【ヒト・シゴト・ライフスタイル】ヘルスケアで企業と社会つなぐ ガラパゴス・トーキョー・ジャパン代表理事 北川潤之介さん

2019年9月1日 (日)

薬学生新聞


製品の価値伝え、気づきを与える

北川潤之介さん

 ヘルスケアで社会と企業を結びつける仕事がしたい――。音楽で勝負しようと心に決めていた青年薬剤師の運命を変えたのは、一枚のポスター企業広告だった。コピーライターとして、コミュニケーションプランナーとして“価値を伝えるプロ”を目指し、コミュニケーションの世界へと入った。北川潤之介さんは企業からの依頼を受けて、広告やコミュニケーションの企画、制作を行っている。企業の存在意義や製品によってもたらされる価値を突き詰め、言葉のチカラで分かりやすく社会に提示し、情報の受け手に新たな気づきを与える仕事だ。2016年にはガラパゴス・トーキョー・ジャパンを立ち上げ、ヘルスケアをキーワードに企業と社会、医師と患者、地域とそこに住む人々をつなぐ活動を続けている。

薬学部から広告の世界へ

 北川さんの生家は福井県の薬局だった。文科系気質と自認しながらも東京薬科大学薬学部へと進んだが、大学入学後に素養がないことに気づく。興味のあることはすぐに吸収できるのに、薬学部で勉強したことが頭に入ってこない。薬剤師国家試験合格と大学卒業は「ギリギリだった」と振り返る。

 一つの職場で決められた時間に仕事を続けていくのは性に合わないと思っていた。薬剤師にはならず、大学卒業後は音楽の世界で仕事をしていこうと心に決めていた。そんな北川さんがコピーライターになったのは、大学時代から続けてきたある通信教育大手企業でのアルバイトがきっかけだった。卒業後も音楽活動と両立した形で契約社員として広告宣伝部で働いた。

 ある日、企業宣伝を行うことになり、社員からのアイデア募集で北川さんのコピーが採用された。そこで出来上がったポスターは、北山さんが作ったコピーなのに、自分のアイデアではない感覚があったという。「企業宣伝用のコピーに自分のアイデアが選ばれた時も、僕は生意気だったし、選ばれて当然だよと自信満々だった。でも出来上がったポスターを見たときに自分とは違う息づかいが聞こえて来たのは、“伝わる”ってこんなものなんだ、すごいな、これって」。

 この経験が契機になり、北川さんはコミュニケーションプランニングに興味を持つようになり、音楽よりも仕事にのめりこむようになった。フリーとして20代から国内化粧品大手、楽器大手と様々な企業の広告宣伝を手がけてきた。企業の広告宣伝で強く意識していたのは、情報発信者とその受信者で「価値と気づき」のコミュニケーションを生みだしていくことへのこだわりだった。

 広告宣伝とは、価値を提案し、多くの人たちに対してその価値を気づかせる仕事。だから北川さんは「自分は発信者ではなく媒介者」と話す。「壇上で演説するのではなく、演説している人の言葉を最前列で聞いて、後方にいる人たちに「自分はこう考えるけど、どうだろう?」と伝えていくイメージに近いですね」。では、気づくということは何かと尋ねると、「人が思ったことなのに、自分が考えたようになること」。いろいろな人たちが価値に気づき、媒介者になって社会に伝わっていく。

 「“地図が残る仕事”というコピーはとても素晴らしいですね。働いている人たちやそのご家族が誇りを持てるし、社会にも伝わる」と北川さん。企業の存在意義や製品が社会に与える価値と、受益者となる一人ひとりにとっての価値は何なのかを突き詰め、伝える技術、センスを磨いていった。

乾癬患者のためのサイト展開

 今一番関心があることは、医療におけるコミュニケーションだという。患者がどう自身の症状や状態を医師に伝えたら、治療満足度の高い治療を受けられるのか。医師は患者に対してどう聞き出せれば最適な治療計画を立てられるのか。患者と医師の距離感は遠く、01年からヘルスケア領域でコミュニケーションの企画・制作に関わり、その答えを探してきた。16年に自らが代表理事を務めるガラパゴス・トーキョー・ジャパンを立ち上げた。

 ヘルスケアの世界は医学的根拠に基づくコミュニケーションが求められる一方、情報の正確性や完全性にとらわれ、患者やその家族、一般生活者にその価値が伝わらず、伝えたいメッセージが広がらないのが大きな課題だ。北川さんは「正しいことを書いても、それが見られなければ書いていないのと同じ。分かりやすく伝えることがとても大切」と言う。

 そこで、乾癬患者やその家族が求める情報を提供するウェブサイト「乾癬パートナーズ!」を立ち上げた。ウェブサイトの中には、患者とそれに関わる人たちの人生が詰まっている。乾癬と生きる10人の物語では、乾癬患者10人が抱える悩みやそれぞれの方法で乾癬とどう付き合っていくためのストーリーが綴られている。一方、乾癬患者を支える10人の物語では、医師や薬剤師、看護師、家族がどう寄り添い、苦しみを理解するためのそれぞれの葛藤が読み取れる。

ヘルスケアで街づくりを

 北川さんが目指しているのは、人生と響き合うヘルスケア社会である。病気を治すという目標ではなく、食べることも眠ることも遊ぶことも全て含む人生での目標を達成することがヘルスケアなのだという。そのためには、「患者さんのリテラシーを上げることも重要だが、患者さんがどういうふうに生きたいのか、どう生きるのが幸せなのかを突き詰めていくべきだと思っている」と話す。

 仕事も休日のオフタイムも変わらない生き方をしてきた。「娘と一緒にアニメを見ている時でも、『この仕掛けを使って薬剤の作用機序を説明したら面白いのではないか!』って考えてしまう」と笑う。コミュニケーションの世界にどっぷり浸かって、何気ない瞬間でも他者と他者を結びつけるための方法論を楽しんで探してしまう自分がいるという。

 ヘルスケアの仕事をするようになって東薬の卒業生と多く出会い、仲間に支えられてきた。人と人が支え合う社会。今後取り組むテーマも決まっている。ヘルスケアをキーワードとした街づくりだ。「この町に生きて良かった、この町で死にたい、この町にいる意味を噛みしめられるヘルスケアのブランディングをしてみたい」とこれからも前進していく北川さん。

 遠い昔の大学生活を振り返って、「最短距離で卒業するために優先順位を付けて勉強する癖ができたこと、論理的に物事を考えるのが苦ではなくなったこと、苦手なことでもなんとか目標を達成できるという根拠のない自信を得たことの三つは、学べたような気がしますね」と懐かしむ。

 薬学生の後輩には「社会にがっかりしないでほしい」とエールを送る。いざ社会に出て薬剤師として働き始めると、患者のために取った行動が否定されるという辛い経験に遭遇するかもしれない。

 「10人の患者さんがいて、その全ての患者さんを助けることができないかも知れない。でも一人でもいい、一言でもいいから、患者さんに寄り添ってほしいなあ」と優しい眼差しで言う。若い薬剤師の成功体験から多くの気づきが生まれ、薬剤師は絶対に必要と認知される社会環境の構築も北川さんのやりたいことの一つだ。



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