【日本薬学生連盟】病院薬剤師の経験生かし起業‐MediFrame代表取締役 和田敦さんに聞く

2023年9月15日 (金)

薬学生新聞

患者向け説明を効率化

和田敦さん

 日本薬学生連盟広報部は、病院薬剤師を経て2017年に株式会社MediFrameを設立した和田敦さんにインタビューを行いました。和田さんは、製薬企業が提供する患者向け資材を薬剤師が現場で活用しやすくなるプラットフォームの構築を進めています。杉林澪(慶應義塾大学薬学部4年生)と武村綾音(慶應義塾大学薬学部1年生)が聞き手となり、事業内容やベンチャーを起業した理由などについてお話をうかがいました。

副作用の説明時期、薬剤師に自動通知

 ――病院薬剤師として15年勤めた後、起業されたとのことですが、どのような事業を行っているのでしょうか。

 現在、1人の患者さんを包括的にサポートするかかりつけ薬剤師という制度が普及してきています。一方で、抗がん剤やオーファンドラッグとよばれる希少疾患の薬の開発も急速に進んでいます。医薬品の種類は多岐に渡るため、1人の薬剤師が全ての医薬品の知識を持つことはほぼ不可能ではないかと感じました。

 そこで、特定の医療用医薬品について副作用の説明をスケジュール化し、それを自動的に薬剤師に向けて送る仕組みを提供しています。薬剤師はそれをもとに的確なタイミングで患者に情報提供や説明を行えます。

 今は、大手の調剤薬局チェーンに仕組みを実際に使ってもらったり、レセプトコンピュータや電子薬歴のメーカーなどとの協業をスタートしたり、製薬企業と契約したりするなど、取り組みを広める準備を進めているところです。

 まだ多くの方に使っていただいているわけではありませんが、今後多くの方に使っていただく素地はかなりできてきたと思います。少なくとも5年後までには、多くの薬局で使われるような環境を作っていきたいと考えています。

 ――医薬品医療機器総合機構(PMDA)のウェブサイトには患者向け資材が掲載されていますが、現場では使いづらいのでしょうか。

 医療用医薬品によって患者さん用の資材があったりなかったりします。さらにその資材を薬剤師がPMDAのサイトで探し、理解した上で患者さんにお伝えするとなると、一定の時間がかかってしまいます。

 病院や薬局は基本的に、受診日にすべての情報を患者さんにお渡しするので、患者さんにとっては情報量が多すぎてすべてを消化するには難しい状況があります。情報を冊子の形でまとめた資材では、副作用が起きそうなタイミングで必要な情報を見ていただけるかは、患者さんに委ねる形となってしまい、予防方法があるのに副作用が出現してからその情報に気づくといったことになりかねません。

 そこで、すべての情報を一度にお渡しするのではなく、必要なタイミングで必要な情報を薬局からお送りすることで、患者さんにその時に必要な知識を得てもらい安心して治療を受けてもらえる仕組みを作っています。

 薬局薬剤師の新しい役割として、受診日以外の状況を把握できるように、自宅にいる患者さんに電話をかけたりして副作用出現の有無や程度を確認し、必要な指導や情報提供を行うことが求められています。当社は、薬剤師がその役割を十分果たせるようにプラットフォームを作って支援します。

 ――副作用に関する情報について、服薬スケジュールに合わせてその都度、患者さんに情報をお渡しするのでしょうか。

 基本的に薬物治療は統計の世界だと考えていて、医療用医薬品ごとにどの副作用がどの時期に出現しやすいのかはそれぞれ異なります。

 当社の仕組みでは、副作用が出現するスケジュールに合わせて、その副作用を予防する生活上の取り組みや出現時の注意点などの情報を、薬剤師が患者に提供できるようにしています。

医療にビジネスの考え必要‐患者や友人たちに恩返し

 ――なぜ起業したのでしょうか。

 もともとビジネスには興味がありました。

 神戸大学病院で働いていた時に、企業と共同研究を行う中で、世の中に必要なものを広めるためにはビジネスの考え方が必要だと実感しました。特に研究費を申請する際には、売上をどうつくり、費用をどう回収するのかを考えるのですが、そのようなものは臨床研究ではなかなかやらないところです。

 しかし、これができれば、世の中にその仕組みを継続的に広めることができると感じていました。私が今やっていることを実装するためには、やはりビジネスとしてやらないといけないと感じたことがきっかけで、起業を決意しました。

 ――ビジネスを行う上で何か苦労している部分はありますか。

 病院薬剤師として勤務しており、経営の経験はほとんどなかったので、財務や経営のところは助けてもらっています。

 医療従事者は基本的に採算などを考えず、患者さんのためにできることをするというところがあります。

 一方、ビジネスでは採算を考えるので、医療従事者としての考えとは異なる部分があります。事業を継続的にできるのか、どこにコストをかけてどのように効果を出すのかをより深く考える必要があると感じています。

 ――苦労があってもビジネスを続ける原動力は何でしょうか。

 薬剤師として患者さんに関わり、いろいろな経験をさせてもらいました。このことがビジネスの大前提になっており、患者さんへお返ししたいという思いは強いです。

 一方で、一生懸命に医療のために関わっている友人がたくさんいます。そういった方々のやっていることを何とか広めたいという思いも強く、刺激を受けながら私に何ができるのだろうかと考えています。

 あとは、大学や病院を退職してからも、いろいろな方に今の事業を助けてもらっていますので、そういった方々への恩返しもあります。

 こうした恩返し、そこに対する責任があるので、最終的に実現させたいと思っています。これまでの経験を踏まえて現在の事業の必要性を感じていて、信じているからこそ実現しなければいけません。

臨床経験やノウハウ活用‐チャレンジ精神と謙虚さを

 ――起業に向けてご自身で学ばれたことは何でしょうか。

 私自身はベンチャーやスタートアップと言われる起業の仕方をしているので、仕組みや考え方、ビジネスモデルを作って、どこで費用を回収して、どうやって広めていくのかということを勉強しながら進めました。しかし、財務に関しては専門家の方に手伝ってもらいました。

 臨床的な経験やノウハウを持っている薬剤師だからこそ、できることがあると思っています。今までの経験や人脈をもとに薬剤師の目線で取り組んでいるので、薬剤師にとっても使いやすく、より実現性の高い、世の中の役に立つものを出せるのではないかと思っています。

 2020年にはビジネスコンテストに応募しました。製薬企業の方が審査するコンテストでしたので、そういった方々の率直なご評価を頂きたいと思い応募した結果、賞をいただくことができ、ビジネスを進める大きな力となりました。

 ――一緒に動く方々をどうやって集めたのでしょうか。

 今、ベンチャーやスタートアップに関しては、国や自治体の支援を受けられる仕組みがたくさんあります。例えば、コワーキングと言われるようなものや、関係者が集まるコミュニティもあります。様々なビジネスコンテストでアピールもできます。情報発信をしたり、関係者が集まるところに参加したりして、興味を持った方に手伝ってもらっています。

 ――起業にあたって必要な力や資質は何でしょうか。

 新しいことにチャレンジできる方や、自分で考えて自分で実行できて、いろいろな方の力を借り、意見を謙虚に受け止めることができる方が非常に向いていると思います。課題を見つけられる方も向いているかもしれませんね。

 ――起業に興味を持つ薬学生に向けて何かメッセージはありますか。

 薬学的な知識や経験、ライセンスは他の人と違いを作る上で大きな強みになると思います。薬剤師の仕事に一生懸命向き合い、その上に経営や起業をのせていくと、より差別化しやすくなるでしょう。

 リスクが小さいことで起業してみたり、起業家のコミュニティの中に入ってみたりしてみると良いのではないかと思います。



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