『チーム医療・地域医療の一員として、臨床能力をもつ医療人である薬剤師の育成』を目指した6年制薬学教育を卒業した薬剤師は、総勢2万4882人誕生しました。2014年3月1、2日の両日で6年制薬学教育の3回目となる第99回薬剤師国家試験(以下、国試)が実施されました。第99回国試は過去の第97、98回国試に比べて難易度が高い試験でした。総合格率は60.84%と前回より18.26%低く、既出問題の丸暗記だけでは合格できない試験となっています。
第99回国試は、薬学の全領域に及ぶ一般的な理論内容や、医療を中心とした実践の場において習得されている知識・技能・態度の確認、高い倫理観、医療人としての教養、医療現場で通用する実践力などが体系的に習得されているかを見極め、「考える力」「問題解決能力や臨床能力」を持った薬剤師輩出という明確な方向性に沿った出題となっていますので、来年の第100回国試も同じ傾向での出題になると予想されます。「基礎力」「考える力」「問題解決能力」の3本の軸での出題と考えると、受験生の方は1日でも早く国試の勉強に取り組む必要があります。今回は、「出題領域別のポイント」として近年、正答率が低迷している「物理・化学・生物」の出題傾向と対策を探ります。
まず、薬剤師国家試験の合格基準を確認してみてください。
総合得点
65%以上の得点率(225/345点)
必須問題
総得点の70%以上かつ、各領域50%以上の得点率
一般問題
各領域の35%以上の得点率
となっています。
今回、紹介させていただきます「物理・化学・生物」は3科目で1領域の基準をクリアすればよいのですから、強みとなる科目を3分の2作ることができれば合格基準に達します。しかし、第99回国試では物理、化学の難易度が高かったため、足切りが多い領域でもありました。したがって、基礎科目は早期からの対策が必要になります。
各科目の出題傾向と対策を紹介しますので、今後の勉強の参考にしてください。
物理
「理論問題」「実践問題」の難易度は高く、グラフや計算問題が増加、「必須問題」と「理論問題」では高校化学・物理の範囲からの出題もありました。また「実践問題」では実務に際して起こる物理的現象に基づく理由や原理を問う出題が多かったです。
<早めに取り組んでほしい項目>
【物理領域を実務の注射剤や薬物動態学へつなげ基礎を応用し得点源にしよう】
□反応速度
□酸・塩基
□熱力学
化学
「理論問題」と「実践問題」は難易度がやや高く、全体に正確な知識に加え、読解力、判断力、問題解釈・解決能力を必要とする問題が出題されていました。また、「理論問題」は、既出問題や知識の暗記のみでは対応できず、反応を理解した上で判断させる問題が多かったです。有機化学においては構造を書いて判断する問題の出題はなく、与えられた構造から判断する問題の出題がありました。
<早めに取り組んでほしい項目>
【医薬品の構造をみることにより医薬品の性質を理解し医療科目へつなげよう】
□基本的な5大反応の中でも芳香族・アルケン・ハロゲン化アルキル
□命名法・骨格・立体
□漢方処方(効能・効果、副作用)
生物
「理論問題」と「実践問題」は中程度の難易度で、正解するためには、正確な基礎知識と、それを応用する力が必要でした。「実践問題」では、組織図、実験操作、添付文書情報から考えさせる問題も出題されており、問題文を理解する読解力も求められる出題でした。全体的に既出問題ベースの問題が多かったですが、問われ方の新しいものもありました。
<早めに取り組んでほしい項目>
【生物は、病態への架け橋になる科目という事を意識して学習しよう】
□機能形態学:臓器系疾患に関する知識は医療と絡めての習得を意識
□生化学:栄養素の構造・代謝の習得
※糖尿病、脂質異常症などの代謝系疾患の知識整理
□分子生物学:細胞周期の複製(特に確認)、セントラルドグマ
□遺伝子工学では、iPS細胞、RNAi
□微生物学:細菌(特に確認)、真菌、原虫、ウイルスの基本的分類・特徴の整理
※近年、感染症の出題率が高くなっているため、病態と絡めて学習
□免疫学:自然免疫と獲得免疫、抗体、サイトカイン、アレルギー
※免疫系疾患の病態と絡めて学習
「物理・化学・生物」の出題傾向が確認できましたら、この時期にできる対策を紹介させていただきます。
勉強は「出やすい問題」を中心に「最終的に何ができればよいか」を考えましょう。
薬剤師国家試験の既出問題の出題率は約20%(再・類・組み合わせ問題)と言われます。「出る問題」と言い切ることはできませんが、既出問題を解くことで得点アップに近づくのは間違いありません。まずは、優先的に第97~99回国試(新国家試験)を解き傾向をおさえて、最終的に7~8年分既出問題を解いて知識の定着していくことをお勧めします。
この時期、既出問題で問われていない勉強は効率的ではありません。
ただし、漠然と問題を解くのではなく、「最終的に何ができればよいか、できなければいけないか」を意識してみてください。
「基礎力」「考える力」「問題解決能力」を問う国家試験ですから、知識の基盤作りが必要であることに気づくのではないでしょうか。
基礎力はその学問の骨格です。早期の段階でその部分をしっかりと習得できれば、夏以降には点と点を結びつけられます。
「物理・化学・生物」は、苦手な方が多いかと思います。参考書を読み、既出問題集を解き、限界を作らず今の自分よりも成長し、国試合格を掴みとりましょう。受験生の皆さん、応援しています!
学校法人医学アカデミー
薬学ゼミナール福岡教室
若林 丈裕