15年度の開設目指す
被災地の医療を支える人材を育成するため、東北地方に医学部が新設される可能性が出てきた。東北薬科大学は10月11日に記者会見を開き、医学部新設を目指す構想を発表した。薬学の単科大学としては初の試み。東日本大震災の影響で深刻化した医師不足の解消に向け、地域医療・災害医療に貢献する医師の養成を目指すほか、医薬品・薬学の専門知識と実践能力を併せ持った医師の養成にも取り組む。会見で同大学の高柳元明学長は、「薬の相互作用や薬物代謝など、薬物動態学の知識を持った医師の養成が必要と考えた」と述べ、薬学教育・研究の機能を生かした医学部づくりの重要性を強調した。今後、文科省などの関係省庁も交え、新設に向けた検討が進むことになるが、早ければ2015年度の開設を視野に準備を進める。
医学部の定員は100人程度。このうち、地域に医師を誘導するための措置として、東北全体で10人程度の「地域特別枠」を設けると共に、奨学金も充実させる。特別枠の入学者は、卒後在学年数の1.5倍に相当する期間、大学の指定する東北地区の病院に勤務する義務を負う。
医学部新設当初までは、既存のキャンパスを活用するが、学年進行に伴い、医学部専用のキャンパスを新設する。また、東北薬科大は、東北厚生年金病院を譲り受け、附属病院として13年4月に「東北薬科大学病院」を開設しており、臨床実習は、附属病院や連携病院を活用する。
定員100人の場合、大学設置基準に基づくと147人の専任教員が必要になるが、実際には200人程度を見込んでいる。高柳氏は、「東北薬科大学病院には90人近い医師がいるが、新たに教員を採用しなければならないだろう。医師の確保は頭が痛い問題」とする。
ただ、「東北地方から医師を集めることはできるだけ避けたい」と述べ、被災地の医療崩壊は避けたい考えを強調。今後、東北大学をはじめ、関東より西の大学にも協力を仰ぐほか、公募も行うという。
ハード、ソフト面も含め、医学部の新設には「229億円プラスα」かかると試算するが、必要額は「保有する金融資産の範囲内で、十分対応できる」という。
同大では、民主党政権時代の鈴木寛文部科学副大臣が医学部新設の意向を表明したのを受け、11年6月に「東北薬科大学医学部設置準備懇話会」を設置。同年12月に報告書をまとめるなど、医学部新設の準備を進めていた。
医学部の新設をめぐっては、供給過剰により医師の質低下につながるなどの理由から79年の琉球大学を最後に認められていない。文科省が03年に出した告示では、大学の認可基準として、「医師の養成に係る大学等の設置でないこと」と明記、事実上、新設を認めていない。
しかし、政権交代後は、政府の産業競争力会議が国家戦略特区を利用して医学部新設を認めることを検討し始めるなど、風向きが変わりつつある。高柳氏も「安倍晋三首相が下村博文文部科学相に対し、東北地方に医学部新設を検討するよう指示したと聞いている」とし、期待を寄せた。
安倍首相の指示を受けた下村文科相は10月8日の閣議後の会見で、医学部設置の条件として、東北地方に1カ所とすることや、設置主体や場所、附属病院の体制など関係自治体が1つにまとまることなどの条件を示した。既に宮城県内では、仙台厚生病院が東北福祉大との連携を視野に医学部新設に向けて動き出している。高柳氏は「医療人養成の中心はやはり医師。医療系の大学は、仮に医学部を作っていいと言われたら、可能であれば手を挙げるだろう」とした。
その上で、「2万人の卒業生を輩出し、宮城県をはじめ、東北地方の薬剤師の半分以上が本学の出身者ではないかといわれるほど。それは医療関係者にも認めてもらっていると思っている」と、これまでの実績を強調。「行政の判断になるが、多分、認められるだろうという確信は持っている」と述べた。