薬学生と獣医学生、共に6年間大学に通い医療の道に進む学生ですが、対象とする患者さんは全く異なります。今回は日本獣医学生協会(JAVS)の山内はる奏さん(東京農工大学農学部共同獣医学科3年)、藤本咲さん(日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科2年)、中村圭吾さん(日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科3年)の3人と、お互いの将来について語りました。(日本薬学生連盟2019年度広報統括理事=明治薬科大学薬学部生命創薬科学科2年・小倉由未佳、東邦大学薬学部薬学科2年・小林幸恵)
獣医学、薬学の道を目指した理由
小林(薬) みなさんはなぜ獣医学部を目指したのですか?
山内(獣) 小学2年生から飼っている犬が高校受験の時に歳を重ねてきて、病気がちになってくるかなという時期で、愛犬を助けられなかったら将来後悔するな、と思って獣医学部を目指すことにしました。
中村(獣) 私もきっかけは似ていて、小学4年生の時に飼っていた犬が死んでしまって、その時自分は何もできなくて、何かできなかったのかなと思って獣医を目指そうと思いました。
藤本(獣) 私は全然違います。母が薬剤師で姉が薬学生なので、医療が身近にありました。それに私が東洋医学に興味があって、獣医と東洋医学の連携ってあまり例がないので何かできたらなと思って目指しました。
小林(薬) 私は入る前は単純に、資格が欲しいと思って。私のまわりの人たちが資格に助けられていたことが多くて、将来は資格があった方が良いと思って入りました。でも入ったら入ったですごい大変で。どうにかモチベーションを維持しようと思ってこうやって活動していくうちに、薬学の広さとか楽しさを知って、後から良さを知った感じですね。
小倉(薬) 私はもともと看護師を目指していたんですけど、高校生の時に処方された薬があまりにもまずくて、薬の味や剤形を変えられたらと思い、その時に薬学部を受験しようと決めました。薬学部は親が薬剤師だから自分も目指したという人が結構いますが、獣医学部はどうですか?
山内(獣) 親が獣医だからという人はそんなにいないかな…私立と国公立でまた違うかもしれないですけど、私の大学では見かけないです。動物が好きな人が目指す職業というイメージで、本当に動物が好きな人が多いです。
中村(獣) 私立だと、親が獣医という人、それから医師という人も意外と多いです。学年の約2割がそうかな…自分の周りはそういった感じです。
小倉(薬) 獣医学部を目指す方って動物が好きなイメージがありますが、みなさん動物は好きですか?
中村(獣) 好きです。確かに嫌いな人はいないと思います。
山内(獣) そうですね、ただ小さい動物と大きい動物で結構分かれる気がします。私の中では薬学部というと、記号が書けます、構造式がすぐでてきますというイメージで、化学が大好きな人たちというイメージがあります。
小林(薬) 化学大好きだったらよかったなぁ(笑)
中村(獣) 私は薬局の薬剤師になることを夢に頑張っているのかなと思います。いちばん思いつくのが薬局ですね。
小林(薬) 薬学部はどういう職に就くのか、他に何か思いつきますか?
中村(獣) 病院で働く人と薬局で働く人がいるということは聞いたことがあります。他のお仕事はちょっと思いつかないです。
小倉(薬) 薬剤師の資格を取っても薬剤師ではなく、MRや麻薬取締官として働く人もいます。
小林(薬) 行政で働く人もいますね。薬学部は将来就く職業の幅は広いけど、習う科目のジャンルが多いのは獣医学部な気がします。
小倉(薬) 獣医学部で勉強していて大変な科目とかありますか?
中村(獣) 内科が結構大変です。私の大学は内科は再試験をやらないので。再試験があるかないかは結構大事(笑)
小倉(薬) 内科は薬学部ではやらないので全く分かりませんが、薬学部だと解剖学にあたる科目でしょうか…解剖学もありますか?
山内(獣) あります。私の大学では解剖学は犬1匹を1年間かけて見尽くすという感じです。
中村(獣) 私たちは犬基準で解剖学を広げていきますが、地方だと牛基準になります。薬学部はお薬の処方の勉強をずっとされてそうじゃないですか、調剤の勉強とか。
小倉(薬) 調剤もですが、実習でも細かい作業が多いです。獣医学部は実験はありますか?
中村(獣) 実験ばかりな感じです。先週は微生物学で今週は薬理学実習ですね。
小林(薬) 獣医学部の薬理学実習はどのようなことされているんですか?
中村(獣) ラットに鎮静薬と局所麻酔薬と…って五つぐらい薬を入れてどういう行動の違いがあるのか見て、入れた薬は分からないので行動の様子とかを見てどの薬かを同定するというのを今はやっています。
小倉(薬) 私たちは薬が分かっている状態で、投与したあとのマウスの行動を観察します。人間の薬の管理は薬剤師が行いますが、動物の薬の管理は獣医の業務なんですか?
中村(獣) そうですね。
小林(薬) 動物用の薬の数って少ないんですか?
山内(獣) 人間よりは少ないかな…人間からおろしてきて使えるものを決めているので、人間からおりてくるまで使えないという感じです。動物用に開発されることはないので、おりてくるまでのスパンが長いと、人間には使えるのに動物には使えないみたいなことになります。
人も動物も同じ患者さん
小倉(薬) 将来、薬学部の人に動物用の医薬品を開発してほしいとか、どう連携したいとか、ありますか?
中村(獣) 人と動物の薬の専門家という人がいたら、とても素晴らしいなって思っています。
小倉(薬) 私も動物専門の薬剤師がいたり、薬局があったりしたらいいなと思います。病院でもらうのではなく、薬局でペットの体調について飼い主の方に聞いたり、1対1で会話できる時間があればいいなと思います。
中村(獣) きっと、ペットも薬をまずいと感じて飲めなかったということがあると思うんですよね。でも、だいたい無理やり口に入れて飲まさせてしまうケースが多くて。そこで、飲みやすさを追求できていたら、もっと治療がスムーズにいったりするかもしれないと思いますね。
小林(薬) 人間って生物の中の一種じゃないですか、でも動物というとものすごい数の種類があるから、むしろ研究や開発をするならそちらの方が良い気がするんですけどね。
山内(獣) 市場がかなり小さくて、小動物臨床となるとさらに小さくなりますし。どんどん小動物の市場が小さくなっていく中で獣医学生はどのように広げていくかを考えています。
中村(獣) 獣医学って農学系の中の一つなんですよね。だから農業の中の獣医師だったら家畜も一つひとつを治すのではなくて、感染症が広がらないように病気にかかったら殺す、という感じが普通です。
小倉(薬) 感染症だと薬学も協力できそうですね。私は感染症という部分での協力について全く思いつかなかったんですけど、いちばん現実的というか実現しやすいというか…講義で感染症について学ぶ機会もありますし、ありだなって思います。
対談を終えて
藤本(獣) 獣医療の中で小動物のために薬剤師を割くのはどうなんだろう…確かに小動物のためにはなるかもしれないけれど、もっと感染症とか他のところで連携できたら動物のためにも人間のためにもなるのかなって思いました。
中村(獣) 動物の栄養学とか獣医なら分かるでしょ?と言われたりしますが、多少は学びますけど、実際は社会に出てから患者さんに聞かれて勉強するような感じなので、学生のうちに勉強する内容は結構薄くて…だから動物の栄養士がいても良いと思うし、そういう並びで薬剤師がいても良いのかなって思います。動物と共生できる環境をつくっていくメンバーとしていてくれたらうれしいです。