代表の奈良さん
東京薬科大学の里山保全サークル「ASIATO」は、資源を利用するために整備された山林である里山の生態系を守ることを目指し、米作りに力を入れている。田んぼはカエル、小魚、ヤゴなど多くの生物が生息する場であり、里山全体の生態系のバランスを保つ役割を果たしている。ただ、最近は田んぼを放棄する農家が増加していることから、ASIATOが雑草の除去から収穫まで一貫して行うことで田んぼを再興し、生物が暮らす場を回復させている。米作りの過程で子供たちと泥遊びをしたり、収穫した米を餅やパンケーキなどに調理してイベントで販売するなど、地域住民との交流にも積極的だ。代表を務める薬学部薬学科3年生の奈良拓郎さんは「学生だけでなく、地域の人が里山を守ろうと活動してくれることが本当の里山保全だと思うので、ASIATOの活動を通じて里山の良さと存在を知ってもらえれば」と話している。
地域一体での活動目指す
田んぼには多くの生物が生息する
2001年頃に創部したASIATOでは、1～3年生を中心とした53人の部員が毎週土曜日の午前から夕方まで、大学に近い二つの田んぼを借りて餅米を育てている。高校で園芸の授業を受けていた部員もいるが、大学から米作りを始めた人がほとんど。そのため、上級生がアドバイスしながら作業に取り組んでいる。
大学がある八王子市は、山、森林、田畑が多い地域だが、最近は米作りをやめる農家が増加し、放棄された田んぼが目立つ。田んぼには、カエル、ザリガニ、トンボ、ヤゴ、サワガニ、小魚などの生物が生息し、里山全体の生態系を保つ役割を担っているが、田んぼの減少で生態系のバランスが崩れ始めていることから、ASIATOは米作りを通して田んぼの力を回復させ、バランスを保つことを目指している。奈良さんは、「きれいな環境にしか生息しない生物を見て感動しました。特に5～6月に多く見られますが、収穫が近い秋季にサワガニが現れたのは面白かったですね」と豊かな生態系の魅力を語る。
代掻きでは子供たちと泥遊びを楽しむ
米作りは、4月の「田起こし」から始まる。雑草を除去し、冬の間に固まった土を混ぜて栄養を循環させ、地中を日光に当てることで殺菌する。5～6月には小川から水を引き入れ、土をさらに細かく砕いて混ぜる「代掻き（しろかき）」と呼ばれる作業の後に、大学の薬用植物園で育てた苗を植える。
代掻きでは、近隣の大学のボランティアサークルなどと協力し、地域住民と交流を図る泥遊びを行っている。毎年、大人と子供合わせて50人ほどが参加し、泥の中でリレーやドッジボールを行い、小学生を中心に好評を得ているという。
10月ごろに稲を刈り取り、束ねた後で天日干しし、脱穀と精米を行う。収穫量は毎年20～30kgほどで、脱穀・精米は近所の農家の機械を借りるが、米作りのほとんどを手作業で行っている。
収穫量は20～30kgほどになる
奈良さんは、台風などで天候が荒れると稲がうまく育たないこと、広い土地の雑草を除去することなどが大変だと感じているが、「薬用植物園で苗を育てることが一番楽しいです。日に日に成長が分かるのが嬉しいですね」と米作りの楽しさを見出している。
収穫した米は、毎年秋に行われる学園祭で調理して販売する。これまでに餅やパンケーキなどを作り、今年は団子を販売する予定だ。学園祭の期間中に4～5万円ほど売り上げ、部費に充てている。奈良さんは「一から米を育てて収穫し、売上を部費にすることに充実感を感じます」と語る。
田んぼを貸してくれる会社からも技術的な指導を受けているほか、ASIATOでは、畑でサツマイモ・大根なども育てていることから、近隣の農家が学生不在時の畑を見守ってくれている。こうした活動には地域の協力が欠かせない。
田んぼアートの作品
八王子市が9～10月にかけて開催した花と緑に関するイベントでは、田んぼで絵を表現する「田んぼアート」に参加し、ボランティア団体や他大学と交流を深めた。地域の祭りでも餅を配布し、米作りの活動を収めた写真を学園祭で展示して里山の魅力をPRするなど、地域社会とのつながりを強めている。
奈良さんは「学生のサークル活動で行うよりも、地域の人が里山を守ろうと活動してくれることが本当の里山保全だと思いますので、ASIATOの活動を通じて里山の良さと存在を知ってもらいたいです」と目標を語った。
