【医学アカデミー薬学ゼミナール】第107回薬剤師国家試験に向けて‐第106回薬剤師国家試験を振り返る

2021年5月1日 (土)

薬学生新聞

学校法人医学アカデミー薬学ゼミナール学長
木暮 喜久子

木暮喜久子氏

 2021年2月20、21日の両日に実施された第106回薬剤師国家試験(国試)は、改訂薬学教育モデルコア・カリキュラム(改訂コア・カリ)に準拠した「新出題基準」での初めての国試でした。表1に示すように受験者総数は第105回国試から若干減少して14031人、総合格者数も若干減少し9634人(第105回9958人)でした。総合格率は68.66%で、第105回(69.58%)とほぼ同じです。6年制新卒の合格率は85.55%(合格者数7452人)で第105回(84.78%)、第104回(85.50%)とほぼ同程度、6年制既卒の合格率は41.29%(合格者数2079人)で、第104回(43.07%)、第105回(42.67%)と低下し続けています。

 第106回国試の受験者は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、学修環境が整わない状況で不安を感じながらの受験でした。上記のように新卒での合格率は既卒より高いことから、第107回国試を受験される6年生の皆さんは、新卒での合格を目指してなるべく早く勉強をスタートさせてください。国試合格のためには、参考書の活用が必須です。受験生の約95%が使用している青本やオンライン教室などの学修ツール(青本参考:https://www.yakuzemi.ac.jp/reference、ICT教育室参考:https://www.yakuzemi.ac.jp/online)をお勧めします。

 表2に示すように、国試は345問で出題されます。国試の合格基準は、第101回より絶対基準から相対基準となり、当面の間は全問題への配点の65%以上という基準も考慮されていましたが、第106回からは完全に相対基準となりました。必須問題には、足切りといわれる最低限得点しなければならない配点が定められているため、注意が必要です。また、第104回から禁忌肢※が加味されています。

 第106回の合格ラインは、1問解なしで採点除外とされた(問320は採点対象から除外)ため、全問題の得点が62.5%(344点換算で215点)で、近年の国試では第105回国試に次いで低い合格ライン(345点換算で第105回213点、第104回225点)となりました。

 また、「禁忌肢選択数2問以下」でしたが、薬ゼミの分析によると第106回の合格者数に禁忌肢による大きな影響はなかったと思われます。また、必須問題での足切りも影響は少なかったと思われます。

参考:国試合格基準

 以下のすべてを満たすことを合格基準とすること。なお、禁忌肢※の選択状況を加味する。

 [1]問題の難易を補正して得た総得点について、平均点と標準偏差を用いた相対基準により設定した得点以上であること。

 [2]必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上であること。

 補足)通常、345問を1問2点で配点し690点満点として採点される。

 ※「禁忌肢」は、第104回から加味されることになりました。公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容、倫理的に誤った内容、患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容、法律に抵触する内容等であり、誤った知識を持った受験者が識別されます。受験者は、禁忌肢導入の意義を理解し、6年間の薬学教育の中で医療人としての倫理観を養っていくことが重要です。

第106回薬剤師国家試験を振り返って

 薬ゼミの自己採点システムは、表1のように第106回国試受験者総数が14031人のなか、12233人に登録していただいています。第106回国試自己採点システムの結果では、第104回、第105回に比較し正答率が60%を超える問題数は225問と少なく(第105回は20問程度減少、第106回はさらに3問減少)、「基礎力」に加え「考える力」「現場での実践力」等を必要とする難易度の高い問題が増加していました。しかし、第106回国試の合格ラインは215点でしたので、しっかりと得点できる基本的な問題をおさえることが大切です。また、実践問題を中心に多くの疾患名や検査値が与えられた中から必要な情報をピックアップして回答する問題が多くなっていることから「問題解決能力」や「臨床能力」を持つ6年制薬学部卒の薬剤師に対する期待を感じさせる傾向であったと思います。

第106回薬剤師国家試験の総評と第107回に向かって

 薬ゼミ自己採点システムによる第106回国試の平均点は、表3のように第105回に比べて合計で1.2点増加、理論問題は第105回よりわずかに低下、必須問題と実践問題は第105回よりわずかに増加しています。第106回国試の領域別正答率(表4)では、例年難易度の高い理論問題の「物理・化学・生物」の正答率が低く、同様に「薬剤」も低い正答率でした。実践問題では、第105回同様「物理・化学」の正答率が低く、昨年度は60%を超えていた「薬剤」も低い正答率でした。

 第106回国試では、自己採点システムの結果(表4)によると必須問題の難易度が低下したため、足切り(表2)にかかった受験生は少なかったと思います。第107回も基礎的なことが多く出題される必須問題でしっかり得点できるようにしましょう。

 既出問題の出題は全体の20%くらいとされ、単なる正答の暗記による解答が行われないように、問題の趣旨が変わらない範囲で設問および解答肢などを工夫することになっています。第106回には第105回同様そのままの再出題はありませんでした。近年の既出問題を解くことは傾向をつかむために重要ですが、正答を丸暗記するのでなく、参考書などで周辺の知識もしっかり学修しなければ得点できません。既出問題を理解して解くことが得点につながります。最低でも過去7年分の既出問題を理解しながら学修しましょう。

 実務実習での体験を国試の勉強につなげることは非常に大切です。改訂コア・カリにより、長期実務実習中に必ず体験してほしいとされる「代表的な8疾患※1」は、実践問題を中心にその疾患に関わる内容が多く出題されています。特に癌、感染症の出題が多い傾向が続いています。

 ※1 「代表的な8疾患」:癌、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症(薬学実務実習に関するガイドライン 2015年2月 文部科学省)

薬剤師国家試験の概略と第107回に向けての対策

 国試は、必須問題(90問)と一般問題(255問)の合計345題で出題されます。出題試験領域は「物理・化学・生物」「衛生」「薬理」「薬剤」「病態・薬物治療」「法規・制度・倫理」「実務」の7領域です。試験は、領域別に行うのではなく、薬学全領域を出題の対象として、「必須問題」と「一般問題」とに分け、さらに一般問題を「薬学理論問題」と「薬学実践問題」とした3区分で行われます(表2)。それぞれの試験区分について、第106回の傾向と第107回に向けての対策を記載します。

 「必須問題」は、全領域で出題され、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確認する問題であり、共用試験と同様の五肢択一の問題です。また「必須問題」は、一般問題に比べて比較的正答率が高い問題が多く得点源です。「必須問題」は、80~90%の得点率を目指して勉強してください。第106回ではかろうじて正答率60%を超えていました(表4参照)が、第105回、第104回の「物理」の正答率は、必須問題の中では他科目と比較して低い傾向が続いています。ただし、物理は「物理・化学・生物」として区分されるため、足きりに該当する受験者はほぼいないと予想されます。

 一般問題の「薬学理論問題」は「実務」を除く全科目で出題され、6年間で学んだ薬学理論に基づいた内容の問題であり、難易度は必須問題より高く、第106回も難易度の高い問題が多く出題されていました。また、第105回同様「化学」「生物」「衛生」との3連問(ビタミンKに関する問題)が出題され、科目の壁を越えた知識の習得が求められています。「薬理」と「病態・薬物治療」の連問は第104回、第105回の3題から4題へ増加しており、改訂コア・カリを意識した出題でした。この傾向は第107回以降でも変わらず、各科目で学修した知識を医療につなげるための総合的な職能として発揮できることが期待されていると思われます。

 一般問題の「薬学実践問題」は、「実務」のみの単問と「実務」とそれ以外の科目とを関連させた連問形式の「複合問題」からなっています。「複合問題」は、症例や事例、処方箋を挙げて臨床の現場で薬剤師が直面する問題を解釈・解決するための資質を問う問題で、実践力・総合力を確認する出題です。実際の解答に影響する疾患以外も多くの疾患名が列挙され、しっかり読み進めなければ、惑わされてしまう症例・処方問題が多く出題されており、臨床で複数の合併症を有する患者に対応する実践力が問われる内容でした。

 国試は2日間で実施され、「必須問題」は1問1分、「一般問題」は1問2.5分で解くとされています。時間配分を考えて、難易度の高い問題を飛ばし、解きやすい問題から解くのもよいでしょう。その際は、マークシートの記入ミスには十分に注意してください。また、禁忌肢が導入されたことを意識し、読まずにマークしたり、マークミスをしたりしないよう注意が必要です。

 科目の壁を越えた知識の習得は重要です。近年、理論での連問(例えば、「薬理」と「病態・薬物治療」の連問など)が出題されていますし、一つの問題の選択肢に複数の科目の知識が必要な問題が多くなっています。国試の傾向をとらえながら、青本などの参考書を用い基礎を身につけ、沢山の問題に触れ応用力をつけましょう。

科目別の第107回薬剤師国家試験対策

 物理では、既出問題のキーワードを暗記するだけでなく、理解して解き、出題されている内容を応用できるようにする必要があります。臨床現場で直面する現象の物理的な要因の理解、臨床検査の分析技術の原理の理解など、実践問題につなげる学修も大切です。

 化学では、化合物の構造およびその名称、立体化学などの基礎知識、化合物の物性および基本的反応などの基礎は早い段階でしっかりおさえた上で、生体成分への応用的な反応を学修し、実践問題に向けて備えましょう。

 生物では、模式図や実験から情報を読み取る力が必要とされています。より多くの例題(既出問題や模試問題)で演習して力を付けましょう。

 衛生では、ニュースや新聞などからも最新情報を入手し、医療にかかわる事例については、知らなかった用語をリサーチするなど参考書だけではなく視野を広げて学修しましょう。

 薬理では、出題頻度の高い薬物の作用機序や薬理作用をしっかり学修し、特に実務実習で目にした臨床で重要な薬物を中心に、実践問題につなげられるようにしましょう。患者の症状、検査値、併用薬の情報を総合的に把握し、個々の患者に適切な薬物治療が提案できるようにしておきましょう。

 薬剤では、既出問題の知識を暗記するだけではなく、理解・活用できることが求められています。処方変更が薬剤に関係する内容を思い出し、添付文書の情報を薬剤の知識につなげられるようにしましょう。

 病態・薬物治療では、症例を解読できるようにするため検査値の把握は必須です。情報・検定は、第106回では基本的な内容の出題が多かったため、既出問題の理解から学修をはじめましょう。新出題基準からの項目である漢方や遺伝子診断などもおさえておきましょう。

 法規・制度・倫理では、今後も満遍なく、薬剤師として必要な事項が繰り返し出題されると予想されます。例えば、地域包括ケアシステムや健康サポート薬局のような、今後の日本を支えていく仕組みの定義・要件や薬剤師との関わりに注目して学修しましょう。

 実務では、情報活用問題(イラスト問題、患者情報、医薬品情報など)や臨床で必要とされる計算問題、感染症、癌に関連する問題は今後も出題されると予想されます。国試の勉強でも、実務実習での経験を思い出しつなげて学修していきましょう。



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