「薬剤師業務は法律と政治が深く関わっている。薬剤師がより一層活躍できるよう、現場の声を政治に結びつけていきたい」と意気込みを語る日本薬剤師連盟副会長の神谷政幸さん。今年3月25日の日本薬剤師連盟の定時評議員会で、藤井基之参議院議員の後継候補として選任を受けた。神谷さんは地元である愛知県豊橋市などで4軒の薬局を経営。日々、薬剤師として店頭で処方箋調剤、OTC医薬品販売、在宅医療などに従事するなど地域住民の健康をサポートしている。現場の薬剤師として培った経験を軸に2年後の国政選挙に挑んでいく。
26歳で家業の薬局継ぐ‐団体役員や地域活動経験
神谷さんは1979年1月生まれの41歳。現在、相談役を務める「神谷薬局」は65年以上の歴史があり、神谷さんは3代目。幼少期から薬局を通過して自宅に入るという職住一体だったこともあり、薬剤師である祖父や父親の仕事ぶりを身近に見て育った。当時は、まだ医薬分業が現在ほど浸透していなかった時期でもある。地域住民からの健康相談に真摯に対応する父親の姿に「自分も薬剤師として、地域の人から頼られる存在となりたい」との思いを重ねながら、自然と薬剤師を志すようになったという。
2003年に福山大学薬学部を卒業後、実家の薬局には戻らず製薬企業のエーザイに就職。「当時は、医薬分業が進み始めた頃で、薬局業態も大きく変化しようとしていた。まずは薬業界全体を俯瞰できる製薬企業に勤務し、薬がどのように生まれ、患者へと届けられているのか現場で学び、業界動向を見定めていきたいと考えていた」と話す。開業医担当MRとして大阪府の守口、門真、大東エリアでの学術情報提供活動に従事。「関西には全く馴染みはなかったのですが、皆さん懐に入ると凄くよくしていただき、楽しかった」と当時を振り返る。
その後、父親が急逝。3年半勤めたエーザイを退職し、26歳の時に家業の薬局を継ぐ格好となった。「当時から4店舗を展開し、従業員もいたため、なんとかしないといけないと考え、急遽退職を決めて戻って来た」と神谷さん。既に父親も他界して、何も分からない状態からの薬局経営のスタートに、苦労は尽きなかったという。
その後、自らの薬局経営に加えて、地元薬剤師会や青年会議所などの役職にも就き、行政とのつながりも経験していく。団体役員としては▽09年に豊橋市薬剤師会理事▽13年愛知県薬剤師会理事・同県薬剤師連盟の総務担当▽14年日本薬剤師連盟企画実行委員会委員▽17年愛知県薬常務理事▽18年日本薬剤師会災害対策委員会委員・豊橋青年会議所開発理事▽19年豊橋市薬副会長――を歴任。
また、所属する日本在宅薬学会では16年から学術大会の実行委員となり、昨年、名古屋市で開催された第12回学術大会では実行委員長も務めた。
このほか、地元の豊橋市が推進する「豊橋まちゼミ」にも参加。「まちゼミ」とは、個人商店でありながら様々な技能や知識を持つ店主が無料で開催する知識講座のこと。神谷薬局では「認知症」や「口臭・体臭」に関連する講座を実施。この取り組みを通じて「調剤薬局という言葉が一般的になった反面、日常的に身近な薬局の薬剤師という専門家に気軽に相談ができるということが、まだ理解されていない部分が大きいとも感じた」と話す。
職能発揮には法と政治が重要‐かかりつけ定着に力注ぐ決意
神谷さんは、政治活動として日薬連盟の企画実行委員会委員を務めた際、藤井議員が当選を決めた16年の参議院選挙と、本田顕子議員が初当選した19年の参議院選挙で、企画面や地元での活動に深く携わってきた。「委員を務めた6年間で薬剤師の仕事や生活面に、政治が大きく関っていることがよく理解できた」と強調する。それらの経験から「薬局、病院、企業、教育機関、およそ薬のある場所に必ず薬剤師がいる。国から付託された薬剤師資格を十分に発揮するには、法律と政治が深く関わってくる」との確信を得たことが、政治家を志すきっかけとなった。
また、豊橋青年会議所に7年間籍を置いていた時期に、地域住民により一層政治に関心を持ってもらうことを目的とした「市民主権推進委員会」の委員長を務め、特に10代の高校生などに向けた事業を構築した。「考えれば考えるほど、若い人たちにも関心を持ってもらい、政治を良くしないと、この国の将来は危ないということを強く感じた」とし、自身も政治家への思いが日増しに高まっていった。
神谷さんは、積極的に取りみたい事として「国民皆保険制度の堅持と薬局経営基盤の安定化」「かかりつけ薬局・薬剤師に医薬分業の一層の定着」「国民が安心して暮らせる、災害に強い医療、介護の提供体制の整備など国土強靱化の推進」を掲げる。特に、かかりつけ薬局薬剤師の定着については「今回の薬機法改正で薬局の位置づけが変わってきたように、薬局薬剤師のあり方は、法律の影響を受ける部分が大きい。薬局をどのように活用していけるかという点については、現場の薬剤師としての視点をぜひとも取り入れたい」と展望する。
薬剤師を取り巻く環境に対しては「様々な声があるが、今後10年、20年先を考え、もっと取り組んでいけることはある。その先を見据えながら、薬業界で働く人、薬剤師、そして薬学生の皆さん方の将来に対する思いの声を一つ一つうかがっていきたい」と語る。神谷さんの信条としては「薬剤師は、技能や医療の知識を含めて、地域住民の方々にできることはまだたくさんある。今の医薬分業についてのバッシングなど様々な声はあるが、薬剤師がもっと地域生活者の健康に寄与できることがあるはずだと信じている。それをできる環境を作っていきたい」とする。
また、若手薬剤師や薬学生に向けては、「薬剤師の職業は、調剤のみならず公衆衛生面の向上や健康寿命の延伸、医薬品開発や物流面での貢献など、可能性がたくさんある。その認知度も含めて、構築していくのはこれからの薬剤師だと思う。それには、まず自分たちで動き、声を出して取り組んでいくことで、自ずと道は開けていく。やはり、薬剤師の職能や可能性を信じて、これらからの未来を共に作っていけたらいいと思う」と話す。
自身について「様々な事象について、原因や理由を分析することがとても好きな性格」だという。趣味は音楽鑑賞(ポップス)と読書で、好きなアーティストは大江千里、作家は五木寛之。自身の名前から考えたキャッチフレーズである「か」がやけ、「み」らいの、「や」くぎょうかい、の実現に向けて挑んでいく覚悟だ。