医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一
先日、ある勉強会で論文抄読会を開催しました。論文抄読会とは、複数の医療者で一つの臨床医学論文を読み、研究結果の妥当性と、その活用を議論するものです。仮想症例を設定することにより、EBMの実践を模擬的に体験できます。
この抄読会では、呼吸器感染症予防に対するビタミンDの効果を検討した論文(PMID:23840373)を取り上げました。論文の内容は、ビタミンDを服用すると、プラセボを服用した場合に比べて、呼吸器感染症の発症リスクが36%、統計学的にも有意に低下するというものでした。
この結果を踏まえて「風邪予防に興味がある患者さんにビタミンDサプリメントはおすすめできますか」と聞くと「飲んでも良いかもしれない」という意見が多く出ました。ところが「自分だったら飲みますか」という質問には、ほとんどの人が「飲まない」と答えたのです。
3割程度の予防効果では飲むに値しないと考えたのでしょうか。ところが、そうでもないようです。「仮に5割予防するという結果だったら」と聞いても皆さんの反応はほぼ同じでした。9割となると、さすがに「飲んでも良い」という人もおられましたが、飲まないという人も少なくありませんでした。
こうした意見が出る背景には、風邪の発症リスクが減るという効果よりも、もっと大事な価値観がたくさんあるのかもしれません。例えば服薬に関わる負担(めんどくささ)やコストが挙げられるでしょう。仮に予防効果が9割だったとしても、年に1回引くか引かないか程度の風邪のために、サプリメントを服用する価値は小さいと思うのでしょう。逆に言えば、年に5回くらい風邪を引く人でしたら、飲んでみたいと考えるかもしれません。あるいは、風邪予防ではなく死亡リスク低下という効果だったら、その判断閾値も変わってくることでしょう。
「薬剤効果の価値認識」の回でもお話しましたが、立場や状況によって薬剤効果の認識は大きく変化します。薬の効果は確かに薬効成分という物質の中に存在するのかもしれませんが、薬を飲む人の文脈によって効果の認識が変わってくるというのは、論文結果を活用する上でとても大切な視点です。論文抄読会はこうした認識の多様性に気づく良いきっかけになることでしょう。ぜひ、皆さんも開催してみて下さい。