【各業界の動向と展望をチェック!】相次ぐ大型買収、海外展開も加速~製薬企業の動向~

2020年3月1日 (日)

薬学生新聞

 2019年度の製薬業界は世界的に企業買収が相次いだ年となった。昨年度は武田薬品が日本企業としては過去最高額となる約7兆円で買収したことが話題となったが、今年度も大日本住友製薬やアステラス製薬が3000億円以上のM&Aを行い、新薬開発や海外展開を加速させている。国内の医薬品市場が厳しさを増す中、治療領域のみならず、予防医療や介護も含めた事業拡大を模索する企業も見られるようになり、各社の強みを生かした総合的なヘルスケア事業の基盤構築を図っている。

 医療用医薬品市場は、医薬品開発の難易度が年々高まっているのに加え、医療費高騰による薬価引き下げや人口減少により縮小傾向にある。製薬企業は、物質特許で独占販売期間が保護されている新薬を販売することで収益を最大化する一方、特許期間が満了すると後発品メーカーの参入を受け、売上が大きく減少するビジネスモデルとなっている。一つの新薬を世界で開発するためにかかる費用は約26億ドルに上り、10年以上の期間を要することから、世界の製薬大手企業は1000億円以上を売り上げる主力品が特許切れを迎えるたびに後期開発段階に有力な開発パイプラインを持つ企業を買収してきた。

 国内企業も大日本住友製薬が23年に北米での物質特許満了を迎える非定型抗精神病薬「ラツーダ」の穴を埋めるため、英ロイバントサイエンス子会社を約3200億円で買収した。アステラスは遺伝子治療領域を強みとする米バイオ企業「オーデンテス」を3258億円で手中に収めた。旭化成も米国で医薬品事業を展開する「ベロキシス」を1432億円で買収し、米国での事業基盤を獲得した。

 国内製薬企業は国内医療用医薬品市場がマイナス成長に突入していることを背景に、日本市場でのシェア拡大よりも海外市場への進出を優先するようになっており、海外企業の買収に乗り出している。大手や準大手企業では海外売上比率50%を突破するようになった。後発品メーカーの海外進出も本格化しており、東和薬品がスペインの後発品企業「ペンサインベストメント」を389億円で買収し、日医工、沢井製薬に続き、グローバル市場に攻勢をかけている。

 製薬業界が保有していない新たな技術やアイデアを用いて、ヘルスケア業界という広い枠で新たな製品を開発する動きもある。三菱ケミカルホールディングスは、医薬品ビジネス単体で今後生き残ることが難しいと判断し、連結子会社である田辺三菱製薬の完全子会社化を決定した。グループが持つデジタル技術などを取り入れ、予防医療や再生医療、個別化医療ソリューションを総合力で展開する。

 業界の枠を超え、医薬品事業を包括した総合ヘルスケアビジネスが新たな市場を形成していく期待感も高まる。大手製薬企業を筆頭にIT企業やゲーム会社といった異業種企業と連携し、モバイルヘルスや治療アプリ、病気を未然に防ぐためのソリューション開発に乗り出している。

 異業種にとっても医薬品市場への参入や新たなヘルスケアビジネスの創出に向けた絶好の機会になっているようだ。缶コーヒーメーカーのダイドーグループは、昨年に希少疾患治療薬の開発を手がけるダイドーファーマを設立。飲料事業で健康や予防・未病領域で事業を展開してきたが、ダイドーファーマで治療領域に進出し、グループ全体で総合ヘルスケアビジネスを実現する。事業多角化を進める楽天も医薬品開発に参入し、レーザーで癌細胞を死滅させる光免疫療法の事業化に挑んでいる。

 人工知能やモノとモノがつながるIoTなど最先端技術で社会課題を解決する「ソサエティ5.0」の実現が国の成長戦略となっている。薬学生のみなさんには、医薬品開発・販売といった従来の枠のみで製薬企業を考察するのではなく、より視野を広め、医療全体の動向を見据えた幅広い洞察をもって就職活動に臨んでほしい。



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