第108回薬剤師国家試験が2月18、19日に実施されます。106回国試から「新出題基準」に対応し、合格基準に「相対基準」が適応された試験となっています。現在、薬剤師モデル・コア・カリキュラムの改訂に向けて最終の議論が行われています。臨床現場では、オンライン服薬指導や電子カルテの導入など、IT化が加速しています。国試には皆さんが実務実習中に体験した医療現場のトレンドや時事ネタも沢山出題されます。変動する臨床現場の実状をしっかり把握し、106回、107回国試で新傾向の問題を確認しながら、国試の勉強を始めましょう。求められる薬剤師像に沿って変化している国試に合格するため、108回国試に向けた「最終チェックポイント」として、薬学ゼミナールの全9領域の科目責任者が「科目ごとの国試対策」を紹介します。
まず、その前に、国試の合格基準をおさらいしておきましょう。厚生労働省の通知により「以下のすべてを満たすことを合格基準とする。なお、禁忌肢の選択状況を加味する」が合格基準となっています。具体的な要件として[1]問題の難易を補正して得た総得点について、平均点と標準偏差を用いた相対基準により設定した得点以上であること[2]必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれの配点の30%以上であること、が定められています。
禁忌肢については「薬剤師には、医療人としての高い倫理観と使命感が求められることにかんがみ、薬剤師として選択すべきでない選択肢(いわゆる『禁忌肢』)を含む問題について、導入することとする。禁忌肢の導入にあたっては、公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容、倫理的に誤った内容、患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容、法律に抵触する内容等、誤った知識を持った受験者を識別するという観点から作問することとする。ただし、偶発的な要素で不合格とならないよう出題数や問題の質に配慮する必要がある」とされています。
薬ゼミの全国統一模擬試験を使用した分析結果によると、禁忌肢を選択しないためには、▽時間配分をしっかり行って余裕を持って問題を読むこと▽「1つ選べ」が続いた後の「2つ選べ」などでマークミスをしないこと▽「適切でないのはどれか」などの否定形のリード文で選択ミスをしないこと――等も重要です。
物理
物理は「物理化学」と「分析化学」に大別されます。物理化学では基本的な問題、グラフや表を用いて考える問題、計算問題などが幅広く出題されます。分析化学では研究や医療現場に応用される問題が多く出題されています。
物理で得点するために、▽既出問題を解く際に登場する専門用語の意味を調べて理解する▽グラフや表を読み取りどのような現象を表しているのかを考える▽計算問題は公式を適切に扱い、解説の再現ができるようになる――ことをお勧めします。出題頻度の高い範囲は、物理化学では熱力学、反応速度論、分子間相互作用、分析化学では酸・塩基、クロマトグラフィー、分光分析、画像診断です。
化学
化学は基礎から応用まで、幅広い出題が予想されます。いずれも構造式を見る力が肝要であるため、定義や用語は理解するだけでなく、構造式に落とし込むことを意識してください。
基礎事項、立体化学、酸塩基を徹底的に理解しましょう。化学反応は、主生成物の正誤だけでなく、なぜ生成するのかも意識してください。「糖やアミノ酸などの生体成分の構造と性質、関連する生体反応」「医薬品の化学」でも構造が重要です。既出問題で聞かれたことは分かるようにしましょう。最後に、「局方生薬」「生合成経路」「代表的な漢方処方とその副作用」も忘れずに。既出問題ベースで確認しましょう。
生物
生物は、既出問題レベルの基本的内容から、構造や図などの応用力を必要とする問題まで幅広く出題されています。また、頻出範囲から満遍なく出題される傾向にあるため、広範囲をバランス良く学修する必要があります。そのため、問題演習時には、既出問題の正誤を答えるだけでなく、その問題に対する周辺知識なども把握し、構造や図などにつなげる意識を持つ必要があります。
機能形態学では「他科目につながる臓器や組織の機能」、生化学・分子生物学では「各栄養素や核酸の構造と代謝」、免疫学では「各免疫担当細胞の機能や免疫グロブリン(抗体)」、微生物学では「細菌・ウイルスの特徴」が特に重要になります。全体像を意識しながら学修を進めましょう。
衛生
衛生では既出問題の類似が多く出題されるため、既出問題は消去法を使わずに選択肢毎で答えられる必要があります。保健統計や疾病、中毒の発生件数・患者数の問題ではグラフ・表での出題が多く、年次推移の理由が出題されることもあります。頻出の範囲である「予防接種」「感染症」「食中毒」は暗記メインですが、勉強した分、点数につながりやすいです。構造式は「食品添加物」や「乱用薬物」「発がん」の範囲での出題が多いので、構造式の特徴を確認しておきましょう。また、実践問題では「生活習慣病」や「解毒薬」「感染性廃棄物」の範囲が狙われやすいので、最後に見直しておきましょう。
薬理
薬理は、例年出題基準から満遍なく出題されています。従って、全範囲を満遍なく見直して総仕上げをしましょう。具体的には、既出問題で出題済みの薬物は、作用機序と薬理作用をつなげて暗記・理解しておく必要があります。薬物の作用機序だけの暗記では、薬理作用で引っかかる可能性がありますから注意しましょう。文章を最後まで丁寧に読んでください。読み飛ばしにはくれぐれも気を付けてください。
繰り返しになりますが、網羅的に見直しをしましょう。自分が何回も間違えてしまった問題の解きなおしを中心に、ひっかけパターンの再確認をしましょう。最後に、薬理作用が複雑なファスジルやトロンボモデュリンの確認も忘れないようにしましょう。
病態・薬物治療
本領域は、「病態・薬物治療」と「情報・検定」の範囲から出題されます。病態・薬物治療は、現場で対応する一般的な疾患からの出題が多く、既出問題の実施によりある程度の知識を習得することが可能です。具体的には、「循環器系・消化器系・代謝系・内分泌系・中枢系・精神神経系の疾患、悪性腫瘍」の範囲を中心に、他科目とのつながりを意識して、最終確認しましょう。
近年は、患者が複数の疾患を持っているため特定の薬が使用できないことなどを判断する問題も出題されていますので、患者一人ひとりに「何が最も適切な治療か」を考えて問題を解きましょう。情報・検定は、やや難易度は高い傾向ですが、一般的な医薬品情報源や検定、推定の手法に関して問う問題が多く、よく出題される範囲を中心に、既出問題を理解しながら学修を進めましょう。
薬剤
薬剤は、既出問題の知識を中心とした出題ですが、近年ではグラフや図の読解が必要となる内容が多数出題されています。また、必須・理論を中心に計算問題が5~7題ほど出題され、特に薬物動態の範囲に関しては、比較的シンプルな問題が増加しているため、正答率が高くなることが予想されます。実践では添付文書の情報から考察する出題や、具体的な製剤の特徴を問う内容が出題されています。
優先的に確認すべき範囲として、薬物動態学ではトランスポーター、遺伝的多型、投与計画を含めたTDMが頻出です。物理薬剤学では物質の溶解や分散系で図や表を読み取る内容が頻出です。製剤学では剤形に関する局方の内容やDDS(放出制御、ターゲティング)が頻出です。いずれも既出問題を中心に確認しておきましょう。
法規・制度・倫理
従来の倫理・コミュニケーションの範囲がプロフェッショナリズムとして拡大されたのは106回からですが、近年の国試においては倫理の範囲では受験者間でさほど大きな差は見られない傾向があります。差が生じやすい問題は法規・制度の範囲に目立ちます。法規・制度については、既出問題の内容を理解していることで得点できる設問も多いので、とくに次の範囲の既出問題を中心に確認しておきましょう。
具体的には、[1]薬剤師法[2]医薬品医療機器等法[3]承認後の制度(再審査・再評価、副作用等報告)[4]麻薬及び向精神薬取締法[5]毒物及び劇物取締法[6]薬害と健康被害救済制度[7]介護保険制度の領域――です。既出問題通りでの出題は少ないですが、余裕があれば医療法や医療保険制度の範囲も学修を進められると高得点につながります。
実務
実務は全体345問のうち95問と出題数が多く、幅広い知識を必要とする科目ですが、既出問題の内容を理解し、関連する知識の定着を図ることで得点力の向上が期待できます。薬理や治療の知識がベースとなる問題も多いため、並行して勉強を進めることをおすすめします。
実務の中で重要度の高い範囲としては、チーム医療、副作用、相互作用、服薬指導等があります。特に副作用に関しては、近年、薬剤師に求められる服薬後のフォローアップとして、検査値から判断する症例問題への対応も必要です。基準値を確認した上で、既出問題を用いた検査値読み取りの練習を行いましょう。また、計算問題も毎年4~5問が出題されますので、こちらも既出問題を用いて解法の理解と反復練習を行いましょう。