製薬業界は大きな転換期を迎えている。医薬品の価格を引き下げる薬価改定が今年4月から毎年実施されることになり、製薬企業の業績にも大きな打撃を与えそうだ。その一方、有効な治療法がない疾患領域で効果が期待できる革新的な医薬品については、改正医薬品医療機器等法のもと、条件付き早期承認や先駆的医薬品が位置づけられ、通常審査期間より早期に承認される枠組みが定着した。新薬開発にとどまらず、予防・未病分野にも進出し、全世界で革新的なソリューションを事業展開できる企業が今後の成長株になりそうだ。
医療用医薬品を製造販売する製薬企業の事業モデルは、ハイリスク・ハイリターン型と呼ばれている。新薬の開発成功確率は約3万化合物のうち一つと極めて難易度が高く、一つの新薬を創出するのに必要な開発費用は約26億ドルと高騰している。新薬を開発した企業がきちんと販売後に投資を回収できるように、新薬の有効成分には一定期間独占的に販売できる特許期間が設けられている。そのため、これまでは製薬企業は特許期間中に得られた利益を次の医薬品の開発費用に投じることができた。
しかし、日本の医療費が約40兆円に膨らむ中、近年は医療費削減に充てる財源として薬価の引き下げを行うようになっている。国は、薬価と医療機関が医薬品卸から納入する際の実勢価格にはズレが生じるため、乖離幅を調べる薬価調査を実施している。できるだけ実勢価格に近づけるため、これまでは2年に1度の頻度で薬価改定を実施していたが、今年4月からは実質的な毎年薬価改定が実施されることになった。
当初、今回の薬価改定は乖離が大きい品目に絞って小規模に行われる予定だったが、全体の約7割となる約1万2000品目が引き下げの対象となった。
医薬品調査会社のIQVIAによると、日本の医療用医薬品市場は2025年度まで緩やかにマイナス成長となる見通しで、毎年薬価改定による影響は大きいと見られている。従来、日本市場の売上比率が高い企業が多かったが、他社買収を通じて世界市場での販路を構築するなど国際展開へと動き出している。大手企業の中では日本の売上比率が約2割まで低下する企業もある。
今後、国際的に需要が高い新薬の開発が至上命題となるだろう。昨年9月に施行された薬機法の一部改正省令では、世界に先駆けて日本で上市された医薬品が先駆的医薬品として位置づけられるなど、革新的医薬品の早期承認が確実なものになった。
一方で、将来の成長が保証されづらい事業の不確実性が高まり、新たな事業選択肢を検討する企業も登場している。ゲームやICTに強い企業と手を組み、アプリケーションやVR(仮想現実)で病気を治す新たな治療法、病気にさせない予防法の開発に挑む動きも見られている。既存の事業モデルからの脱却に各社が努力しているようだ。
新型コロナウイルス感染症の拡大で製薬企業と医療機関の接点は対面から非対面へと変化している。新型コロナ終息後もこれまで以上にデジタル化を進めていくことが社会的に要請されるようになる。地域ごとで異なる医療課題を解決していくために何をすべきか、そこでデジタル的な手法をどう活用していくか、現場の発想がより大事になってくる。新薬開発、国際化、デジタル化の三つの軸で製薬企業の研究をしてみると良いかもしれない。