薬学教育が6年制に移行し、2回目となる薬剤師国家試験(98回)が、2013年3月2、3日の両日で実施されました。移行後、初めての薬剤師国家試験(97回)に比べて、「考える力」を問う問題や「問題抽出、解釈、解決能力」を問う問題が多く、難易度の高い試験であったと言えます。
総合格率79.1%と97回より低くなり、知識問題(暗記)だけでは合格できない試験となっています。
第98回薬剤師国家試験は、薬学の全領域に及ぶ一般的な理論内容や、医療を中心とした実践の場において習得されている知識・技能・態度等の確認、高い倫理観、医療人としての教養、医療現場で通用する実践力などが体系的に習得されているかを見極め、「考える力」を持った薬剤師輩出という明確な方向性に沿った出題となっていますので、来年の第99回薬剤師国家試験も同じ傾向での出題になると予想されます。
「基礎力」「考える力」「問題解決能力」の3本の軸での出題と考えると、受験生の方は1日でも早く国家試験の勉強に取り組む必要があります。
今回は、「出題領域別のポイント」として、第97回薬剤師国家試験に比べて正答率が低迷しました「物理・化学・生物」の出題傾向と対策を探ります。
まず、薬剤師国家試験の合格基準を確認してみてください。
■総合得点■
65%以上の得点率
■必須問題■
総得点の70%以上かつ、各領域50%以上の得点率
■一般問題■
各領域の35%以上の得点率
となっています。
今回、紹介させていただきます「物理・化学・生物」は3科目で1領域の基準をクリアすればよいのですから、強みとなる科目を2/3作ることができれば合格基準に達します。しかし、第98回薬剤師国家試験では3科目とも平均点が低迷しており、足切りが多い科目でもありました。したがって、早期からの対策が必要な科目になります。
各科目の出題傾向と対策を紹介しますので、今後の勉強の参考にしてください。
■物理■
「理論問題」「実践問題」の難易度が高く、「実践問題」に出題された計算問題は、今までにない形式の出題であったため、答えを導くのに時間がかかった可能性があります。
既出問題レベルの問題が多く出題されていましたが、浸透圧の計算問題や膜電位の問題など新しい切り口の問題の出題もありました。
<早めに取り組んでほしい項目>
□反応速度(第98回未出題)
□熱力学
□物性、溶液の性質、分子間力
□化合物の定性及び定量(定性試験、容量分析など)
□化合物の解析に用いられる機器の原理及び生体分子への応用
□生体成分の分析(DNA解析など)
■化学■
「必須問題」は比較的得点しやすかったのですが、「理論問題」の難易度が高く、問題により難易に差が見られました。既出問題の再出題や類似問題は、ほとんどなく、全体を通して新しい問い方が多かったです。第97回に比べて、構造を絡めた問題、化学反応の出題率が高いのも特徴でした。構造や、ファーマコフォアに関する問題、漢方処方に関する問題など、現場で使われる知識が問われると予想されます。
<早めに取り組んでほしい項目>
□化合物の構造及びその名称、立体構造、化学結合などの基礎知識
□化合物の物性及び基本的反応
□構造中のファーマコフォア(医薬品の生物学的活性に必要な立体構造や官能基群)
□化合物の構造解析(NMR、MSなど)
□生薬の基礎(基原植物の科名、薬用部位)及び有効成分(医薬品及びそのリード化合物)
□生薬成分の生合成経路
■生物■
既出問題の再出題・類似問題は少なく、特に「理論問題」では、実験結果の考察などから答えを導く「考える力」を問う問題があり、難しく感じた可能性があります。幅広い範囲から満遍なく出題される傾向は今後も続くと思われます。また、「実践問題」では処方薬の作用機序を問う問題が生物で多く出題されていることからも、医療と関連づけて勉強していく必要があります。
<早めに取り組んでほしい項目>
□機能形態学:神経系、臓器系、情報伝達系の幅広い知識(臓器系疾患に関する知識は医療と絡めての習得を意識)
□生化学:栄養素の構造・代謝の習得と共に、栄養素の代謝に関しては、糖尿病、脂質異常症などの代謝系疾患の知識整理
□分子生物学:細胞周期、セントラルドグマ、遺伝子工学についての基本的知識の習得。遺伝子工学では、iPS細胞、ES細胞、RNAiなどの知識が求められます。
□微生物学:細菌、真菌、原虫、ウイルスの基本的分類・特徴の整理。また、感染症の出題率が高くなっているため、感染症の病態の知識が求められます。
□免疫学:自然免疫と獲得免疫、抗体、サイトカイン、アレルギーの知識と共に、免疫系疾患の病態が求められます。
「物理・化学・生物」の出題傾向が確認できましたら、この時期にできる対策を紹介させていただきます。
◆勉強は「出やすい問題」を中心に「最終的に何ができればよいか」を考えましょう。
薬剤師国家試験の既出問題の出題率は約20%(再・類・組み合わせ問題)と言われます。「出る問題」と言い切ることはできませんが、既出問題を解くことで得点アップに近づくのは間違いありません。まずは、既出問題を活用して7~8年分の問題を解いてみましょう。
この時期、既出問題で問われていない勉強は効率的ではありません。
ただし、漠然と問題を解くのではなく、「最終的に何ができればよいか、できなければいけないか」を意識してみてください。
「基礎力」「考える力」「問題解決能力」を問う国家試験ですから、知識の基盤作りが必要であることに気づくのではないでしょうか。
基礎力はその学問の骨格です。早期の段階でその部分をしっかりと習得できれば、夏以降には点と点を結びつけられます。
「物理・化学・生物」は、苦手な方が多いかと思います。参考書を読み、既出問題集を解き、自身の能力を開花させてください。
受験生の皆さん、頑張っていきましょう。応援しています!
薬学ゼミナール名古屋教室
岨手(そで) 昭人