患者目線で幅広く挑戦
南野早芸さんは、大阪府を中心に薬局12店舗などを展開する共和メディカルに転職して6年目になる薬剤師だ。約2年間の店舗勤務を経て本社に異動。現在は店づくりや採用、DX業務などを担当し、週2、3日のペースで薬剤師としても店頭に立つ。「患者さんの表情を見て感じたことを本社の業務にも生かせる」と語る。本社業務を始めた今も最大のやりがいを感じるのは、患者の安心や喜び、笑顔を見られた瞬間だ。
昨年11月のある日。南野さんは8時30分に東大阪市の本社に出社。45分から始まる朝礼と掃除を終えた後、9時から業務を開始した。
この日は、同社に関心を寄せる薬学生とオンライン上で面談。約1時間をかけて会社の事業内容などを説明した。採用活動で出会った学生が入社後に薬剤師として成長していく姿を見られるのもやりがいの一つという。
10時からはSNSで薬局の情報発信の業務を開始し、動画を作成したほか、会社の新しい取り組みなどを発信した。
11時には共同研究を進める国公立大学工学部の学生らと打ち合わせ。情報通信技術(ICT)を医療に役立てるための研究だ。薬剤師と患者の対話にロボットを交えることで、指導内容を記憶に残しやすくできないか、検証を進めている。
12時から13時までの昼休憩を挟んで午後から和歌山市の系列薬局に移動。薬剤師として業務に取り組んだ。不在の店長の代役や新人薬剤師の指導係などとして応援に入ることもあるという。
14時頃、60代の男性が処方箋を持って訪れた。複数疾患を抱え、多数の薬剤を併用するポリファーマシーの状態だった。新人薬剤師が対応したところ、用法用量通りに服用できていないことが分かった。対応に迷う新人を南野さんがサポート。服用薬の一包化を医師に依頼するよう伝え、在宅対応や減薬の必要性なども2人で検討した。
15時には、他店舗の取り組みの好事例を店舗スタッフに伝えた。同社は、患者対応のほか、調剤室の薬剤陳列順や調剤鑑査システムの操作手順といった細かな点まで全社でノウハウを共有している。
夕方以降、この日に店舗で実施した業務内容を事業部長やマネージャーへ報告するため書類などを作成。翌日のスケジュールなどを確認し、18時に退勤した。
南野さんは1998年に大阪薬科大学(現・大阪医科薬科大学)に進学。実家が経営する薬局を間近で見て育ち、薬剤師になろうと考えた。近隣の住民が雑談に訪れたり、一人ひとりに合った漢方薬を紹介したり、密度の濃い患者対応だったという。当時、感じていた時間や空間が南野さんの薬局の原風景だ。
大学を卒業後、患者対応などに生かせる心理学を学びたいと考え、立命館大学大学院応用人間科学研究科(対人援助学領域)に進学。日中はドラッグストアでアルバイト、夜間に大学院に通いながら修了した。
2006年から大阪府内の薬局で働き始めたが、調剤やピッキングなどの対物業務に追われる毎日。様々な診療科、在宅医療など幅広い経験を積める環境ではあったものの、患者対応に時間を割きづらい状況が続き、違和感を覚えるようになった。患者も待ち時間の長さに苛立っているように感じた。
実家の薬局で見た患者はもっと笑顔だった。「患者さんと接する時間を増やしたい」と考え、その思いに理解を示してくれた共和メディカルに16年に転職した。
入社後はしばらく大阪市南部の関西薬局住之江店に勤務。転機となったのは2年目が終わる頃に手がけた待合室の改装だ。「薬以外にも患者さんの気持ちに寄り添えることがある。待ち時間で少しでもリラックスできる空間、入りやすい店舗の雰囲気をつくりたいと考えた」という。この改装を契機に他店舗の改装も手がけるようになり、事業部長から他の業務の依頼を受ける機会も徐々に増えた。3年目からは本社に異動。現在は薬局事業部薬局運営課で働いている。
同社は薬局のほか、ジェネリック医薬品販社や飲食店、訪問看護ステーションの運営など幅広い事業を手がける。社内の他部署と協力してプロジェクトを進めることも多いそうだ。昨年7月から稼働した薬局コンサルティング事業部の業務も一部を南野さんが手がける予定だ。
現在の働く環境を「まずはやってみてと挑戦を後押ししてくれる。経営層とも距離が近く、社員一人ひとりに目を配ってもらえる」と話す。
採用活動で学生と話す機会も多い。「チャレンジ精神にあふれるのはいいこと。ただ、患者さんや地域全体のニーズを把握することも必要」と語る。「患者さんのために自分のスキルをどう生かすか。人を笑顔にできる薬剤師になってほしい」とエールを送る。