【これから『薬』の話をしよう】高齢者の薬物療法を考える

2021年3月1日 (月)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 先日、高齢者に対する薬物療法についてお話する機会があったのですが、あらためて「高齢者」とは何だろうかと思い悩んでしまいました。高齢者という概念は、年齢で区分されることが一般的ですよね。例えば、世界保健機関(WHO)では65歳以上を高齢者と定義しています *1。日本でも65歳以上を高齢者と呼ぶことが多いように思いますが、近年では65歳から75歳までを准高齢者、75歳以上を高齢者とするのが妥当ではないかという提言もなされています(PMID:30760676)。時代の変化とともに健康寿命が延び、既存の定義では高齢者という概念をうまく説明できなくなっているのでしょう。

 集団の平均値としてみれば、令和を生きる65歳の人は、昭和を生きる65歳の人と比べて、健康状態がより優れていることは確かな事実です *2。しかし他方で、寝たきりの高齢者、あるいは何らかの障害を抱えて介助なしには生活がままならない高齢者も少なくありません。高齢者の身体、並びに認知機能は、若年層よりも多様であり、同じ年齢であっても健康状態は人それぞれで大きく異なっています。高齢者に対する薬物療法もこのような状況を踏まえる必要があります。

 例えば、80歳を超えるような高齢者に対する高血圧治療を考えてみましょう。介護の必要性がなく、認知症などもない80歳以上の高血圧患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)では、積極的な降圧療法を行うことで脳卒中が30%減る傾向にあり、死亡リスクも21%減るという結果が示されました(PMID:18378519)。しかし他方で、介護施設に入所している80歳以上の高齢者を対象とした観察研究では、収縮期血圧が130mmHg未満かつ、降圧薬の服用が2剤以上の人では、それ以外の人と比べて、死亡リスクが1.8倍高いという結果でした(PMID:25685919)。80歳を超えるような高齢者でも、積極的な降圧療法は有用であるというRCTの結果と、降圧薬を減らしたほうが良いかもしれないという観察研究の結果、この違いを皆さんはどう考えますか。

 高血圧のような慢性疾患用薬の効果を考えるということは、患者さんの予後を想像することに他なりません。虚弱高齢者では、壮健高齢者に比べて死因が多様化しており、また潜在的に死亡リスクが高いと言えます。したがって、降圧療法による生命予後の改善に対する影響は壮健高齢者よりも小さいのです。むしろ降圧薬の副作用リスクの方が大きいのかもしれませんね。

*1 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-032.html
*2 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html



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