病院薬剤師の業務や役割の重要性が、医師を含む多職種や国に広く認識されるようになってきた。国は、医師の業務の一部を他職種に移管したり、協働で手がけたりするタスクシフトやタスクシェアを推進しており、実現には薬剤師の業務強化が欠かせない。その推進には病院薬剤師の不足や偏在の解消も必要で、国は、各都道府県が地域ごとに策定し来年度から運用を開始する第8次医療計画に薬剤師確保策を盛り込むよう呼びかけている。その一環として今後、各自治体の奨学金返済支援制度が増える可能性がある。
来年4月から医師の働き方改革の新制度が始まる。多忙な医師の労働環境を改善するため、一般の業種では導入済の時間外労働の上限規制を医師にも適用。各医療機関は、勤務医の時間外労働時間が原則年間960時間以内となるよう取り組みが求められる。
その環境整備に向けて国は、医師でなくても行える業務は他職種に移管するタスクシフトやタスクシェアの推進に力を入れてきた。受け皿の職種の一つとして、薬剤師にも期待がかかっている。
こうした背景もあって、これまで医師が手がけてきた仕事を薬剤師が行えるようにするPBPMという仕組みを導入する病院が増えてきた。PBPMは、医師と薬剤師らが事前に作成したプロトコールに基づき協働で薬物治療を実施するもの。事前に医師の合意を得ることで、その範囲内であれば薬剤師は患者の状態に応じて投与量や投与期間の変更を行うなど、様々な業務が可能になる。
PBPM導入病院では、副作用の把握に必要な検査のオーダを薬剤師が入力したり、薬剤師がワルファリンの投与量を微調整したりするなど様々な取り組みが行われている。PBPM等で医師との連携が深まれば、薬剤師として働くことの意義をより強く実感できるようになるだろう。
国は、地域の各施設や各職種が連携し円滑な医療や介護を提供する「地域包括ケアシステム」の構築にも取り組んでいる。病院薬剤師は入院中の薬物療法の意図や変遷、注意点をお薬手帳や文書に記載し、地域の病院や診療所、薬局、高齢者施設にうまくバトンタッチするなど、地域全体の薬物療法の連携に責任を持つことも求められる。
こうした中、依然として、地方の病院や中小病院の多くは薬剤師不足にあえいでいる。病院薬剤師の不足や偏在の解消は社会全体の課題と認識され、来年度から各都道府県で始まる第8次医療計画の多くには、薬剤師確保策が盛り込まれる見込みだ。先進的な自治体は、地域の基幹病院から不足病院への薬剤師派遣、薬学生の奨学金返済支援、卒後研修体制の構築などを実施する。これらの対策が他地域にどこまで広がるかが焦点になる。
病院薬剤師の確保に向けて、若い年代での薬局薬剤師との給料格差の解消も課題だ。病院薬剤師の生涯年収は薬局薬剤師に引けを取らないとされるが、奨学金の返済を抱える若い年代では、初任給の高いドラッグストアや薬局を就職先に選択する傾向が強い。
日本病院薬剤師会は処遇改善を訴える要望書をまとめて、今年7月に国に提出した。国家公務員の薬剤師の給料改善を求めたもので、公立病院や私立病院への波及効果を狙った。要望がどこまで受け入れられるかは不透明だが、何らかの好影響を及ぼす可能性はある。