【これから『薬』の話をしよう】薬は全員に効くわけじゃない!?

2017年11月1日 (水)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 みなさん、こんにちは。前回までに僕たちは、薬剤効果の曖昧性や臨床における価値判断の多様性について考えてきました。今回からは少し視点を変えて薬の効果について考えていきたいと思います。

 以前も紹介しましたが、日本人を対象にした臨床試験において、プラバスタチンの投与は、投与しない場合に比べて心臓病の発症を33%減らすことが示されています(PMID:17011942)。この33%として示された比の指標を「相対危険減少(relative risk reduction:RRR)」と呼びます。

 この研究では平均5.3年の追跡期間中、心臓病を発症したのはプラバスタチン投与群で66人/3866人(1.71%)、同剤非投与群で101人/3966人(2.55%)という結果でした。この比(1.71/2.55)をとれば確かに0.67(67%)となり、33%リスクが減ることが分かります。

 では発症率の差を考えてみましょう。前々回のコラムでは年率で示しましたが、今回は平均5.3年間における発症率の差で計算してみます。単純に発生率の差を計算すれば良いわけですから、2.55-1.71=0.84%ですね。プラバスタチンを投与すると、投与しない場合に比べて、平均5.3年で心臓病の発生が0.84%減少するというわけです。この差の指標を「絶対危険減少(absolute risk reduction:ARR)」と呼びます。

 この0.84%減るという効果は、例えばプラバスタチン投与群100人と同剤非投与群100人を比較した場合、5.3年経過した時点で心臓病の発症を0.84人防ぐことができるとも表現できます。では1人の心臓病発症を防ぐには何人に対してプラバスタチンを投与しないといけないでしょうか。これは比の計算『100:0.84=x:1』で求められ、x=119人と計算できます。

 つまり、119人に5.3年間プラバスタチンを投与すると、そのうち1人を心臓病から救えるということなんですね。この119人として示された“何人治療すればイベントの発症から1人救えるのか”という指標を「治療必要数(number needed to treat:NNT)」と呼びます。

 よく考えてみるとこれは、118人は5.3年間にわたり無駄にプラバスタチンを飲んでいることを意味しています。そう、薬は飲んだ人全てに効いているわけではないのです。次回はもう少しこのNNTについて考えていきます。



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