新たに設けられた10項目の「薬剤師として求められる基本的な資質」だ。
具体的には▽薬剤師の心構え▽患者・生活者本位の視点▽コミュニケーション能力▽チーム医療への参画▽基礎的な科学力▽薬物療法における実践的能力▽地域の保健・医療における実践的能力▽研究能力▽自己研鑽▽教育能力――からなっている。
医学教育を参考に10項目が設定された。大部分は共通だが、基礎的な科学力と研究能力の項目では、薬学教育が一歩踏み込んだ表現になった。医療人としての薬剤師は研究的な目線も備えてほしいとの思いが込められている。
この10項目の資質を卒業時の出口とし、それを達成するために必要な項目としてGIO、SBOが設けられた。現行のコアカリのようにそれぞれの分野の教育を積み上げる方式ではなく、ゴールを決めてそれに向けてカリキュラムを編成するという方向に大きく変わることになる。
3割を大学独自科目に
各薬系大学のカリキュラム編成の自由度が、従来より高まることも特徴だ。
現行のコアカリは講義単位で構成され、多くの薬系大学はそれをそのまま授業科目に展開。そのため、どの大学でも似たカリキュラムになっていた。
改訂コアカリではその概念をなくした。具体的な授業科目の設定や教育手法は各大学の裁量に委ねられる。複数のSBOを組み合わせて新たな授業科目を立ち上げるなど、自由度が高まる。カリキュラム編成の参考となる「教育内容ガイドライン」としての位置づけが、より明確になった。
また、現行のコアカリに対し「内容が過密すぎる」との各薬系大学の声を受け、改訂コアカリはスリム化された。現行のコアカリも策定当初は、その7割ほどをカリキュラムに反映する運用が想定されていた。しかし、SBOに注目するあまり、実際には記載内容のほとんど全てを同じ比重でカリキュラムに落とし込む格好になったため、残り3割の各大学の特徴を出せる独自教育が小さくなってしまった。
こうした反省を受けて、現行のコアカリでは1446を数えるSBO数は、改訂後約3割減になる。ゆとりが生まれ、各大学独自の主体的で個性的なカリキュラム編成が可能になると期待される。カリキュラム全体のうち教育課程の7割を改訂コアカリの内容で構築し、残り3割は独自カリキュラムで構築してほしいとの考えだ。
改訂コアカリは15年度の入学生から適用される。入学を予定する高校生へのアピールを考えると各薬系大学は、改訂コアカリに基づくカリキュラムの骨格を今年春ごろまでに策定する必要がある。
既に各薬系大学ではその作業が始まっており、現行コアカリに基づいて制定した学位授与方針、教育課程編成や実施の方針、入学者受け入れ方針を必要に応じて改訂する。その上でカリキュラムの骨格を固める作業に入る。
実務実習の方略は検討
改訂コアカリの大項目は、▽基本事項▽薬学と社会▽薬学基礎▽衛生薬学▽医療薬学▽薬学臨床▽薬学研究――の7項目に整理された。現行では別に定められている実務実習のコアカリが「薬学臨床」という項目となって統合、一本化された。
実務実習で学ぶべき内容を、病院での実習、薬局での実習に分けて記述せず、処方箋に基づく調剤、医薬品情報の収集と活用、処方設計と薬物療法の実践など、薬剤師として習得すべき事項をひとまとめにして記載したことが特徴だ。また、事前学習として学内で取り組む事項は、“前”と表記されている。
現行の実務実習コアカリには方略や評価が提示されているが、改訂コアカリにはそれがない。どの項目を病院と薬局で分担するのか、あるいは両方で担当するのかを割り振り、項目ごとに必要な時間や人材、教材などを定めた実務実習の方略を、関係者が話し合って作成する必要がある。その過程で病院、薬局での実習期間や実習費用も話し合うことになる。
これらの話し合いは今後、国公立大学薬学部長(科長・学長)会議、日本私立薬科大学協会、日本病院薬剤師会、日本薬剤師会、文部科学省、厚生労働省の6者などで構成される「新薬剤師養成問題懇談会」(新6者懇)で行われる。
昨年11月に開かれた新6者懇では、新たな「薬学教育モデル・コアカリキュラム」に則した実務実習を円滑化する方針や体制を協議する「薬学実務実習に関する連絡会議」を設けることを確認した。▽薬局実習と病院実習の区分、分担▽方略作成の必要性▽実習施設の確保――などを検討する。
一方、4年次の後半に実施される薬学共用試験についても、改訂コアカリではどこまでを範囲にするのか、まだ明示されていない。4年次までに学ぶべきことが、今後整理される計画だ。