わたしの「1日」~業界の先輩に聞く~ アストラゼネカ 癌領域MR 橋澤雄介さん

2017年1月1日 (日)

薬学生新聞


MRの情報提供で患者の命を救う

橋澤雄介さん

 アストラゼネカで癌領域の専門MRとして活躍している橋澤雄介さんは、2004年4月に同社に入社し、現在は大田区、品川区、目黒区の医療機関7施設に、肺癌治療薬「イレッサ」と、昨年5月に新たに上市した「タグリッソ」の情報提供を行っている。「MRという職業は、直接患者さんと接する機会はありませんが、MRが発する情報をもとに医師が患者さんを救うことができるのです」とMRの醍醐味を話す橋澤さんは、朝7時に起床後、2歳の愛娘を保育園に預け、9時に出社。メールのチェックや医師へのアポイントなどの内勤業務を経て、担当の医療施設を訪問する。

 橋澤さんが薬学部に進み、医療に携わりたいと思うようになったのは、癌で亡くなった4歳下の弟の存在からだ。橋澤さんの弟は小学3年生頃から痛みなどの自覚症状が表れ、小学4年生のときに小児癌である神経芽細胞腫と診断された。骨髄移植を施そうとしたが、家族全員の骨髄が弟の型と適合せず、化学療法や手術などで入退院を繰り返していた。橋澤さんは、当時は親の配慮で弟が癌とは知らされていなかったが、辛い治療の中、弟が懸命に病と闘っているところを間近で見ていた。「弟は中学3年で亡くなるまで、弱みや辛いところを見せなかった。今思えば、もっとそばにいて弟に何かしてあげられたのではないかという後悔があります」と当時を振り返る。弟の姿を見て、同じように病と闘っている人を薬で救いたい思いで、橋澤さんは薬学部に進んだ。

橋澤さんの1日

 当初、橋澤さんは医療現場で服薬指導などを通じて直接患者の治療をサポートする臨床薬剤師を目指していた。だが、病院実習として臨床薬剤師を体験した橋澤さんは、当時、治療薬選択の際に薬剤師が医師に提案する機会が少なく、薬の専門家である薬剤師がチームの一員としてもっと提案する機会があってもいいのではと感じてしまい、自分が思い描いていた“患者を救う”という感覚にはならなかったのだ。その矢先、大学で製薬企業のMRという職種があることを知った。「MRの言葉1つで患者さんを救うことができるのではないかと思いました」と就職活動を振り返る。当時から癌領域に注力していたアストラゼネカへの入社を選択したのも、癌で亡くなった弟への思いからだ。

社内向けのプレゼンテーション

社内向けのプレゼンテーション

 実際に橋澤さんの提案によって、医師が治療方針を変えた事例がある。橋澤さんが担当する新しい肺癌治療薬のタグリッソは、「T790M変異」が原因で既存の薬剤に抵抗性を示す患者に、唯一確実な効果を示す肺癌治療薬だが、患者がタグリッソを服用するには、T790M変異を確認するため、気管支鏡を経口で気管支に入れ、肺の細胞を採取する「生検」を受けなければならない。患者は一次治療を決定する際に既に生検を受けており、中には非常に大きな苦痛を感じた方もいる。

 再びこの苦痛にこらえてT790M変異診断を受けても、その陽性率は52~68%にとどまることから、患者に積極的に生検を勧められない医師もいる。橋澤さんが担当する医師も、68歳の女性の患者に再生検を勧めるかで悩んでいた。既に肝臓に転移しており、ターミナルケアへと移行する予定であった。そこで橋澤さんは、肝転移にもタグリッソが有効である可能性を説明し、再生検を行うことを提案した。「橋澤さんがそこまで言うのであれば、再生検をやってみる」と、医師は橋澤さんの提案を受け入れ、再生検を実施したところ、その患者さんは陽性を示した。

 「橋澤さんのおかげで、患者さんを救うことができる。本当にありがとう」

 医師のこの言葉から、MRが紛れもなく、“患者を救う”職業だということを実感できた。

 さて、内勤を終えた橋澤さん。この日は、12時にNTT東日本関東病院を訪問し、午前の外来診療を終えた呼吸器内科の医師と面会。副作用情報の収集や新たな投与対象患者候補の症例の確認などを行う。

 遅めの昼休憩をとった後は、16時に東邦大学医療センター大森病院呼吸器内科医局で、あらかじめアポイントをとった面会が控える。最新情報の伝達や症例ディスカッションなどを行う。面会に割く時間は、5分から1時間まで、医師によって様々だ。面会の長さによって提供する情報内容や伝え方を変えるなど、柔軟な対応が求められる。この日は、遺伝子変異測定のための検体処理方法を確認するため、同病院病理診断科の医師とも面会した。

 橋澤さんが1日に訪問する医療機関は、通常は4施設ほど。「MRは、仕事のスケジュールを自分で管理できます」と話す。早く仕事を切り上げたい場合は、いつもより訪問施設数を少なくして、その分前日までにやるべきことをやってしまうスケジュールも組める。この日は18時半に昭和大学病院の腫瘍内科と放射線科の医師との面会を最後に、20時に帰宅した。次の日もまた、患者を救うために医療機関を訪問する。



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