患者からの感謝にやりがい
「理想は薬局業務とOTC薬販売のどちらにもしっかり対応できる薬剤師」。森下達也さんは関西圏を中心にドラッグストアや保険薬局を展開するコクミンに入社して5年目になる薬剤師だ。調剤併設型ドラッグストアのシルク枚方駅前SD店(大阪府枚方市)で院外処方箋への対応を中心に、OTC医薬品の販売に取り組む。「患者さんや相談者さんからありがとうと言ってもらえるのが一番うれしい」とやりがいを語る。
2015年に京都薬科大学を卒業。健康な人から病気の人まで幅広い層と関わりたいと考え、ドラッグストアや保険薬局を展開するコクミンに就職した。大阪府内の2店舗を経て、19年からシルク枚方駅前SD店の管理薬剤師として働いている。
昨年11月のある土曜日。9時頃に出勤し、レジへの入金やパソコンの起動など開店準備を行った。
この日は、月1回の会社全体の定例会議がオンライン上で開かれた。社長や幹部のほか、各店舗の責任者クラスが出席する会議だが、森下さんもビデオ会議システムを通じて参加。9時30分から13時まで事業の方針などについて説明を受けた。
13時からは調剤併設型ドラッグストアの管理薬剤師らが集まるグループ会議に移行。後発医薬品の使用促進、在宅医療などの取り組み事例を共有した。他店舗のスタッフと連絡を密にとれるため、安心感につながっているという。
14時から15時までの昼休憩を挟み、薬局業務を始めた。同店は近隣の関西医科大学附属病院やメンタルクリニックなどから院外処方箋を1日30~40枚ほど応需している。
この日は、睡眠薬によるふらつきに悩む70代の女性が薬の相談に訪れた。他薬局で納得のいく回答を得られなかったため、以前に処方箋対応をした森下さんに相談が持ちかけられた。
森下さんは「薬の服用やふらつきへの不安で眠れなくなるなら、思い切ってやめることを医師に相談してみては」と提案。後日、患者から処方医に話してもらい、睡眠薬の服用中止に至った。
17時頃、定期的に訪れる生活習慣病患者が来店。処方薬の受け渡しのほか、健康食品の相談に対応した。
相談は、血糖値の上昇を抑える粉末のお茶を飲んでいるが、粉を溶かす手間がかかるため、代用品を探してほしいという内容だった。
森下さんは飲みやすいタブレット剤を提案。粉末のお茶と同様の成分を含むサプリメントを購入してもらった。
18時から薬歴記入業務、医薬品の在庫管理などを行い、この日は18時30分頃に退勤した。
京都薬大に進学したのは09年。人と話すのが好きで、人とのつながりや会話を仕事の一部にしたいと思い、薬剤師を目指そうと考えた。
入社1年目に苦労したのが、幅広い商品知識の習得だ。最初に勤務していた調剤併設型ドラッグストアは、一般用医薬品など約1000SKU(商品の種類)以上を取り扱っていた。院外処方箋への対応が業務の大半を占めるが、OTC薬の相談に乗る機会も少なくない。当時、OTC薬の商品知識の不足から即座に回答できず、悔しい思いをしたという。
現在の店舗では第1類医薬品を中心に1日あたり10~20件ほどOTC薬を推奨している。森下さんは「OTC薬の推奨は瞬発力が求められる。今は、症状ごとに勧める商品を自分なりに整理しておき、相談内容に応じて瞬時に判断できるようにしている」と話す。
現在の職業で最もやりがいを感じる瞬間を「患者さんにありがとうと言ってもらえた時」と話す。「薬の情報はインターネットで誰でも簡単に調べられるが、大事なのはその知識をどうやってわかりやすく伝えるか。患者さんにかみ砕いて説明し、安心して薬を飲んでもらうことが薬剤師の使命の一つだと思う」と語る。
OTC薬の販売は薬剤師の裁量の余地が大きい。相談者に聞き取りを行い重症度や緊急度を見極めて、薬で対処するか、受診勧奨するかを薬剤師自身で判断する必要がある。薬局業務とは違ったやりがいがあるという。
厚生労働省などは軽度な身体の不調を自身で手当てする「セルフメディケーション」を推進し、薬剤師にも期待が寄せられている。森下さんは「薬剤師に求められる役割は増えている。理想は薬局業務とOTC薬販売のどちらにも対応できる薬剤師。知識を増やし、判断力を伸ばしたい」と今後の抱負を語る。