【対談 薬学生×薬剤師】薬のプロとして医療現場を支える‐病院薬剤師に求められる専門性

2017年7月1日 (土)

薬学生新聞

千葉大学医学部附属病院薬剤部
石井 伊都子さん(部長)
内田 雅士さん(薬剤師6年目)
内海 尊雄さん(レジデント2年目)

対談 薬学生×薬剤師

 近年、ロボット技術が発展し、日本における医療技術が目まぐるしく成長している中、女性の社会進出も顕著になり、男女平等の社会に向けて一歩ずつ前進しているのではないでしょうか。今回は、日本でも数少ない女性薬剤部長である千葉大学医学部附属病院の石井伊都子先生と、現場でご活躍されている薬剤師の内田雅士先生、内海尊雄先生に病院薬剤師の現状についてお話をうかがうと共に、女性の働きやすい職場環境作りについてもお聞きしました(日本薬学生連盟2017年度広報統括=吉田栄子:東邦大学4年、日本薬学生連盟2017年度外務統括=広瀬若菜:明治薬科大学4年)

治療方針など医師らに提案‐多職種連携で力を発揮

 ――まず病院薬剤師の仕事の特徴を教えていただけますか。

 内海 病院薬剤師の特徴は、仕事の種類が多いことです。病院には多くの部署があります。例えば、薬物血中濃度を測定したり、院内製剤を作ったり、抗がん剤の調製も行います。医薬品情報(DI)室では、保険薬局からの問い合わせの電話に対応したり、薬剤部内や病院内にさまざまなお知らせを発信しますし、新薬の採用、不採用の議論にも関わります。その他にも多くの仕事があり、病院薬剤師ならではの仕事を経験することができます。たくさん学ぶことがあって大変な反面、日々やりがいを感じているところです。

 内田 病院薬剤部には、さまざまな部署があって、調剤だけではなく、他にも多くの仕事がありますが、他職種に関われることが一番の特徴だと思います。その中で、医薬品全般に関わり、責任を持ってジェネラリストとして働く役割があります。また、いまは薬剤師も専門性を身に付けていこうという流れがあり、スペシャリストと言われる「がん専門薬剤師」や「感染制御専門薬剤師」などの薬剤師制度が立ち上がってきており、専門的な分野にも深く取り組んでいくのが病院薬剤師だといえるでしょう。病院の中にはさまざまなチームがあり、まさに多職種連携の一員として薬剤師も専門性を発揮しつつ、患者さんのために頑張っています。

 ――病院薬剤師として働いていて大変だと感じるのはどんな部分ですか。

 内海 一言でいうと病院薬剤師は忙しいと思いますね。私は薬剤師になって2年目のレジデントなので、まだ病棟には行っていないのですが、病棟業務が始まると、その日に服薬指導した内容のカルテを時には業務後に書いたり、医師と今後の患者さんの治療方針をディスカッションしたり、それに対する調べものをする勉強の時間も必要となります。とにかく私にとっては、勉強しなければいけないことがたくさんありますので、そういった意味で大変ではあるものの、やりがいはあります。仕事はとても楽しいです。

 ――薬剤師になって良かったと思う瞬間はどんな時でしょうか。

 内田 やはり、お礼を言われたときや患者さんの役に立った時などは、大変ではあったけれど、薬剤師になって良かったと思いますね。日々、多くの患者さんと接していると、正直言って教科書通りにいかないことばかりです。正解なんてありませんので、分からないことがあると調べてみて、そこで分かることもあるし、分からないこともあるという感じでしょうか。

 調べて得た情報を発信する、つまり情報を加工して、他の人が分かるように伝えて役立てることもあります。さらに、今まで知らなかったことを自分で明らかにする研究も行います。研究材料は大学病院にはいろいろありますので、こうした研究や情報発信によって少しでも医療に貢献できたなと感じる瞬間は薬剤師になって良かったと思いますね。

 ――大学病院において薬剤師が他職種とどのように連携しているのか教えていただけますか。

 内海 いま薬剤師は病院の中でも薬剤部だけでなく、さまざまな場所に出向いて仕事をしています。イメージしやすいのは病棟だと思います。実際に病棟に行って、医師や看護師と共に治療方針を考えたり、患者さんのベッドサイドで服薬指導などを行っています。それ以外に、手術室でも業務を行っています。外科医や麻酔科医と協力して、手術で使う麻酔薬や医療用の麻薬など、管理が厳しい薬の取り扱いに薬剤師が関わっています。栄養士とも連携しており、薬剤師が詳しい生化学などの知識を生かして、一緒に患者さんの栄養管理をしています。

 感染制御にも薬剤師は関わります。病院には、免疫力が低下していて感染症にかかりやすい患者さんが多くいるので、病院内でインフルエンザや薬剤耐性菌に感染することは避けなければいけませんし、院内での蔓延も防がなければなりません。感染を広げないよう手洗いやうがいを推奨したり、アルコール消毒を啓発する取り組みにも薬剤師が関わっています。

 内田 医師は薬について特に専門性の高い内容になってくると、自分の専門領域の薬には詳しいけれど、あまり使わない疾患領域の薬の知識は十分でなかったりします。先ほどジェネラリストという話をしましたが、薬剤師はまず、薬全般のことを把握していなければいけない職業なので、医師が得意でない分野の薬に関することも情報提供できるようにしないといけないんです。そういうことができるのが薬剤師の得意な部分の一つかもしれませんね。

 また、医師はその薬が患者さんによく効くかどうか有効性を考えて処方していますが、意外と副作用や飲み合わせを見落としている場合もあります。薬剤師は、そうした薬物治療に関する部分についてはスペシャリストですし、飲み合わせで気がついたことや副作用の可能性を発見したら、医師をはじめ他職種のスタッフに伝え、解決策を提案するなど、医療をお互いに補い助け合っていくことが重要な仕事だと思います。

 ――院外でも他職種と連携するケースはあるのでしょうか。

左から石井さん、内海さん、内田さん

左から石井さん、内海さん、内田さん

 石井 もちろんあります。ただ、院内の多職種連携はスムーズですが、院外の場合は時間を合わせなければならないので、そこが難しいところです。お互い情報交換や勉強する場は外にもあり、私も薬剤部を代表して参加することもありますが、実際に院外で薬剤師以外の職種との連携となると難しいかもしれないですね。

機械が進化しても、最後は人‐薬剤師にしかできない仕事を

 ――日々技術革新が進んでいく中、薬剤師業務に対する先進技術の導入や機械化についてはどう思われますか。

 内海 注射薬のピッキングマシーンや抗がん剤調製マシンを導入することによって業務が効率化されます。人間がやらずに済むので、速く確実にピッキングや調製ができ、非常に効率的になると思います。ただ、機械に全て任せるわけではなく、機械から出てきた薬と処方箋をきちんと照らし合わせて間違っていないかなど、最後は必ず人間がチェックしています。人間がやらなくてもいい部分は、機械に任せるべきではないでしょうか。

 機械にできる仕事は、ピッキングなどの単純作業だと思います。正しく「どの薬を、何錠この場所に取り出す」といった作業が機械の得意な部分だと思います。当院の処方箋の中には薬だけではなく、患者さんの身長、体重、性別などの情報が含まれ、腎機能など各臓器機能に関する検査値が記載してあり、その患者さんに対して出された処方が本当に適切なのかを最終的にチェックできるのは、やはり人間だと思います。

 薬だけでなく、サプリメントを飲んでいるかもしれませんし、アレルギーや副作用歴があるかもしれません。そういった部分をケースバイケースで一人ひとりの患者さんに合わせて考える。そういう勉強を薬学部の6年間で学んでいると思うので、最後は人間である薬剤師がやるべきだと思っています。

 ――技術の進歩によって、薬剤師の仕事がなくなってしまうことはありませんか。

 内田 それはないと思います。今後、人工知能(AI)がどう発展していくかは分かりませんが、個々の患者さんに応じて治療をどうしていくのか考える「思考」の部分は、まだ人間のほうが優れていると思いますので、そこはわれわれ薬剤師がきちんとやっていかなければならないと思います。機械は止まってしまうときもありますしね。

 いかに機械が進歩しようとも、私たち薬剤師が仕事の原則を知っておく必要があることに変わりはありません。大地震の発生時、いざ機械が止まったら人間が動くしかなくなりますので、調剤やミキシング、薬袋を書くにしても何をしたらいいか分からないでは困ってしまいます。

 石井 薬学生は、将来何をするために6年間も勉強するのか、もう一度考えてみましょう。機械の良いところは与えられた仕事を忠実にこなせることで、電源を抜かない限り作業してくれます。もちろん、部品の消耗はあるかもしれませんが、人間よりはるかに継続性が高いし、夜中にセットすれば作業をやっておいてくれます。

 ただ、それらは人間が経験した蓄積に過ぎないんです。先ほども話にありましたが、私たちは予測できない出来事ばかりに出会っているんですよ。機械は命令した通りにしか動かないから、そのような単純作業は任せて、人間にしかできない業務はもっとあると思います。


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