ICUにおける薬剤師の役割~新たな病棟薬剤業務の展開~ 上

2014年9月1日 (月)

薬学生新聞

独立行政法人労働者健康福祉機構
中国労災病院薬剤部
船越 幸代

船越幸代氏

 中国労災病院(広島県呉市、以下当院)は病床数410床(うちICU8床)、救急医療、周産期医療、高度専門的医療を基本方針としている呉市の中核病院の一つである。薬剤部は1988年に小児科患者を対象に薬剤管理指導業務を開始、その後徐々に拡大し2007年5月からはICUを除くすべての一般病棟に薬剤師を常駐し、薬剤管理指導を行うことにより、入院から退院まで安全で効果的な薬物療法が行われるよう努めてきた。

化学的視点で支えるルート管理

 ICU入室患者は重症または術後管理のため高度な薬物療法を必要とし、多種の薬剤が高用量で投与される場合が多い。全身状態が不安定で循環動態が変化しやすく、薬物動態も変化するため、個々に合わせた薬剤選択や投与量設定が必要となる。そのため、薬剤師が薬物療法に貢献できる場面は多い。しかしながら、病床数が少なく、薬剤師数の関係もあり、以前は必要に応じ専任薬剤師が対応していた。

 12年度の診療報酬改定で、病棟薬剤師による薬物治療の質や医療安全の向上、医師等の負担軽減に貢献することが期待され、「病棟薬剤業務実施加算」が新設された。病棟薬剤業務実施加算を算定するに当たり、2週間以上ICUに入室する患者もいるためICUにも薬剤師が常駐することとなった。

 現在ICU常駐薬剤師が行っている主な業務は、[1]ルート管理[2]回診、カンファレンスへの参加[3]薬剤選択や投与量提案[4]投与薬剤の効果や副作用のモニタリング[5]医師、看護師への情報提供と相談応需[6]主治医、救急部医師との連携[7]薬剤管理指導業務[8]医薬品管理――等である。

 ICU入室患者は経口投与が困難な場合や、早急に確実な薬効を必要とされる場合が多いため、注射薬が選択される。鎮静薬、カテコールアミン製剤、抗菌薬等、多種多様な薬剤が同時に投与されるため配合変化、投与速度、希釈濃度といったルート管理が非常に重要になる。

 例えば、ある朝、γグロブリン治療中のギランバレー症候群患者が夜間血圧上昇、頻脈がみられたため麻酔薬であるプロポフォール(pH6~8.5)と同じルートからジルチアゼムが投与されていた。

ICU入室患者の点滴風景

ICU入室患者の点滴風景

 プロフォールは脂肪乳化製剤であるため外観からは配合変化は解りにくい。しかし、ジルチアゼムは塩酸塩であり、pH約7以上では結晶が析出する可能性がある。そのためルートの交換と薬剤投与ルートの変更を依頼した。交換したルート内には時間経過と共に分離した透明液にジルチアゼムの結晶と思われる白い浮遊物が見られた。結晶のまま投与すると血管閉塞や血管炎、薬効が発揮されない原因となるため回避しなければならない。

 また、冠動脈バイパス術後患者は多くの薬剤が投与される(写真)が、ノルアドレナリンは血管収縮作用があり、血管外漏出時は組織壊死が起こる場合があるためカテコールアミン類は中心静脈ルート、配合変化を考えhANPは別ルート、末梢ルートに鎮静薬ルート、血液製剤や抗菌薬は持続投与薬剤のないルートから投与できるように予め投与ルートを決めている(

冠動脈バイパス術後のルート選択例

冠動脈バイパス術後のルート選択例

 ICUで汎用される薬剤については、薬剤師の不在時用に「配合変化表」も作成した。しかし、データのない組み合わせも多く、希釈濃度により結晶析出の可能性が変化する組み合わせもあるため、限られたルートで多くの薬剤を投与する時はより詳細なデータから薬剤のpH、化学構造式さらには添加物から起こり得る化学反応を予測し、結晶析出や薬剤の分解等が起こらないできるだけ安全なルートを選択する知識が必要となる。

 時には経時的に目で確認しながら側管投与を開始する時もある。また、心不全等で輸液投与量を減少させたい時は、溶解度と投与可能な最大濃度を確認し、無理な場合は配合可能な薬剤の側管投与とすることで最終濃度を低下させ、輸液量を減らす方法を考える。

 このように化学的な視点から薬物療法を支援することは薬剤師ならではの業務である。

重要な情報収集と評価

 一方、入院前服用薬の把握は重要である。しかし、意識レベル低下や鎮静、挿管状態のために直接確認や説明が困難という場合は多い。持参薬、お薬手帳、紹介状、患者家族からの聞き取りのほか、必要に応じて調剤薬局、医療機関に直接問い合わせ、総合的に判断する。

 シベンゾリン中毒の低血糖による意識障害やピルジカイニド中毒の房室ブロックによる意識消失によりICUに入院となった患者もいる。腎機能、肝機能に基づいた投与量評価やTDMを行い、意識消失の原因を薬剤師が究明することもある。入院の契機となった病状や症状に服用薬が影響していないかどうか確認することは、その後の治療計画にとって重要であり、入院前服用薬の正確な把握と薬学的評価は必ず行わなければならない。

 処方提案時は最新のガイドラインや文献等からエビデンスのある薬剤、投与量を提案することが重要である

 次回は薬物療法に関与した実際の症例を提示する。



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