粘り強く医師との関係築く
アッヴィ日本法人で免疫領域の専任MRとして活躍している吉村拓音さんは、同社で働き始めて3年目を迎えようとしている。大学5年時の実務実習で、病院に訪問していたMRとの出会いをきっかけにMR職に関心を持ち、進路を変えることになった。
「薬学部の薬剤師コースを専攻しており、5年生の12月までは薬剤師になるつもりで、就職活動を全く行っていなかった」と自身の学生時代を振り返る。その翌年の1月から就職活動を始め、アッヴィの会社説明会に参加。選考が進むにつれ、社内の雰囲気が自分が働きたい職場のイメージと合致していたことや、アッヴィが掲げる「患者さんのために」という企業理念に感銘を受けて応募、縁あって採用された。
2017年4月に入社し、現在はイミュノロジー営業部にて、新宿区の二つの病院と大学病院を担当している。
吉村さんのMRとしての1日は、午前8時45分に出社後の内勤業務から始まる。メールチェック、資材管理、面談の準備などが主な業務だ。この時間は、吉村さんが所属するチームのメンバーと顔を合わせて話ができる貴重なひと時だ。
午前11時、内勤業務を終えた吉村さんは、訪問先への移動中に早めの昼食をとる。MRの1日のスケジュールは、日によって異なるため、自己管理能力が求められる。
12時30分に医薬品の最新情報を提供するため新宿区の病院を訪問。午前の外来が終了したタイミングをうかがい、医師と面談を行う。その後、看護師とも面談し、医薬品の使用状況と、患者向けの適正使用をサポートする資材などが不足していないかをチェックする。
吉村さんと医師の面談時間は、基本的に15~20分。医師が必要としている情報を迅速に届けるためにも、「専門領域外の情報も常に提供することを心がけている」と吉村さんは言う。担当している自社製品は、様々な適応症を持つ医薬品であり、自分が扱っている医薬品の価値を最大限に活用するため、適応ごとに知識を身につけている。
午後3時、医師と研究会の企画の相談を行うため、あらかじめアポイントを取っていた大学病院を訪問。医師によって面談のスタイルは様々であり、結論から話すことを好む医師、雑談から入るのを好む医師など、対応を合わせることが必要だ。
その後、午後5時にもう一つの担当病院を訪問し、医師に講演会の案内を行う。この日は午後6時30分に業務を終了した。MR活動は医師からの信頼感が土台になる。「医師との関係性を深めるためには、長い期間が必要になり、MRはその時々において臨機応変に対応することが求められる」と吉村さん。状況に応じた情報提供活動の重要性を感じながら、業務に当たっている。
吉村さんが「医師との信頼関係を築くためには半年はかかる」と語るのには、MRに配属されて間もない新人MR時代の経験に基づいている。入社後約5カ月の研修期間を経て、現場に配属されたが、研修内容と実際の現場で大きな乖離があり、うまく対応できなかった経験だ。
研修では、面談時間15分のアポイントを取った前提でのロールプレイが多く、ゆとりを持った形で医薬品の情報提供活動を行うトレーニングを積んでいた。しかし、いざ現場に入り、担当している大学病院を訪問すると、想定外の場面に遭遇した。
短時間で情報提供を行わなければならなかったり、医師と通路を走りながら話をすることもあった。時間は約10秒で、これでは研修で学んだことが生かせない。面談時間を確保しようにも、医師との信頼関係はほとんどない状況で、「どうしたら研修で学んだことを現場で生かすことができるのか」と壁にぶつかった。
医師との間で信頼関係が築くことができず、MRとしての役割を果たせない現状に悩む中、上司に悩みを打ち明けた。そこで「最初できないのは当たり前。まずは、とにかく毎日顔を出して、先生に顔を覚えてもらいなさい」と助言を受けた。
助言を受けてから、吉村さんは毎日大学病院へ通い、信頼関係を構築するための第一歩として、積極的にあいさつするコミュニケーションに力を入れた。活動を継続して2カ月経ったある日、医師から「また今日も君来てるね」と声をかけてもらえるようになり、MRとして情報提供する機会を得ることができた。「それからは、医師が足を止めて自分の言葉に耳を傾けてくれるようになり、面談の約束を取り付けることができた。この経験があるからこそ、自分は新人時代を乗り越えることができた」と振り返る。
薬学生に向けては「就職活動を経験すると、薬剤師以外の世界がいろいろと広がります。自分が就きたい職業が見つかるかもしれないので、就職活動を行い、それを体験した上で、自分の将来を決断したほうがいいと思います」とアドバイスを送る。