薬剤師国家試験(以下、国試)では、多くの科目で計算問題が出題されており、国試全体では例年20題ほど(国試全体の6%ほど)出題されています。領域としては、物理・衛生・薬剤・実務で多く出題されますが、近年では治療・法規などでも出題されるようになりました。また、「考える力」を必要とする計算問題も出題されており、国試の合否を分ける要因の一つになっています。
2016年8月の計算問題に対する対策講義受講後に、国試合格を目指す現役薬学部生(104人)を対象に、計算問題に対する意識調査(選択式のアンケート)を行いました。その結果、苦手意識が変化した理由として「内容(式の意味など)が分かった」を選択する学生が大部分を占めていました。
この結果からも、苦手の意識の変化のためには「式の暗記」や「演習問題数の確保」も大切ですが、「内容理解」が重要であると考えられます(16年度 日本薬学教育学会にて発表)。以下に第103回国試の各領域における特徴的な出題を示します。「計算が苦手」と感じている方がこの記事を一読することで、計算問題への抵抗をなくす一助になれば幸いです。
物理
■領域における計算問題の出題傾向
「反応速度」「酸と塩基」「容量分析」「分光分析」などの各小項目からの出題が多く見受けられます。公式を暗記しているだけではなく、問題に応じてどの公式を選択するかを見極めることが重要です。
■第103回薬剤師国家試験出題例
■出題例のPOINT
毎年計算問題で出題のある「酸・塩基」の範囲からの出題です。”塩化アンモニウム”水溶液が、酸性とアルカリ性のどちらを示すのかを予想できれば、選択肢を削ることができます。
■領域における学修方法のアドバイス
まずは、既出問題を解くことから勉強を開始しましょう。計算が苦手な方は、正答率の高い問題から手をつけましょう。
また、既出問題と全く同じ問題(再出題)は基本的に出題されていないため、公式や解法を覚えるだけでは得点につながりません。既出問題を学習する際には、「なぜこの値をこの公式に当てはめたのか?」と常に疑問を持ち、「理由を納得」しながら学修を進めましょう。
薬剤
■領域における計算問題の出題傾向
出題基準における「薬動学」「TDM(投与計画含む)」「物質の溶解」「製剤材料の物性」などの各小項目が頻出であり、既出問題に類似した出題が多い傾向です。しかし、以下に示すように、設問文から考えながら解答することが重要な出題もあります。
■第103回薬剤師国家試験出題例
■出題例のPOINT
比表面積を算出する計算問題であり、近年の国試ではあまり出題のなかった内容です。吸着現象やアボガドロ定数の意味を理解した上で、設問文の単位に注目して解答する方法が実践的です。今後もこのような出題が見込まれるため、問題演習を通して対応力を養いましょう。
■領域における計算問題の学修方法のアドバイス
既出問題での演習を中心に学修を進めることで、「既出問題と同様の解法で解ける問題(類似問題)」の得点力向上が見込まれます。また、用語や現象について理解した上で、設問文を読み取りながら解答すると、新傾向への対応力を養うことができます。
実務
■領域における計算問題の出題傾向
実務領域の計算問題の難易度は平易~中等であり、散剤・液剤・消毒薬・輸液(カロリー、mEq、Osm、NPC/Nなど)とバランス良く出題されます。また、既出問題にある基本的な計算をベースに、様々な情報を組み合わせた現場に即した出題があり、設問中から必要な情報を的確に見つけ出し、活用することが求められています。
■第103回薬剤師国家試験出題例
■出題例のPOINT
ブリンクマン指数(喫煙指数)とは、喫煙が人体に与える影響を示す指数であり、1日の平均喫煙本数×喫煙年数で求めることができる。
本患者のブリンクマン指数(喫煙指数)は30本/日×40年=1200である。
■領域における計算問題の学修方法のアドバイス
既出問題は解けることを前提に新規計算問題への対応力も必要となります。そのため、既出問題を解く際に、「ただ正解できる」ではなく、「なぜ、このような解法なのか」「解き方を暗記するのではなく解法を理解しながら解く」などを意識し、既出問題を反復練習するようにしましょう。また、BMIやブリンクマン指数、小児用量を求める計算などより臨床的な計算問題の出題にも注意を払いましょう。