【ヒト・シゴト・ライフスタイル】タンザニアでベンチャー起業‐社会課題解決へ、経済誌で評価 Darajapan代表取締役 角田弥央さん

2022年1月1日 (土)

薬学生新聞

角田弥央さん

 30歳未満の才能ある日本人30人を発掘する経済誌フォーブスジャパン主催の企画「30 Under 30 Japan」。スポーツ選手の大谷翔平さん、女優の忽那汐里さんらと並び、社会起業家として選ばれた薬剤師がいる。タンザニアでベンチャー企業「Darajapan」を立ち上げた角田弥央さんだ。エネルギー問題や環境汚染、雇用不足などをビジネスの力で解決しようと現地で奮闘している。「大学生の時に訪れた発展途上国への思い、使命感がモチベーション」と語る。

 角田さんは昨年3月にタンザニアで現地法人を設立。最大の都市ダルエスサラームに拠点を置き、事業を軌道に乗せようと奔走中だ。

 力を入れるのは、バイオマスブリケット事業。食料廃棄物などを再利用して調理用燃料を製造販売する。タンザニアでは、薪や木炭を調理で使用した時に出る煙で健康被害を受ける人が少なくない。有害な煙を出しにくい新しい燃料を開発して、衛生環境の向上につなげる考え。現在も商品開発を進めている段階で、テストマーケティングを経て1~2年以内に発売する計画だ。

ココナッツの皮(右)などを使い、新燃料の開発に挑戦している

ココナッツの皮(右)などを使い、新燃料の開発に挑戦している

 タンザニアで手に入る材料を使い、現地の人が取り組みやすいようほぼ手作業で製造している。ココナッツの皮やイモ類のキャッサバ、食べ残しなどを集めてきて粉砕し、赤土や水で固めて乾燥させる。長さ約50センチの丸太状に仕上げ、必要な量だけコンロやかまどに入れて使ってもらう。有害物質を出しにくく、燃費の良い最適な原料の組み合わせを見つけるため、試行錯誤を続けている。

 月1~2万円ほどと収入が少ない一般層でも購入できるように、薪や木炭などとほぼ同額の1kgあたり500~600円で販売する予定。1kgでおおよそ2~3週間分の燃料をまかなえ、燃費も高まる見込みだ。まずはレストランや屋台をターゲットとし、中長期的には農村地域の一般家庭にも販売を拡大する考え。現地ではガスも販売されているが、価格が高く、低中所得者層にはなかなか手が届かないという。

 競合他社もあるが、食料廃棄物を原料としているのは珍しく、低価格で燃費も引けを取らない。市場で一定のシェアを獲得できれば、億単位の売上も見込めるようだ。事業の拡大に合わせて必要な人員を雇い入れ、現地に雇用を創出する。廃棄物を原料にするため、ごみ問題の解決にも役立つ。

 現在は、バイオマスブリケット事業以外の他の事業で生計を立てている。現地農家の栽培や養鶏、収穫物の販促を支援するほか、タンザニアに進出する日本の中小企業をコンサルティングしている。ビジネスコンテストで資金を調達することにも成功した。

 昨年夏には現地でカフェをオープン。3人の従業員を雇い、農家から取り寄せた野菜や果物などを使ったスムージーやオリジナル商品を販売している。まだ従業員は少ないが、目標の一つである雇用を作り出せたことには手ごたえを感じている。

 地道な活動が評価され、今回で4回目となる30 Under 30 Japanに社会起業家枠で選ばれた。角田さんは「連絡は突然だった。受賞はうれしい反面、まだ結果を残せていない。やるべきことをやっていきたい」と語る。

もやもや感抱いた学生時代‐途上国の貧困解決に使命感

 角田さんは1994年、東京の下町生まれ。挑戦派の父と慎重派の母のもとで育った。自身を「まずはやってみたいタイプ。衝動的な面がある」と分析するが、学生時代は周囲からの評価や社会のしがらみにとらわれ、もやもや感を抱いて過ごしていた。

 2013年に明治薬科大学に進学。「薬剤師になりたい」という強い想いは持っていなかったが、自身の心身の疲弊をきっかけに医療や薬に興味を抱いていたという。

 転機となったのは、大学1年時のインドネシアへの渡航だ。貧困地域を訪れ、大きなカルチャーショックを受けた。「恵まれた環境にない国の存在を初めて自身の目で見て認識した。相対的に世界中の国々と比較すると自分は恵まれた環境で育ってきた。そんな当たり前のことに気付いていなかった。そこから社会課題の解決に役立ちたいという勝手な使命感が生まれた」と振り返る。

 世界の現状を目の当たりにした角田さんは、衛生環境の改善や医療アクセスの整備、雇用創出や人材育成に関心を持つようになった。在学中には、世界各国の薬局や医療施設を現地調査するため、東南アジアやヨーロッパ、中東など多くの地域を訪れた。

 タンザニアとの接点が生まれたのは15年。社会課題をテーマに東京で開催された国際カンファレンスで、アフリカ諸国からの留学生らと出会ったのがきっかけだ。「アフリカは貧しく、国際支援を求めているイメージがあった。しかし、留学生は自分たちで変えていきたいというパッションにあふれていた」と話す。そこからビジネスでその課題を解決したいという思いが生まれた。

 大学5~6年時には、英国留学のほか、エジプトの製薬企業やタンザニア国営貿易企業にインターンシップ。19年の卒業時には、社会勉強も含め人材系の大手ベンチャー企業に就職した。外国人エンジニアや研究者の日本企業への就転職などを仲介する仕事で、法人営業などの経験を積んだ。途上国の雇用創出にもつながると感じ、充実した日々を過ごしていたが、アフリカへの思いは冷めず、個人で関連の仕事を請け負っていた。

 起業を決意して退職したのは20年1月。新型コロナウイルス感染症の流行で計画がずれ込んだものの、現地進出への足掛かりとなる会社「Darajapan」を20年11月に日本で設立。3カ月後にタンザニアに移住し、その翌月には現地法人も立ち上げた。

 起業から約1年が経過した現在の状況を「10回挑戦したら9回失敗するイメージ」と苦労を語る。しかし、雇われて働く場合と違い、「自ら意思決定を下して実行できる分やりがいも大きい」と話す。

 私生活にも大きな変化があった。会社経営などを手がけるタンザニア人と現地で出会い昨年6月に結婚。イスラム教の宗教観を尊重し、交際期間を経ずにスピード婚を決意した。心身面はもちろん、ビジネス面でも大きな支えになっている。

 現地の人から見て角田さんは外国人。相場より高い価格で取り引きされたり、雇った人に売上金を着服されたりしたこともある。信頼できる人をどう見つけるかが、ビジネスのカギの一つになるという。今は総勢10人ほどのタンザニア人に事業に携わってもらっている。

雇用創出、医療環境の改善目指す

角田さん(中央)とタンザニア現地の人々

角田さん(中央)とタンザニア現地の人々

 タンザニアで一番の課題と考えているのは貧困の格差だ。学校教育も不十分で、大学を卒業しても安定した職に就けない人は多い。「現地には働き先が少なく、子どもたちが夢を描けるロールモデルがない」と角田さん。自身が手がけるバイオマスブリケット事業を含め、製造技術者や物資の運搬ドライバーも雇い入れる計画だ。「何百人、何千人という規模の雇用も創出していきたい」と意気込みを語る。現地の人が支援なしに自立し、貧困から抜け出せる環境を整備したい考えだ。

 現地の医療水準は低い。医師や薬剤師の資格を持つ人でもスキル不足を感じることがあるため、いずれは医療従事者の育成にも力を入れたいという。

 医療アクセスを改善するため、今年1月頃に現地でNPO法人「Be&Co Japan」を立ち上げる予定だ。日本で廃棄される自転車をタンザニアに持ち込み、医療従事者や患者に提供する。訪問診療や通院の足に使ってもらう考えだ。

 他には、病気になる前の健康増進や予防医療の意識向上を目的にしたワークショップなども開催している。いらなくなった食べ物などを原料に石鹸やエッセンシャルオイルを現地住民と共同で開発。将来的には商品化するなどして事業の一つとしたい考えだ。

 今後しばらくはタンザニアに生活の拠点を置く。「エンパワーメント(活躍機会拡大や地位向上)に必要なことは現地で暮らさないと見えてこない。何年かかるか分からないが、ビジネスを軌道に乗せて他のアフリカ諸国にも拡大したい」と抱負を語る。大学生の時に芽生えた使命感が今も角田さんを支える原動力だ。



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