うえまつ調剤薬局・宮城県名取市
轡(くつわ) 基治
来年度よりいずれの都道府県においても地域包括ケアシステムが稼働する予定になっており、疾病予防や介護予防から療養生活の支援に至るまで、その地域にいる様々な職種や事業所が連携しながら対応してゆく。人間が身体的・精神的・社会的により健やかに生活してゆくためには多くの支援が必要になるためである。
薬剤師が把握している患者の姿は生活全体の一つの側面にすぎないこと、医療あるいは介護のみの単一のサービスでは療養者の生活を支えられないことを認識しておかなければならない。
医療・介護における主な職種と薬剤師との関わり
医師(診療所・病院)
疾患に関する診断と治療、評価により治療計画を立て、他の医療従事者が実施する医療処置について指示を行う。薬剤師の訪問については処方箋あるいは口頭で指示し、診療情報提供書を申し送る。薬剤師はこれを基に薬学的管理指導計画を立案し、訪問の結果や評価を医師に随時フィードバックする。
報告は毎回文書にて行うが、迅速な対応が必要であれば電話などで直接連絡を取り合う。機会が得られるようであれば、医師の訪問時に同行し診療の様子を見ることで、その患者における診療と療養のポイントを直に理解して適切な薬物治療管理に反映させることが可能になる。外用剤や専門外領域の薬剤選択、用量調節など、薬物治療について薬剤師の意見を求められる場面もある。
また医師は、介護保険の申請や更新に必要な主治医意見書の作成や、外来通院患者についても訪問看護や訪問薬剤管理指導を指示する場合がある。訪問歯科医は歯科的治療を施すだけでなく摂食や嚥下機能の評価や改善に向けた指導助言を行うことがある。
看護師(訪問看護ステーション)
必要な医療処置の補助を施すだけでなく療養生活全体の評価とサポートを行うなど役割は多岐にわたる。癌などの悪性疾患では医療保険による訪問が行われることもあるが、慢性疾患では介護保険による訪問であることが多い。医療従事者の中では患者とその療養生活に関する情報を一番多く持ち合わせており、看護師と連携することで得られる情報量は膨大である。
看護観察により提供された情報を薬物治療と照らし合わせる作業も薬剤師の仕事であり、看護師からもたらされる薬物治療に関する課題や評価が患者のQOLに直結していることも多い。
制度上では看護師に対する薬剤師からの情報提供義務はないものの、薬剤情報や指導内容、副作用の観察ポイント、薬学的評価などは訪問看護師に随時伝えて共有する。また、医師の訪問が実施されていない外来患者でも指示により訪問看護が実施されていることがあり、このことを薬局では把握しないまま調剤を実施しているケースでは看護師が服薬管理も担わざるを得ずに難儀していることがある。
薬局に薬を受け取りに来るのが常に患者の家族やヘルパーであったり患者が要介護認定を受けていると分かったときなどは、服薬状況の聴取に併せて訪問看護の有無も確認してみるとよい。
介護支援専門員(居宅介護支援事業所や地域包括支援センターなど)
いわゆるケアマネジャーであり、療養生活の課題分析や評価に基づいてケアプランを作成し、関係職種・事業所との連絡調整を行いながら実施状況を管理する。利用者(患者)を取り巻く状況をもっともよく把握しており、患者が使用する薬剤に関しても様々な問題を把握しているが、解決の糸口を得られずにいることも多い。
先述の訪問看護師の場合と同様、やはり薬局が患者宅での服用状況などを把握しきれていない場合には患者や家族の了解を得て担当ケアマネジャーに連絡を取ってみると問題点を明確にしやすい。今後はケアマネジャーが調剤した薬局に連絡を取り相談するケースも増加すると考えられる。
要介護認定を受けている患者への薬剤師の訪問は医療保険ではなく介護保険による『居宅療養管理指導』となるため、担当ケアマネジャーとは事前の相互連絡だけではなく訪問後の報告も行うことが必要である。訪問計画が定まったらケアプランに薬剤師の訪問も併せて組み込むよう依頼する。
薬剤師の居宅療養管理指導は月々の介護保険給付枠(介護度によって異なる)には含まれず別枠として実施できるため、薬剤に関する事項は薬剤師に存分に割り振ってよいことをケアマネジャーに伝える。
ホームヘルパー(居宅介護支援事業所など)
利用者の身体的介助や生活介助を行う。服薬の準備や介助などを請け負っていることがあるため、薬剤の用法用量等も容易かつしっかり伝わるように工夫する。利用者と接している時間が長く、訪問看護師と同様に多くの情報を持つ。
例えば、薬剤を取り出して口に運び嚥下するまでの動作に問題点がないか、軟膏剤や外用剤の使用を実際にどのように行っているか等の情報が得られる。
リハビリテーション専門職
理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などが専門的見地から個々の療養環境における生活基本動作の維持や機能改善を図る。薬物治療のアウトカムは日常生活動作に直に現れやすく、それらの機能を継続的に観察している専門家の視点は、特に中枢神経系に作用する薬剤等の効果・副作用評価に大変参考になる。もちろん、処方内容の変更による効果あるいは副作用として身体状態が変化する可能性についても情報提供しておくことが必要である。
薬物治療一つをとっても、これらの職種と必要かつ十分な情報を共有することで、劇的に患者のQOLに寄与できる可能性がある。
情報のやりとりには従来様々な手段が用いられてきたが、医療や介護を含めた社会福祉情報を一元的に管理し、共有するインフラ整備が各地で試行されており、現在はその過渡期にあるといえる。