最終回 薬局薬剤師と在宅医療~地域包括ケアシステムでの立ち位置~

2015年11月1日 (日)

薬学生新聞

うえまつ調剤薬局・宮城県名取市
轡(くつわ) 基治

“訪問の必要性”評価がカギ

轡基治氏

 本稿では第47号から薬剤師と在宅医療について散発的に記してきた。薬局業務の現場には本記事に類を同じくするテーマで綴られた記事やHow to は多く存在し、近年では薬剤師の在宅業務を見据えた学会や研究会、研修等も多く催されている。

 現場にいる薬剤師もそういった場を利用して知識の獲得と研鑚を積んでいるが、今もありがちな疑問の一つに『在宅訪問に踏み出すのにどうしたらいいか』というのがある。緩和ケアや簡易懸濁法、褥瘡ケアなどの知識は得たが訪問の始め方がわからない、患者も紹介されてこないというものである。

 まずは、薬局で処方箋を受けている個々の患者について訪問の必要性を評価しているかどうかが一つのカギになる。服薬支援について訪問の必要性を感じたらその患者を担当しているケアマネジャーや医師に相談すれば、何らかの解決策なり訪問なりという流れへ事が動き始める。

 また、訪問を実施できる薬局の情報を地域のケアマネジャーや訪問看護など他の職種に伝えていなければ、ただ薬局で待っていても依頼が来ることはない。端的に言えば、「やるか、やらないか」だけの違いであることが多い。

重要な思考と行動の変容

 およそ平成30年度までを目途に地域包括ケアシステムを構築すべく、全ての都道府県と市区町村がそれぞれに準備に着手している。その手法や進捗状況は地域により多様であり、より効果的で実効性をもつシステムを構築しようと構想段階にある自治体から、旧来から存在していたケアシステムが既に成熟の域に達しておりそれを足掛かりに展開させることが可能な地域まで様々な様相を見せている。

 地域によりシステムのあり方や準備状況が異なるのは、それぞれの地域社会における医療や介護を含む様々な社会資源と住民の生活や疾病の状況などの多様性によるものであり、その意味では当然の成り行きという見方ができる。

 薬局と薬剤師は、そのフィールドに身を置く限り個々の地域がもつケアシステムという概念の中に組み込まれてゆく。しかし、現時点ではおそらく大多数の薬剤師や薬局開設者にとっては『地域包括ケアシステムってなんだろう?』という段階でもある。

 従来の医薬分業に乗り外来患者の保険調剤に特化し確立されてきた薬局業務においては、目の前の患者に対する服薬指導ができればそれで良しとされてきた。しかし、疾患の予防から治療、ケア、生活機能維持、看取りまでを包括的に地域で支援してゆく枠組みの中にあって、薬局という場のピンポイントのみに視点を置いた関わりは充分ではないばかりか患者のケアの流れが見えていないためにそれを阻害する可能性すらある。

 患者を取り巻くケアの流れを正確に読み取るための有効な手法の一つに在宅ケアがあり、薬剤師についても積極的な訪問薬剤管理指導業務への参画が呼び掛けられ続けてきたが、現在では在宅医療のみを前提に置いた薬剤師業務の構築は地域においてはもはや近視眼的なものでしかなくなった。

 地域包括ケアシステムにおいては薬剤師は在宅訪問を実施すればよいというものではなく、外来患者や処方箋をもたずOTC販売、健康相談に訪れる地域の住民についても必要に応じて他の社会資源である他職種や行政等と連絡を取り合い対処することが求められる。

 一方、別の見方をすれば、訪問業務を地域社会に対する責務の一つとして捉え、薬局を訪れる地域住民へのケアを充実させることから注力することも取り組みの方向性として考慮することができるかもしれない。訪問業務はあくまでも地域社会における任務の一つとして捉え、もしもそれが地域として急を要する取り組みでないのであればより必要とされる別のアプローチについて模索することもできる。

 厚生労働省では『健康情報拠点薬局(仮称)のあり方に関する検討会』を経て『健康サポート薬局』というモデル指針を打ち出した。当面はこれに準じた薬局づくりにインセンティブを与えるものではないが、地域における保険薬局の姿について一定の道筋を示したことになる。

 いわば「理想の薬局像」であり、体制や設備のいずれをとっても現状に比すれば高機能であるため全ての薬局がこの形態を将来的に成しえるかといえば難しい面もあるが、これからの薬局づくりに参照されるべきものと考えられる。

 他職種や異業種から「薬剤師は地域でどのような役割を果たせるのか」と尋ねられることがよくある。これには純粋に薬剤師(と薬局)の機能を知らないので教えてほしい、という意味と、とりあえず役に立つのか否かを知りたい、というやや切迫した意味合いとの二つが含まれている。

 前者についてはやはり従来薬局が地域へ向けて情報発信を怠ってきたとされることが多い。しかし、情報とは一方的なものではなく双方向であることを考えると、おそらくは発信だけでなく受信も併せて行うべきではないだろうか。

 処方箋を持って薬局へやってくる患者が地域とのもっぱらのつながりであったとしても、患者の向こう側に居るであろう家族やケアマネジャーなど、療養生活に携わる様々な人ともつながりが生じる可能性に目を瞑ってしまわずに、機会を見て声をかけ、情報のやりとりにいつでも応じる構えを持っていることを示してほしい、というのが後者の問いかけが言外に伝えてくれているように思う。

 地域での役割を獲得できるかどうかは、薬局と薬剤師が思考と行動を変容できるかどうかに懸かっている。



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