調剤中心からの脱却を‐ブフマンFIP会長が提唱

2014年7月1日 (火)

薬学生新聞

 国際薬剤師・薬学連合(FIP)のミシェル・ブフマン会長が、日本薬剤学会と永井記念薬学国際交流財団等の招きで5月末に来日。日本薬剤学会での講演、記者会見や多くの薬学生が参加した特別公開講演会など精力的にこなし、これまでの調剤業務中心の脱却とレベルアップ、さらなる薬剤師業務の発展に向けサイエンス、生涯研修の重要性を訴えた。

「責任ある医薬品の使い方」強調

会見で熱弁を振るうブフマン氏(左)

会見で熱弁を振るうブフマン氏(左)

 特別公開講演に先立ちブフマン会長は記者会見し、FIPの役割は、世界の健康を守るため、責任ある医薬品使用を進めていくことが薬局、病院に勤務する薬剤師の使命であり、世界規模で健康を改善することにあると強調した。

 特に全世界で毎年飲まずに廃棄される医薬品は50兆円に上るとのデータを示し、その原因が不適切な処方、調剤、カウンセリングの結果だと指摘。薬剤師は、単に医薬品を患者に渡すのではなく、適切な処方、調剤、カウンセリングと共に渡されるべきであり、それが「責任ある医薬品の使い方」だと訴え、薬剤師の役割の重要性を強調した。

 ただ、「責任ある医薬品の使い方」が実行されるには、薬剤師だけでなく、様々な医療従事者が協力しなければならないと、改めて強調した。

 中でも医師との関係について「医師に尊敬されるためには、商売人ではなく、患者、国民に健康を提供する人になりなさい」と指摘する。アメリカの事例を挙げ、「医師と薬剤師が協力することで死亡率を減らすことができている」と述べた。

 その上で今後の薬剤師業務の方向性について、「従来のように調剤だけではなく、患者のカウンセリングやケアに仕事内容を変えていかなければならない」との考えを示した。

 薬剤師の業務内容をシフトさせていくと同時に薬学教育にも力を入れていく必要性を指摘。「薬学を研究する人には、薬剤師を教育するということにもっと興味を持ってもらいたい。薬剤師を教育するところにお金をかけることで、結果的に国のお金をセーブすることができる」とし、薬学教育に資金投入することで、結果的には薬剤費、さらには国の医療費の削減につながるとの考えを示した。

 ブフマン氏自身はスイスで経営する薬局を中心に「クオリティ・サークル」と呼ばれる地元開業医40~50とのグループを構築し、医師の処方内容の検討、提言により、処方内容の適正化に貢献、結果的に薬剤費、医療費の削減につなげている。

 通常医師は一人で処方を決めているが、「薬剤師と処方を決めていく方が、ジェネリック医薬品の選択をしやすくなり、薬剤費を減らす方向に向かう」とした。ただ、「始めから医師と薬剤師が会合をもつことは、それほど優しいことではない」とも述べ、医師との協力関係構築には地道な努力が必須であることを指摘した。

重要な基礎と臨床の連携

多くの薬学生を前に特別講演

多くの薬学生を前に特別講演

 一方、特別公開講演会では多くの薬学生を前に、世界約300万人の薬剤師、薬学研究者を代表するFIPを概説すると共に、次代を担う薬剤師像に触れた。

 この中でFIPの目的について、「薬学における実務やサイエンスを発展させることにより、より良い薬を発見・開発し、適切で費用対効果の高い薬が利用しやすく、安全に用いることができることで地球規模の健康を改善することにある」とした。特に2012年には、薬剤師は医薬品の使用に責任を持つという条項も加えたと指摘。

 また、薬剤師の職能を拡大させるためにはサイエンスと実務間の連続性を形成する必要があるため、FIPでは、これまで薬学研究と実務とを近づける努力をしてきたと述べ、世界的にも「基礎と臨床の連携」が重要課題であることが示唆された。

 ブフマン氏は最初に薬学研究者を目指し、その後専門職教育、現在は薬局での実務に就いているが、「薬学研究で学んだ一つひとつが、薬剤師としての私の役割を向上させてきた」と、臨床現場でサイエンスが大きく貢献していることを強調。

 その上で、「臨床の場において適切な処方と薬剤師による患者への適正使用の指示が行われて初めて、薬の使用は最終段階になる」と、医薬品は開発から使用に至るまで連続したものであり、最終段階では薬剤師が果たす役割がいかに重要かを強調した。

 さらに、地域医療における薬剤師の役割について、友人の医師の言葉を借り、“トリアージ”の役割を担っていることを指摘。「薬剤師は処方内容をチェックし、適切に調剤することができる。必要な治療効果を追跡し、患者が長期間にわたって薬物療法を正しく進めることを確保できる」と、医師から薬剤師が認められていることを示した。

 ただ、医師との有益な協力関係を実現するためには多くの時間を要し、医療専門職種間、あるいは専門薬剤師同士でも常に努力が必要。薬学教育においては学部・大学院のカリキュラムを改良し、教育者としての研究者の役割を再編、多様な環境で薬剤師が活躍できる場を広げる必要があるとした。

 現場の薬剤師が協力関係作りに努力することに加え、教育機関も含め、薬学全体として対応していくことが重要であり、そのためにも世界中の薬学関係者が一堂に会するFIPの役割が重要であることを強調した。



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