第99回薬剤師国家試験に向けて‐第98回国試を振り返る

2013年5月1日 (水)

薬学生新聞

学校法人医学アカデミー学長
木暮 喜久子

 第98回薬剤師国家試験は、2013年3月2、3の両日に実施された。6年制薬剤師を輩出する2回目となる第98回薬剤師国家試験は、97回に比べて「考える力」を問う問題や医療現場で直面する事象に対する「問題解決能力」を問う問題が多く、難易度の高い試験であった。受験者総数1万1288人、総合格者数8929人、総合格率79.1%で、97回に比べ合格率が9.2ポイント低い結果であった。表1に示すように6年制卒(新卒と既卒を含む)の合格率は、83.6%(合格者数8826人)に対して、その他(旧4年制卒を含む)の合格率は14.1%(合格者数103人)で、旧4年制卒の受験者にはかなり厳しい試験であった。また97回に比較して新卒者の合格率は、11.7ポイント低下している(図1参照)

第98回薬剤師国家試験の総評と今後の展望

 第98回薬剤師国家試験は、表2(厚生労働省発表)に示すように、新卒者の全体(345問)の平均点は、昨年に比べ17.7点(換算点では5.1%)低下している。薬学ゼミナールの「薬ゼミ自己採点システム」(集計数7557人)で見ると、図2(98回と97回の薬剤師国家試験領域別正答率比較)に示すように、総合で比較すると「衛生」を除く全ての領域で97回より正答率(換算点)が低下している。「必須問題」では、約2ポイント、一般問題の「薬学理論問題」で約8ポイント、一般問題の「薬学実践問題(複合問題と実務)」で約9ポイント、98回は97回に比べ正答率が低下している。また「物理」「化学」を中心に基礎科目の正答率が非常に低いという結果であった。

 第98回の問題は、全体的にバランスのとれた良問が多い印象であったが、「物理・化学・生物」には、高校で学んだ基礎事項や基本的内容が多く出題されており、基礎力のない受験者には難しい試験であったと思われる。さらにグラフや式、図やイラストが与えられ、これらを用いて正解を導くための「考える力」や「応用力」を必要とする問題も多かった。また既出問題の出題は20%くらいとされているが、既出問題もそのままの再出題はなく、既出問題の内容をベースに、問い方や出題形式を変えるなどした問題であったため、多くの受験生が新傾向の問題だと思ってしまったかもしれない。今後もこの傾向は続き、暗記だけでは解けない「理解力」と「考える力」を必要とする国家試験になっていくと思われる。

 「薬学実践問題」の複合問題や実務問題は、97回より医療現場での実践的な記述、添付文書の記載などが数多く出題され、5年次以降に実施される長期実務実習での成果を問う問題が多かった。

 現在、チーム医療の一員として、臨床能力と医療現場での必要な生きた知識や技能を身につけた薬剤師が求められている。6年制では、病院と薬局などの医療現場でそれぞれ11週間(合計22週)におよぶ長期実務実習への参加が義務づけられている。さらに4年次には、学内での実務実習事前学習や長期実務実習に参加するために必要な知識・技能・態度が備わっているかを確認する共用試験が行われている。

 また、充実した臨床教育を実施している大学も多く、問題抽出・解決型の講義であるPBL(Problem-baced learning)やTBL(Team Based Learning)の実施、バイタルサインが読める薬剤師能力の開発やフィジカルアセスメントのできる薬剤師を目指す臨床実習を実施している。

 第98回薬剤師国家試験は、医療現場での実践的な問題解決能力を身につけた「考える力」を持つ薬剤師を輩出するという、明確な方向性を示し、6年制卒薬剤師に対する期待を感じさせる試験であったといえる。

 これらの結果から、来春の第99回薬剤師国家試験は、「基礎力」「考える力」「問題解決能力」を必要とする問題、医療現場のより実践的な問題が多くなるなど、98回の傾向とは大きく変わらないと考えられる。また難易度は上昇すると思われる。

6年制薬剤師国家試験の概略

 6年制の国家試験は必須問題(90問)と一般問題(255問)の合計345題の出題になった。試験領域は「物理・化学・生物」「衛生」「薬理」「薬剤」「病態・薬物治療」「法規・制度・倫理」「実務」の7領域である。試験は、領域別に行うのではなく、薬学全領域を出題の対象として、「必須問題」と「一般問題」とに分け、さらに一般問題を「薬学理論問題」と「薬学実践問題」とした3区分で試験を実施した(表3参照)。それぞれの出題区分は下記のような問題内容で出題される。

 1)「必須問題」は、全領域で出題され、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確認する問題であり、共用試験と同様の五肢択一の比較的やさしい問題である。

 2)「薬学理論問題」は、「実務」を除く全領域で出題され、6年間で学んだ薬学理論に基づいた問題である。

 3)一般問題の薬学実践問題は、「実務」のみの問題と「実務」とそれ以外の領域とを関連させた連問題形式の「複合問題」からなる。「複合問題」は、6年制薬剤師国家試験で初めて導入された出題形式で、症例や事例を挙げて実務の現場で薬剤師が直面する問題を解釈・解決するための資質を問う問題で、実践力・総合力・基礎力を確認する出題である。

 新薬剤師国家試験は2日間で実施され、「必須問題」は1問1分、「一般問題」は1問2.5分で解く時間配分になっている。

 また、表3には新国家試験の合格基準を挙げている。合格基準は、全問題への配点の65%以上を基本とする。しかし、「必須問題」は、全問題への配点の70%以上で、かつ構成する領域の得点がそれぞれ配点の50%以上、「一般問題」は構成する各領域の得点がそれぞれ配点の35%以上とされている。これを「足切り」という。

 4年次に行われるCBTは総点で判断される(60%以上)が、国家試験は各領域ごとに「足切り」が設定されているので、いくら総点が合格基準に達しても「足切り」で不合格になるので注意しなければいけない。

 第98回国家試験では、「物理・化学・生物」の足切りで不合格になった受験生が多かった。


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