切り絵作家で薬剤師‐二刀流貫き人生切り拓く 関西メディコ サン薬局京終店 石賀直之さん

2018年5月1日 (火)

薬学生新聞

自宅2階のギャラリーで

自宅2階のギャラリーで

 普段は薬局で働きつつ、切り絵作家としても活躍する薬剤師がいる。奈良市在住の石賀直之さん、その人だ。仕事を終えた平日の夜間や休日、自宅で創作に取り組む。鳥や花、植物など自然をモチーフに無心で絵を描き、その線だけを残すようにしてナイフで紙を切り抜く。独創的で繊細な切り絵への評価は高く、様々な賞を受賞してきた。全国にファンも多い。薬剤師と切り絵作家は全く異なるように見えるが、「そこで得た経験はそれぞれどこかで生かされてくる」と石賀さん。今後も二刀流を貫き、自分の思い描く人生を切り拓く構えだ。

 幼少期から絵を描くことが好きだった石賀さん。小学校高学年の頃、親の知り合いから工作用ナイフをもらったことをきっかけに、自分が描いた画を切り抜いて遊ぶようになった。高校時代は美術部に所属。油絵を描いたり、切り絵を楽しんだりして過ごした。2007年に大阪薬科大学を卒業し薬局薬剤師として働くようになってからも、切り絵などの創作活動を続けた。

 切り絵作家として社会に認知されるきっかけになったのは13年の作品展だ。切り絵を対象にした作品展があることを知って応募。国境のない世界地図の上を自由に飛翔する鳥を描いた作品は見事、「国際切り絵コンクールin身延ジャパン」で入選を果たした。

 「人によって作品の見方は異なる。自分の作品が、他の人から様々な視点で見てもらえることに楽しさを感じた」。以降、様々な作品展で賞を獲得。16年と17年には関西扇面芸術展で奈良県知事賞を受賞した。テレビや新聞で紹介される機会も増え、知名度が向上。作品の購入を希望するファンは多く、切り絵作家として一定の地位を確立しつつある。

自由な発想で模様を重ねる‐見る場所によって印象変化

平日の夜間や休日に自宅ダイニングで創作に取り組む

 薬局での仕事を終えた平日の夜間や休日、自宅のダイニングに設置した机で創作に取り組む。白い紙に鉛筆で絵を描いた後、カッターで切り抜いて仕上げる。

 原画作成時には、完成図や全体の構図はあまり考えずに、無心で細かな線を迅速に引いていく。「描いている時には何も考えていない。たとえ誰かと話をしていても手が勝手に動く。その場その場でこのスペースに何を入れようか、とだけ考えている」。

 線には迷いが全くない。線を消して描き直すことも一切ない。「シャープな線を描きたいので迷うとおもしろくない。描き直すよりも、できた線を次につなげていけば、思ってもいなかった模様が生まれる」。自由な発想で様々な模様を連ねる。幼少期に見た鳥や花、植物の姿が、精緻なデザインとなって現れることが多い。

影が生じるのも切り絵ならではの魅力(石賀さん提供)

影が生じるのも切り絵ならではの魅力(石賀さん提供)

 A3ほどの大きさであれば通常6時間前後で原画が完成する。その後、線を残して余白をカッターで切る。細かく短い線に比べ、シンプルで長い線の方が切るのは意外に難しい。1回でも失敗したらその作品は破棄する主義だが、近年、失敗はない。全て切り抜いた後に黒や金色のスプレーをかけて仕上げる。A3の場合、切り抜くのに10日ほどかかるという。

 切り絵には切り絵ならではの魅力がある。「同じ作品でも見る場所によって印象は全然違う。光のあたり方、影の生じ方によっても見え方は異なる。手で作品に触ることができ、腕の上などに置けば見え方も変わる」と石賀さんは話す。

創作と両立できる薬剤師に

 薬剤師になったのは「人と話をするのが好きで、そんな仕事に就きたいと思った。資格が取れて専門性があり、自分がしたいことと両立できそうな仕事として薬剤師が最適だと考えたから」。働きながら彫刻家としても活躍していた祖父の姿がモデルになったという。

肌に載せれば印象が変化する(石賀さん提供)

肌に載せれば印象が変化する(石賀さん提供)

 卒業後、奈良県などに約60薬局を展開する地元企業の関西メディコに就職。様々な店舗で経験を積み、16年から京終店で管理薬剤師に。同店は二つの診療所に隣接し医師との距離が近い。医師からの相談に応じたり、処方提案したりすることにやりがいを感じている。

 同じ敷地内には食品スーパーとドラッグストアがあり、買い物客から広域の処方箋を応需する機会も多い。患者と接する時には日常生活まで踏み込んで話を聞き、必要に応じて、漢方や薬膳の観点から体質に応じた食事などを説明する。それがきっかけになって話は広がる。「患者さんから聞いてくださることを増やしたい。何か困った時に立ち寄ってもらえるようになりたい」。近年は切り絵作家としても患者に知られるようになり、親しみを感じてもらえているという。

仕事しているからこそ意欲湧く

薬局薬剤師の仕事も重視している

薬局薬剤師の仕事も重視している

 社会的な認知度が高まるにつれて「切り絵作家だけに専念しないのか」とも聞かれるが、今後も二刀流を続ける考えだ。「仕事をしているからこそ、切り絵への意欲が湧くこともある。制限を受けずに自由に創作できる」と石賀さん。「薬剤師としての時間、自分のしたいことをする時間、全然別のことに見えても、そこで得た経験はそれぞれどこかで生かされる」と語る。

 薬学生にも「ある道を選んだためにしたいことができない、と考えるのではなく、自分がしたいことは何であれ1回はやってみてほしい。続けられることがあれば、仕事をしながらでも楽しめる」と呼びかける。

 現在、切り絵のペンダントやイヤリング、切り絵を版にして染色するスカーフなど、幅を広げる取り組みにも挑戦中だ。金属加工での活用を想定して、携帯端末画面でデジタル的に原画を描くことも試行している。

 今年10月29日からは1週間、2回目の個展を大阪市のホテルモントレ ラ・スール大阪で開く。将来はニューヨークでの個展開催が夢だ。「完成図を想像せずに原画を描いている。同じように、これから進む道もどうなるのか分からない。国が変わると切り絵の見方も変わると思う。刺激を受けることで、自分の作品がどう変わっていくのかを楽しんでいきたい」と前を向く。



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