神戸市立医療センター中央市民病院
薬剤部 藤田 拓俊さん
薬剤師レジデント 今子 千鶴さん
“薬剤師レジデント制度”という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。レジデントとは研修医という意味であり、医師では公的な卒後初期研修の枠組みとして位置づけられています。薬剤師の世界でも、医師の制度を目標に独自のレジデント制度を導入する病院が増えており、現在全国に30施設ほどあります。今回は、神戸市立医療センター中央市民病院の薬剤師レジデント制度を修了し同院で働いている藤田拓俊さんと、同院で薬剤師レジデント2年目を迎えた今子千鶴さんに、日本薬学生連盟広報部の山沢智(日本薬科大学)、百瀬真梨(名城大学薬学部)が聞き手となって、レジデントに進んだ理由や魅力などをうかがいました。
――藤田さんが薬剤師レジデントを目指したきっかけや理由を教えてください。
藤田 幅広い知識や経験を身につけるために、ある程度規模が大きく、幅広い診療科がある病院に就職したいと思っていました。大規模病院では通常、最初の1~2年目は調剤室のセントラル業務が主で、3年目くらいから病棟に出て行く場合が多いと聞いていました。できれば早いうちから病棟等の様々な経験をしたいと考え、薬剤師レジデントであれば、明確な教育プログラムがあり、早いうちから経験を積めると思って選びました。
――薬剤師レジデント制度の存在を知ったのはいつ頃ですか。
藤田 私が卒業した神戸薬科大学には、神戸大学との薬剤師レジデントの連携プログラムがありました。いつ頃かは覚えていないですが、大学の先生から就職に関するお話があり、薬剤師レジデントについて考えるようになりました。
――今子さんが薬剤師レジデントを目指した理由を聞かせてください。
今子 私が初めて薬剤師レジデントの存在を知ったのは、広島大学薬学部6年生で、就職活動を始めた時でした。実務実習を地元広島で受けた際に救急病棟に興味を持ち、救急に力を入れている病院を調べたところ、神戸市立医療センター中央市民病院が厚生労働省の発表している全国救命救急センター評価で7年連続で1位を取り続けていることを知り、さらに調べるうちに、薬剤師レジデント制度を知りました。
救急病棟や集中医療に興味はありましたが、高い能力が要求される救急分野において自分がきちんとやっていけるのかという不安がありました。当院のレジデント制度では、自分の興味がある分野の病棟を選択して業務を経験できるほか、様々な部署や業務を幅広く経験できます。もし自分にその分野が向いていない場合に他の可能性を探すこともできると思って、薬剤師レジデントとして2年間過ごすことにしました。
――実際に早い段階から救急分野に関わることはできていますか。
今子 1年目はセントラル業務の割合が多く、広く浅くいろんな病棟をまわるという感じです。2年目は1病棟あたり3カ月間の研修を3病棟選択して研修する予定になっていて、4月半ばくらいから救急病棟で研修しています。2年目から救急に関われる病院は、そう多くはないと思います。
病棟研修で患者と面談‐研究発表にも取り組む
――薬剤師レジデントはどのような1日を過ごすのでしょうか。
藤田 調剤室や注射室での業務、あとは病棟研修があります。例えば、病棟研修の時は、朝8時前には来て、初回面談や薬の投与が始まる患者さんの説明のために、話す内容を考えたり下調べしたりといった準備をします。午前中は新しく入院する患者さんが多いので、その方の初回面談をします。アレルギーやサプリメント、副作用歴などを確認します。
午後からは初回面談に加えて、以前指導した患者さんの様子を見に行ってお話を聞いたり、新しくお薬が処方された時には気になっていることがないかなどを確認したりします。病棟のカンファレンスに参加することもあります。
――2年目になると病棟業務が増えるとのことですが、病棟業務というものは1日中病棟に常駐しているのでしょうか。
藤田 病院によって異なりますが、そういうところもあるかと思います。当院でも薬剤師用スペースがある病棟もありますが、そうではない病棟の方が多く、薬剤部で準備してから病棟に上がって業務するというように、薬剤部と病棟を行ったり来たりすることが多いです。
――今子さんの現況を教えてください。
今子 私は今、救急病棟で研修を受けていますので、朝8時前にきて、患者さんがどのような理由で救急病棟に入ってきたのか、どのような治療が行われているのかを確認します。予習が終わり次第、病棟に行って、初回面談や常用薬を確認して電子カルテに入力します。救急病棟ですので急な入院も多く、その都度、常用薬の確認に行くという感じです。
――薬剤師レジデントとして研究にも取り組むのですね。
藤田 当院の薬剤師レジデントは、定期的に開かれる薬剤師レジデントフォーラムで必ず発表することになっており、それに向けて研究します。僕の場合は1、2年目に薬剤師レジデントフォーラムで、それから2年目に別の学会でも発表しました。感染症と抗癌剤に興味がありましたので、1年目は抗菌薬適正使用支援チーム(AST)の活動概要を報告し、2年目はニボルマブに関するテーマで発表しました。
――お仕事をしながら研究するのは大変ではないですか。
藤田 大変だと思います。もちろん無理のない範囲ですが、大体、業務が終わる17時半以降に研究に取り組みました。
――今子さんは研究や発表を経験されましたか。
今子 昨年に1度、当院における抗菌薬の副作用の発生頻度を調べて、薬剤師レジデントフォーラムで発表しました。昨年のテーマをもう少し深めて、このフォーラムや他の学会で発表できたらと考えています。
薬剤部の仕事を全て経験‐業務効率化につなげる
――薬剤師レジデントになったことで、自分が成長できたと思うことや魅力的な経験ができたことがあれば教えてください。
今子 それぞれの期間の長さの違いはありますが、薬剤部のほぼ全ての業務を経験できたことが良いところだと思います。全てを経験したことで、部署間のつながりや把握すべき業務範囲が分かるようになりました。それによって、医師に二重に問い合わせをしないように業務を効率化するなど、薬剤師の仕事を俯瞰的に見ることができるのはとても良かったと思います。
――薬剤師の業務全体を経験するのはなかなかできないことなのでしょうか。
今子 正規職員として入ると、まずはどこかの部署を担当し、そこでの仕事をしっかりできるようになることを優先する場合が多いのではないかなと思います。他部署の方からの話を聞いて、その部署での仕事内容を知ることはできますが、薬剤師レジデントの場合、自分で各部署の業務を経験できるので、各部署で大変なことも分かるようになり、他部署のことも思いやることができるようになると思います。
――薬剤師レジデントに限らず、病院薬剤師としてのやりがいを教えてください。
藤田 僕は、感染症に興味がありましたので、病院に就職しました。医師と協議して感染症の治療を考えるなど、治療に主体的に関われるようになり、貢献できることにやりがいを感じています。
今子 私はまだ2年目で、大きなやりがいを感じられるほど活躍できてはいないと思いますが、昨年、嬉しかった出来事は、患者さんの薬に関する不安を解消できたことです。
その患者さんは皮膚疾患で粘膜もただれている状態で、錠剤が飲みにくいという話をされていました。どれが飲みにくいですかと聞くと、口腔内崩壊錠を示しました。「この薬はお口の中で溶かして飲めますよ」と説明すると、「そうなの!」という感じで嬉しそうというか、ほっとしたというか、そんな表情をされていました。薬の名前を聞き、その場でそう説明できたのは薬剤師ならではと思って、嬉しかったです。
認定・専門資格取得に挑戦‐大学の勉強は業務に役立つ
――話は少し変わりますが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中で、薬剤師がどのように関わっているのか、あまり知られていないように感じています。薬剤師の活躍をお聞きしたいです。
藤田 薬剤師の介入としましては、僕は今、院内の感染制御チームの担当でもありますので、看護師や医師が着用する個人防護服の着用の指導やチェックを毎日行なっています。あとは、当院の場合ですが、医師、薬剤師、看護師、それから事務担当者でチームを組み、入院調整中の患者さんの訪問診療を行って、薬のお渡しや酸素の設置をしています。また、通常の病棟と同じように、医師と協議して、薬の適正使用をチェックしています。その他にも、コロナウイルスワクチンの調製や地域の薬局薬剤師にワクチンの調製方法を指導することもあります。
――お2人は、今後どのように活躍していきたいと考えていますか。
今子 レジデント修了後は、まだ具体的には決めていませんが、学んだことを生かせていけたら嬉しいです。レジデントをやってみて、様々な部署を経験させていただけたので、次の求められた場所で、しっかりと自分の力を使って貢献していけたらいいなと思っています。
藤田 病院薬剤師としての経験年数はまだ浅いこともあって、認定薬剤師や専門薬剤師の資格を取れていないので、知識や経験をもっと積んで資格を取りたいです。あと、もう一つは、抗菌薬の変更や追加などに関して、現在でも感染症科の医師あるいは臨床検査技師と話すことはありますが、薬剤師的な介入が十分できていないかもしれませんので、薬剤師ならではの視点でさらに介入していけたらと思います。
――この紙面を見ている薬学生に、学生のうちにやっておいた方がいいことがあればアドバイスをお願いします。
今子 まずは大学で習っている勉強や研究に積極的に取り組んでいくことだと思います。大学の授業で学ぶ基礎的な部分、例えば有機化学や衛生薬学は、病院など臨床分野の薬剤師を目指している人にとっては、本当にこれ役に立つのかなと思う人も中にはいると思いますが、学生の頃に一生懸命学んだことが仕事をしている時にふと出てきて、自分の理解の助けになることがあります。大学でやることは全部、どの業界の職業に就いても生きてくると思うので、得意不得意はありますが、苦手でも苦手なりに、自分なりに一生懸命頑張っていくのが大事です。
藤田 学生の間の勉強で、特に僕が大事だと思うのは薬物動態です。薬理は、薬剤師だけの領域というわけではなく、医師や他の職種の方とも重なる領域ですが、薬剤師の職能を発揮するには薬物動態の知識が重要だと思うことが、就職してから結構多いです。他職種の方から、薬物血中濃度に関することや消失半減期などについて質問を受けることがよくあります。そういうところを踏まえて考えるためには、学生の時から薬物動態をしっかりと勉強していた方が良いと思います。あとは、就職してから忙しくて辛い時もあると思うので、学生の時から趣味を見つけておくと、より充実した生活を送れるのではないでしょうか。