【日本薬学会第135年会】“薬学教育学”の確立を

2015年5月1日 (金)

薬学生新聞


 3月に神戸市で開かれた日本薬学会第135年会のシンポジウム「薬学教育学の確立を目指して」では、サイエンスとしての“薬学教育学”を確立する必要性が強調された。薬学生に対する教育効果を科学的に検証し、その結果を踏まえて、より効果的な教育を実践する。印象や直感ではなく、科学的な方法論でこのサイクルを回すことによって、薬学教育の充実を図ることが狙いだ。

木内氏

木内氏

 昭和大学薬学部教授の木内祐二氏は「カリキュラムを作成して実施し、学生の評価を行うが、従来は印象や直感に基づいてカリキュラムを改善してきたと思う。そうではなく、仮説に基づいてカリキュラムの成果を解析し、改善していくことが教育学ではないか」と語った。

 昭和大学は、医・歯・薬・保健医療の4学部合同による体験学習やPBLチュートリアル学習、病棟実習などチーム医療教育を推進している。その学習効果を学生はどのように自覚しているのかを明らかにするために木内氏らは、アンケート調査を実施し、様々な質問項目について5段階で回答してもらった。その結果を解析して、どの項目の学習効果が高かったのか、その効果は学部によってどう異なるのかなどを把握し、カリキュラムの改善に役立てている。

 このほか、▽ポートフォリオは学習の良否を反映しているのか▽PBLを各学年で繰り返すことは有効か――など様々な角度からの解析を実施。学生の学習心理や学習行動も解析できるとし、それらの結果をもとに「学生にとって不十分な領域、学部間に偏りのある領域を抽出し、カリキュラムの改善などを行っている」と木内氏は話した。

 一方、設立に向けた準備委員会が昨年立ち上がった日本薬学教育学会について、同委員長を務める私立薬科大学協会の笹津備規氏(東京薬科大学学長)は「2年以内に学会を設立することを目標に活動している」と語った。

 医学、歯科医学、看護学などの領域ではそれぞれ教育学会が設立されているのに対し、薬学教育の学会は存在していない。

 笹津氏は「薬学教育体制の構築とその成果に関する検討は、主に薬学関連団体で行われ、教育改革の検証も主として文部科学省の委託事業で実施され、その成果は報告書で発表されている。個々の大学や実務実習施設における取り組みとその成果も複数の学術集会や学術雑誌、商業誌に分散されて発表されているのが現状」と問題を提起。「薬学教育の改善や充実に向けた取り組みの推進のために、教育学に関する最新の知見について情報を共有する機会と媒体が必要。サイエンスとしての薬学教育学を確立することが求められている」と呼び掛けた。

自殺防止のゲートキーパーに

嶋根氏

嶋根氏

 シンポジウム「薬物乱用の新たな波への理解と対応:危険ドラッグと処方薬乱用」で嶋根卓也氏(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部)は、自殺を防ぐゲートキーパーとしての薬局薬剤師の役割を強調した。不要な薬が患者の手元に存在しないように残薬を調整したり、過量服薬に気付いて対応したりするなどの関わりが求められると語った。

 薬物依存による入院患者のうち、処方された睡眠薬や抗不安薬によって入院に至る患者の割合が近年増加している。自殺目的で向精神薬を過量服薬したり、死ぬつもりはなくても過量服薬の結果、衝動的に自殺行動をとってしまったりするため、その対策が課題になっている。

 嶋根氏は「処方薬が自殺を後押しする道具として使われてしまっている」と強調した。「薬をためている可能性を考慮せずに漫然と処方を続けることが一つの問題ではないかという指摘がある。過量服薬の問題は医原病としての側面がある。薬剤師が残薬を確認することが極めて重要ではないか」と呼び掛けた。

 また、「薬物乱用リスクの高い患者を早期に発見し介入することが重要。ゲートキーパーとしての薬剤師の役割が注目されている」と語った。

 ゲートキーパーには、気づく、関わる、つなげる、見守るという四つの役割がある。患者が気軽に話せる存在として薬剤師は、その悩みに気付いて関わり、行政や他の組織、医師などにつないで見守っていく役割を果たすことができるという。

冊子配布でBZ系の処方減少

稲田氏

稲田氏

 一方、東京女子医科大学医学部神経精神科の稲田健氏は、ベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤の適正使用のポイントを紹介した。

 海外に比べて日本ではBZ系薬剤の使用量が大きく、その薬物依存が問題になっている。稲田氏は「依存性が生じて中止困難になり、眠気や集中困難、ふらつきや転倒、健忘、奇異反応、せん妄、脱抑制などの副作用が生じる。ベネフィットを求めて飲んでいるはずが、気がつかないうちにリスクの方が高くなっていることが問題」と指摘した。

 BZ系薬剤の使用量減少に向けた対策の一つとして同附属病院は、患者に配布する啓発冊子を作成した。BZ系薬剤の効果や副作用、中止の方法、薬以外の対処方法、専門科受診の案内を記載。睡眠薬を3剤以上、または6カ月以上服用している患者の入院時に、薬剤師が配布する。取り組みの結果、同院でBZ系薬剤が処方された患者数は前年同月比で17.8%減った。手紙や冊子を配ることの有用性は、海外論文のメタ解析でも確認されているという。

 多剤併用の抑制に向けて昨春の診療報酬改定では、1回の処方において3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬、4種類以上の抗うつ薬または4種類以上の抗精神病薬を投与した場合、原則的に処方箋料、処方料、薬剤料は減算されることが決定し、昨年10月から適用された。

 しかし、稲田氏は「睡眠薬や抗不安薬という枠内では減っているが、今まで3種類の睡眠薬を出していた患者さんに睡眠薬は2種類にして代わりに抗不安薬を入れるなど、BZ系薬剤全体ではあまり減っていないのではないか」と懸念を表明。医師に委ねるだけではなく、医療モデル全体で対策を考えなければならないとし、薬剤師の役割に期待を寄せた。



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