感染症に強い薬剤師目指す
国立国際医療研究センター(NCGM)病院薬剤部(東京都新宿区)に勤務する茂野絢子さんは、常勤職員1年目ながら、ICU病棟の担当薬剤師を務めている。他職種と協力して患者にベストな医療の提供を探りつつ、同病院が感染症対応に注力していることから、使用する抗菌薬の見直しを通じて薬剤耐性菌の蔓延を防止するなど、感染症に精通した薬剤師を目指して研鑽を積む日々を送っている。
茂野さんは東京理科大学薬学部薬学科を卒業後、2016年に同病院に薬剤師レジデントとして入職。2年間のレジデント生活を経て、今年4月から常勤職員として勤務している。
同病院は総合診療部門に加え、国際感染症センター、エイズ治療・研究開発センターなどを有していることから、薬剤部では感染症に関する高い専門性を持つ薬剤師を育成するため、感染症対応に重点を置いたレジデント制度を導入している。
常勤職員1年目の茂野さんはICU病棟をメインに担当しているが、抗菌薬適正使用支援チーム(AST)と感染制御チーム(ICT)のメンバーも兼務する。ASTでは、不適切な抗菌薬の使用によって耐性菌が増殖することを避けるため、採用する抗菌薬の定期的な見直しや他施設との情報共有などを通じて適切な抗菌薬の使用を管理、支援している。またICTでは、AMR対策の一環として院内感染を防ぐため、院内全体の感染動向の早期把握や感染管理を行っている。
毎朝8時前に出勤し、入院患者の情報確認や業務に関する準備を行った後、8時半から業務を始める。9時~9時半まで医師、看護師、作業療法士など他職種を交えたカンファレンスを行い、ASTへの参画の日には10~11時半までASTの業務、12~13時まで外来患者に対する薬剤の受け渡しを行っている。午後は14~15時まで、手術で入院予定の患者と面談を行う入退院支援センターの業務、15時からはカルテチェックや処方漏れの確認などの病棟業務を行い、17時15分に業務を終える。
茂野さんは「ICU病棟では重症患者が多いため、早期に薬剤の説明をすることで患者さんから感謝の言葉をいただくこともありますが、本人やご家族が状況を受け止めきれていない場合、患者さんの状態によって判断し、敢えて説明を遅らせる場合もあります」と語る。
現在のICU病棟の担当薬剤師が茂野さんのみということもあり、責任の重さを実感する日々を送る。患者の入れ替わりが激しく、他職種と頻繁にコミュニケーションを取る必要もあるが、頼られる機会が増えているという。「気軽に質問されるようになってきているので、他職種との勉強会などで存在意義を感じています」と自信を深めている。
当面の目標として、茂野さんは「自分から能動的に介入したり、情報提供していきたいです」と意欲を語る。さらに研鑽を積んだ上で、感染制御認定薬剤師や抗菌化学療法認定薬剤師などの資格取得も目指している。
もともと、医療分野に興味を持っていた茂野さんだが、知人の病気がきっかけで薬に関心を持ち、高校2年生の頃に薬剤師を志望した。大学では周囲の影響もあり、メーカーに興味を持った時期もあったが、「患者さんと直接関わりたい」という思いから、薬剤師として医療現場に携わることを決心。チーム医療で患者に貢献したいとの考えから、病院勤務を検討し、結核をはじめとした感染症に関する研究を進める中で、感染症領域を究めたいと考え、具体的な就職先を絞り始めた。5年生の春に参加したセミナーで、同病院のレジデントから職場に関する話を聞き、実際に見学して雰囲気の良さが決め手となった。
学生時代は塾講師やカフェのスタッフなど、対面で人に接する機会が多いアルバイトに励んだ茂野さん。他職種との情報交換の際に、相手の名前を呼ぶことで距離を縮めてコミュニケーションを円滑にするなど、学生時代の経験が現在の業務に生きている。
病院薬剤師として患者に貢献する目標を持ち続けていた茂野さんだが、「進路が定まっていても、他の職業が何をやっているか学ぶ機会はそんなにないので、いろいろな人から話を聞いた方が良いと思います」と、薬学生にアドバイスを送る。「薬局で働きたい人は、患者さんが病院でどのように受診しているか、病院薬剤師がどう関わっているかなどを知っているのと知らないのとでは患者さんとの関わり方が変わってきます。興味がある分野だけでなく、興味がない分野にも耳を傾け、自分の可能性を狭めないことが大事です」と、エールを送った。