病院薬剤師が活躍する場所は年々拡大している。各診療科の病棟に薬剤師が常駐し、そこで業務を行う姿はもはや日常のものになった。現在は、手術室や集中治療室、救急救命室などにも関わるようになり、外来診療においても役割を発揮している。薬剤師の介入によって医師や看護師はその職種にしかできない業務に専念できる。このことは、医療の質を低下させずに医療費の増加を抑えるという国の課題解決にもつながる。今後、薬剤師がその力を発揮する機会はさらに増えそうだ。
かつて病院薬剤師といえば、地下の薬剤部にこもって入院、外来患者の調剤業務に明け暮れる姿が一般的だった。1990年代に本格化した医薬分業の進展に伴って、外来患者の調剤は病院薬剤師の手を離れた。薬剤管理指導料の新設という診療報酬の後押しもあって、浮いた薬剤師のマンパワーを病棟などでの業務に費やせるようになった。
当初はベッドサイドでの患者への服薬指導が業務の中心だったが、病棟での薬剤師の業務は次第に広がっていった。病棟に出入りする中で、医師や看護師から薬の質問を受けて答えたりするうちに、顔の見える関係に発展。12年に病棟薬剤業務実施加算が新設され、病棟で業務を行う時間が長くなると、そこでチーム医療の一員として活躍する機会が増えた。
それまでは感染対策チーム、栄養サポートチームなど院内横断型のチーム医療に加わることは多かったが、各病棟単位のチーム医療でも薬剤師が存在感を発揮し始めた。さらに現在は、一般病棟だけでなく、手術室や集中治療室、救急救命室などにも薬剤師が関わるようになっている。外来診療においても薬剤師は、外来がん化学療法室で患者の服薬指導や副作用チェックを行ったり、医師の診察前に“薬剤師外来”で患者に面談したりして役割を発揮している。院内の様々な場所に薬剤師が進出する傾向がさらに強まってきた。
活動エリアの拡大と併行して、その業務も深いものになっている。医師が処方をオーダした後だけでなく、処方の前段階で薬剤師が医師に適切な薬物療法を提案する機会が増えた。それが発展し、医師から処方設計をまかされるケースも多くなっている。
薬剤師の介入によって、医師や看護師はその職種にしかできない業務に専念できる。例えば手術が多い整形外科では、細かい薬物療法の調整を薬剤師が担当してくれれば、自分たちは手術により力を尽くせるとして、薬剤師の処方設計への関与を歓迎する医師は少なくない。ある中規模病院の薬剤師数は15年前に比べて3倍以上に増え、大学病院並みの薬剤師比率になっていた。「病棟に薬剤師がいると助かる」という現場の医師や看護師からの声を得て、病院経営者に薬剤師の必要性を認識してもらった結果、段階的に薬剤師数が増えていったという。
薬剤師の業務拡大は国も歓迎するだろう。医療の質を低下させずに医療費の増加を抑えるという国の課題解決につながるからだ。多職種のチーム医療によって医療の質は高まる。また、医師には医師にしかできない仕事に専念してもらって、医師でなくてもできる仕事を他の職種が代替することで、人件費を安く抑えられる。
とはいえ、業務拡大や診療報酬での評価獲得を実現するには薬剤師自身の努力も欠かせない。薬剤師の介入によって実際に医療の質がどれだけ高まり、医療費抑制にどの程度貢献したのかを具体的な数値で示し、理解を得る必要がある。業務拡大とエビデンスの構築はセットで進めるべきものだ。
国が進める病床機能再編に応じて今後、薬剤師の業務も変化する。高度急性期、一般急性期、亜急性期、長期療養ごとに病院の機能分化が進むため、各機能に応じた取り組みが必要になる。また、地域の医療機関や施設との連携強化も欠かせない。転院先が受け入れやすいように主治医と協同で処方内容を検討して調整したり、きめ細かな情報を記載した薬剤情報提供書を転院先に提供したりするなど、地域の薬物療法の要としての役割も求められている。