【これから『薬』の話をしよう】健康意識は服薬で変化するのか

2020年9月1日 (火)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 病気と診断され、薬を飲み始めることによって変化しうる健康状態について、病態生理学や薬理学など、生物・医学的視点から考察することは大切です。しかしながら、それだけで十分かと言えば必ずしもそうではありません。前回、前々回と禁煙補助薬を取り上げ、その治療効果は薬による薬理学的な作用だけでなく、治療を受ける本人の関心や他者との関わり、つまり社会・心理的な影響も軽視できないというお話をしました。

 服薬という行為に付随する健康への影響を考察する上で、興味深い研究(PMID:32019405)が報告されています。この研究はフィンランド在住の4万1225人を対象に行われたもので、慢性疾患用薬の服用開始に関連して、生活習慣がどう変化するのかを検討しています。

 解析の結果、降圧薬またはスタチン系薬剤の服用を開始した人では、服用を開始していない人と比べて、BMI(体格指数)の増加、身体活動量の低下、肥満リスクの増加が示されました。他方で、飲酒量や喫煙者の割合は減少しました。

 この関連性に因果関係があるかどうかについては議論の余地がありますが、「薬を飲んでいるから少々の食べ過ぎは許容範囲、でも飲酒や喫煙は健康のリスク」というような認識が強まったのかもしれません。

 また、韓国在住の1万4655人を対象に、糖尿病の診断と健康管理への影響を検討した研究(PMID:29997134)では、糖尿病と診断された人はそうでない人に比べて、運動不足の人が少なく、大腸癌検診を受ける可能性が高く、インフルエンザワクチンの接種者が多いという結果でした。糖尿病の診断をきっかけに健康への関心が高まったといえるかもしれません。

 病気と診断されることや薬を飲み始めることは、生活レベルにおいて小さくない変化をもたらします。その影響は、薬による薬理学的な効果とは完全に独立したものであり、薬の効果を考える際には、生物学的レベルでの変化に加えて、生活レベルでの変化も考慮に入れる必要があります。

 病気の要因を遺伝的要因(先天的要因)、環境的要因(後天的要因)に分けたとき、薬理作用に基づく純粋な薬の効果によってリスクを修正できるのは、環境的要因の中のほんの一部に過ぎないことに留意しておくと、より多面的な臨床判断が可能となるように思います。



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