第100回薬剤師国家試験を振り返る

2015年5月1日 (金)

薬学生新聞

医学アカデミー学長
木暮 喜久子

 6年制薬剤師を輩出する4回目となる第100回薬剤師国家試験は、受験者総数1万4316人、総合格者数9044人、総合格率63.17%で、99回に比べ合格率がわずかであるが2.33%上昇した。受験者数が多かったこともあり6年制では、最も多い合格者数となった。表1に示すように新卒合格率は72.65%(合格者数6136人)、6年制既卒は53.12%(合格者数2794人)で、99回に比べそれぞれ2.16%、13.27%高かった。通常、卒後年数がたつにつれ合格率が低下するが、今回の結果は、99回で不合格になった新卒の2603人が多く合格したためと思われる。その他(旧4年制卒を含む)は18.69%(合格者数114人)であった。ただし、6年制になってからあまりなかった不適切問題3問、補正対象問題11問の計14問を正解扱いしてのこれらの結果である。「薬ゼミ自己採点システム」(最終集計数1万0497人)の結果を見ると、もし補正等が行われなかった場合の合格率はかなり低いものであった。第100回は総合的に、99回同様「基礎力」「考える力」「医療現場での実践力」を問う問題が多く、問題解決能力や臨床能力を持つ6年制薬剤師に対する期待を感じさせる出題であった。

「基礎力・実践力・考える力」が鍵

 第100回国試の平均点(換算点)は、表2(厚生労働省発表)に示すように、合計(345問)では、99回に比べ12.37点(3.6%)上昇し、「必須問題」「理論問題」「実践問題」のいずれも99回より高い結果であった。これは不適切問題(正解のない問題、全員を正解として採点)が3問、補正対象問題(問題としては適切であるが、今回の受験者の正答率および識別指数等を考慮し、全員を正解として採点)が11問を考慮したもの。しかし考慮した問題は、必須5問(基礎系3問)、理論5問(基礎系1問)、実践4問(基礎系2問)で、99回より「必須問題」と「理論問題」は得点しにくかったと思われる。前回と比べ各領域別正答率は、総合で「物理・化学・生物」の基礎系が同様に低かったが、「病態・薬物治療」と「実務」が大きく上回り、「法規・制度・倫理」「薬理」がわずかに上回っている。

 全体的には医療系は良問が多い印象だが、「物理・化学・生物」には、高校で学んだ基礎事項や基本的内容が出題され、基礎力のない受験者には難しかったと思われる。計算問題も多く、グラフや式、図やイラストが与えられ、これらを用いて正解を導くための「考える力」や「応用力」を必要とする問題も多く、暗記では到底解けないものであった。既出問題の出題は20%位とされているが、99回同様にそのままの再出題はなく、問い方や出題形式を変えるなどしたため、多くの受験生が新傾向の問題だと思ってしまったかもしれない。今後とも暗記だけでは解けない「理解力」「考える力」を必要とする国試になってくると思われる。また実践問題の「複合問題」と「実務」中心に、より実践的な記述、臨床判断を要求する記述、添付文書からの記載、症候診断、薬物療法についてなど臨床的知識を問う問題が多く、5年次以降に実施される長期実務実習の重要性が際立った試験であった。

 現在、5年次には病院と薬局など医療現場でそれぞれ11週間の長期実務実習が義務づけられ、その前提として4年次に、学内での実務実習事前学習や長期実務実習に参加するために必要な知識・技能・態度が備わっているかを確認する共用試験が行われている。充実した臨床教育を実施している大学も多く、問題抽出・解決型の講義であるPBL(Problem-baced learning)やTBL(Team Based Learning)の実施、バイタルサインが読める薬剤師能力の開発やフィジカルアセスメントのできる薬剤師を目指す臨床実習を実施している。来年の国試もこれらを背景に「基礎力」「考える力」「問題解決応力」を必要とする問題、医療現場のより実践的な問題がますます多くなり、傾向や難易度は99、100回と変わらないと思われる。国試合格に向け、まず国家試験参考書などを用い基礎科目(物理、化学、生物)から、なるべく早く勉強を始めることが大切である。

薬剤師国試の概略

 国試は必須問題(90問)と一般問題(255問)の合計345題で、出題試験領域は「物理・化学・生物」「衛生」「薬理」「薬剤」「病態・薬物治療」「法規・制度・倫理」「実務」の7領域である。試験は領域別ではなく、薬学全領域を出題対象と「必須問題」と「一般問題」とに分け、さらに一般問題を「薬学理論問題」と「薬学実践問題」とした3区分で試験を実施した(表3参照)。それぞれの出題区分は下記のような問題内容で出題される。

 (1)「必須問題」は、全領域で出題され、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確認する問題で、共用試験と同様の五肢択一の比較的易しい問題で、一般問題に比べて比較的得点しやすいため得点源でもある。「必須問題」得点率が90%なら、「一般問題」得点率は56.5%で合格基準に達する。80~90%の得点率を目指して勉強してほしい。

 (2)「薬学理論問題」は、「実務」を除く全領域で出題され、6年間で学んだ薬学理論に基づいた問題である。

 (3)「薬学実践問題」は、「実務」のみの問題と「実務」とそれ以外の領域とを関連させた連問題形式の「複合問題」からなる。「複合問題」は、6年制国試で初めて導入された出題形式で、症例や事例を挙げて実務現場で直面する問題を解釈・解決するための資質を問う、実践力・総合力・基礎力を確認する出題である。

 国試は2日間で実施され、「必須問題」は1問1分、「一般問題」は1問2.5分で解く時間配分になっている。また、表3には新国家試験の合格基準をあげている。合格基準は、全問題への配点の65%以上を基本とする。しかし、「必須問題」は、全問題への配点の70%以上で、かつ構成する領域の得点がそれぞれ配点の50%以上、「一般問題」は構成する各領域の得点がそれぞれ配点の35%以上とされ、これを「足切り」という。4年次に行われるCBTは総点で判断される(60%以上)が、国試は各領域ごとに「足切り」が設定されているので、注意しなければいけない。今回は「物理・化学・生物」の「必須問題」と「一般問題」、また「法規・制度・倫理」の「必須問題」、「衛生」の「一般問題」での足切りで不合格になった受験生が多かったと思われる(薬ゼミ自己採点システム調べ)


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