医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一
2回にわたりプラセボ効果とノセボ効果を取り上げてきました。薬剤の厳密な効能(Efficacy)だけが薬の効果(Effectiveness)をもたらしているわけではない、という視点はとても大切です。
今回はアドヒアランスという視点から薬の効果について考えてみましょう。アドヒアランスとは、患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味する言葉です。薬物治療におけるアドヒアランスを服薬アドヒアランスと呼びます。
服薬アドヒアランスが良好な患者さんでは、健康状態も良好に維持されるというイメージがあるかもしれません。概ねそのイメージは正しいといえます。
21研究の統合解析において、服薬アドヒアランスが良い人では、そうでない人に比べて死亡のリスクが44%少ないという報告があります(PMID:16790458)。ただ、この研究ではプラセボのアドヒアランスが良い人でも、死亡のリスクが44%低いという結果が示されているのです。このリスク低下を、すべてプラセボ効果で説明できるかといえば、それはやや難しいように思います。
少し考えてみましょう。服薬アドヒアランスが良い人って、どんな人でしょうか。食事や運動など生活習慣に配慮し、検診や予防接種も積極的に受ける人かもしれません。つまり、健康への関心が高い傾向にあるといえるでしょう。したがって、服薬アドヒアランスが良いことが死亡リスクを低下させているというよりは、服薬アドヒアランスの良い人の特性が死亡リスク低下に寄与している可能性が考えられます。
このように、服薬アドヒアランスの良い人の特性が将来的な健康状態にもたらす影響をhealthy adherer effect(HAE)と呼びます。実際、服薬アドヒアランスが良好な人は、検診や予防接種を積極的に受け(PMID:21669377)、転倒や骨折、さらには自動車事故リスクが低いという報告(PMID:19349320)があります。
プラセボのアドヒアランスが良いと死亡が少ないという研究結果は、死亡リスクの低下には、薬の薬理作用だけでなくHAEも大きな影響を及ぼしていることを示しています。このことはまた、死亡リスク低下に寄与している薬剤の厳密な効能が、実は僕らの想像よりも小さいという可能性を示唆しているとはいえないでしょうか。