病院薬剤師の業務範囲や役割は広がっている。追い風となっているのが、医師が手がけてきた業務の一部を他職種に移管したり、協働で手がけたりするタスクシフトやタスクシェアを推進する国の動き。医師と薬剤師らが事前に作成したプロトコールに基づき協働で薬物治療を実施するPBPMという枠組みとセットで展開することで、医薬品の適正使用に薬剤師がより深く関われる。こうした業務に薬剤師が注力しやすくするため、非薬剤師を活用して薬剤部内のタスクシフトやタスクシェアを推進する動きにも注目が集まる。
一連の動きは医師の働き方改革が発端。2024年4月から、一般の業種では導入済の時間外労働の上限規制が医師にも適用される。各医療機関には、勤務医の時間外労働時間が原則年間960時間以内となるよう取り組みが求められる。その環境整備に向けて国は、多忙な医師の業務負担を軽くするため、医師でなくても行える業務は他職種に移管するタスクシフトやタスクシェアを推進している。
厚生労働省は21年9月に、現行制度下で実施可能な各職種へのタスクシフトやタスクシェアの範囲を記した通知を発出。薬剤師については6項目の具体的な業務を示した。
その一つが、「事前に取り決めたプロトコールに沿って行う処方された薬剤の投与量の変更等」。事前に医師と協議して作成したプロトコールの範囲内であれば、薬剤師は患者の状態に応じて投与量や投与期間の変更を行うことが可能とされた。
「医師への処方提案等の処方支援」も項目に挙がった。入院時の総合的な薬物療法の評価のほか、回診やカンファレンス等で患者の状態を把握して処方提案することや、外来診察前に薬剤師が患者に面談し、把握した情報を医師に伝えることも、医師の負担軽減に役立つとされている。
手術前後の「周術期における薬学的管理等」も項目の一つ。今春の診療報酬改定では、麻酔科医師と薬剤師、看護師の3人以上のチーム医療に対する「術後疼痛管理チーム加算」が新設されたほか、手術室担当と病棟担当薬剤師の連携などを評価した「周術期薬剤管理加算」が設けられた。
先進的な病院ではPBPMと組み合わせて、副作用の把握に必要な検査のオーダを薬剤師が入力したり、薬剤師がワルファリンの投与量を微調整したりするなど様々な取り組みが行われている。こうした病院の数はまだ少ないが、全国の病院で実践できる環境は整ってきた。
業務拡大に向けて、地方の病院や中小病院が悩む薬剤師不足の問題をどう解決するかが課題だ。解決策の一つになり得るのが、地域の基幹病院等から各病院へ薬剤師を派遣する制度。日本病院薬剤師会は現在、制度構築を後押しするガイドラインの策定を進めている。
薬剤師が病棟業務などに費やす時間を確保するため、非薬剤師を活用する動きも広がりつつある。ある病院では、薬剤部内の各種業務をリストアップして、薬剤師資格が必須の業務、薬剤師が行うべき業務、薬剤師でなくても可能な業務に分類。非薬剤師のスタッフに薬剤取り揃えや調剤前準備、薬品補充、医薬品発注業務などを担当してもらうようにした。
薬剤師の業務拡大には、これまで医師が手がけてきた業務に進出しつつ、既存の薬剤師業務をどう非薬剤師に委ねていくかを考えることが鍵になりそうだ。