保険薬局業界は、近年の診療報酬改定により、従来型の処方箋を応需し、調剤するだけの薬局からその機能や役割に応じた収益体制面でも大きな変化を余儀なくされている。診療報酬は、厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)で決定される医療サービスの公定価格のことだ。保険薬局の場合、調剤などの業務に関して調剤報酬点数があり、全国一律の負担で調剤サービスや医療用医薬品を購入することが可能となっている。
現在、診療報酬は2年に1度見直し、改定が行われている。高齢化を背景とした40兆円を超える規模に達した医療費削減に向けた、医療サービスの質の向上と効率化を図る必要性があるため、このところ保険薬局業界に向けては大鉈を振るうような改定が行われている。
その前段として、厚生労働省が2015年に策定した「患者のための薬局ビジョン」がある。ここに盛り込まれた「対物業務から対人業務へ」という概念が薬局薬剤師のあるべき姿として重要なキーワードとなっている。現在、その方向性で今年4月の調剤報酬改定や、昨年11月に成立し、公布された改正医薬品医療機器等法(改正薬機法)にも反映されていくことになる。
薬剤師の対人業務については、昨年4月に厚生労働省が「調剤業務のあり方について」という通知を発出した。これまで、薬剤師のみとされていた医薬品棚からのピッキングなど対物業務の一部について非薬剤師が可能な業務の範囲が示された。薬剤師による対人業務のウエートを高めることにつながる。
これまでの薬局薬剤師の業務は「調剤して薬を渡して終わっている」ことが目的のようなイメージがあった。通知や診療報酬改定の中で求められている対人業務は、患者に対して笑顔で親切に対応するという意味ではなく、薬剤師が薬学的知識や技能をもとに、疾患の治療に積極的に関わることに注力していくというものだ。
昨年、公布された改正薬機法には、薬剤師には投薬後のフォローアップも義務化され、4月の調剤報酬にも取り組みの評価が行われている。改正薬機法を検討する議論の中では「国がかかりつけ薬剤師・薬局の推進を目指しているものの、現状、薬局薬剤師の仕事ぶりが患者に見えない」という厳しい指摘があった。改正薬機法では、かかりつけ薬剤師・薬局の業務をより明確に見える形で示すため都道府県知事の認定する「地域連携薬局」「専門医療機関連携薬局」を導入。21年秋頃にもスタートする見通しで、従来型の漫然と処方箋を調剤する薬局は患者から選択されない時代が来るかもしれない。
そうした中で、保険薬局市場は大手調剤チェーンが出店やM&Aによる店舗拡大を図るなど、現在全国に約5万8000軒の薬局があるのが実情。今後、現行の社会保障制度を堅持していくためには、約3万軒ほどにまで薬局を削減する必要性も言われている。
このところの薬局薬剤師の業務や役割が大きく変化しようとしていく中で、その流れにどのように対応していくかどうかが大手調剤チェーン、中小、独立系の薬局の如何に関わらず問われてくるところだ。4月の調剤報酬改定、さらには改正薬機法の施行により、保険薬局業界は新たな局面を迎えることになりそうだ。