“選択と集中”から他社買収が加速か
製薬各社は、ここ数年間で将来にわたって持続的に成長していくための方向性を明確にし、「事業の多角化から選択と集中」「国内から海外展開」の2つの軸で事業転換を急いでいる。非重点事業を売却し、得意とする疾患領域に絞り込み、新薬開発の生産性向上を狙うという“守り”と、国内医療用医薬品市場の冷え込みを背景に、海外企業を買収する“攻め”の攻守一体となった各社の経営戦略に透けて見える。
国内大手は、売上が大きく収益を支える大型医薬品が特許切れした“2010年問題”以後、事業構造を再構築してきた。大型医薬品の上市が難しくなり、1つのブロックバスター製品に依存する経営体制から脱却し、単純に売上を引き上げる規模追求型の買収が少なくなってきている。
そして自社の強み、今後の医療ニーズ、他社との競合性などを総合的に勘案し、成長性の高い事業がどこかを見極め、自社で保有するよりも他社への売却がよいと思われる事業についてはシビアな経営判断を下すようになった。事業規模が大きく、幅広い領域で展開してきた製薬企業でさえも、特定疾患領域で専門性の高いスペシャリティファーマを目指すようになった。
最大手の武田薬品は国内長期収載品事業を本体から切り離し、イスラエルのテバと、長期収載品とジェネリック医薬品(GE薬)の合弁会社「武田テバ」を設立した。さらに、呼吸器疾患事業を英アストラゼネカに、診断薬子会社「和光純薬工業」を富士フイルムに売却した。
アステラス製薬は皮膚科事業をデンマークのレオファーマに譲渡。第一三共は印GE薬大手「ランバクシー」を印サンファーマに売却し、GE薬と新薬の複眼経営から新薬に回帰する方針に転換している。エーザイも診断薬子会社「エーディア」を積水化学に売却した。
一方、重点化する疾患領域での新薬開発では、自社創薬にとらわれず外部に有望な開発品があれば、海外企業の買収を仕掛ける。特に各社が揃って狙いとしているのが「癌」だ。
武田は約6260億円で米アリアド・ファーマシューティカルズの買収に踏み切った。武田にとっては08年の米ミレニアム社、11年のスイスのナイコメッド社に続く巨額買収であり、手薄だった後期開発段階で抗癌剤を手中にし、固形癌領域での足場を築いた。
アステラス製薬も昨年、独ガニメドを約1000億円で買収し、血液癌領域での開発品を拡充した。大日本住友製薬は、米トレロファーマを最大919億円で買収し、癌への事業展開にアクセルを踏んだ。
こうした買収策は、グローバル市場を見据えており、不透明感が増す国内医療用医薬品市場に対する危機感の表れとも言える。高齢化の進展によって医療費削減の圧力は強まり、製薬企業の国内売上を支える薬価制度にもメスが入りそうだからだ。
昨年4月の薬価制度改革では、新薬の薬価を大幅に引き下げる「特例拡大再算定」というルールが新たに導入され、その後の抗癌剤「オプジーボ」を引き金とした高額薬剤の薬価をめぐる議論の延長線上で、全医薬品の薬価を抜本的に見直すという可能性も浮上してきた。日本のみのではこれまでのような成長は難しく、グローバルでいかに活路を見出すかが今後のカギとなりそうだ。
製薬企業を志望する皆さんには、各社が長期的に“何を目指しているのか”を把握した上で、自分がどの会社で働きたいかを考え、判断していただきたい。