卒前卒後の一体養成策を‐厚労省・安川薬事企画官
厚生労働省医薬・生活衛生局の安川孝志薬事企画官は、薬事日報のインタビューに対し、「薬剤師の養成および資質向上等に関する検討会」での取りまとめを受け、卒前と卒後を一体化した薬剤師養成策を検討すべきとの考えを示した。文部科学省が薬学教育、厚労省が卒後教育を所管しているが、「文科省と厚労省がもっと協力していくことが重要」とし、両者で研修プログラムや実施体制などのあり方を検討していくことを今後の課題に挙げた。
厚労省は、およそ1年かけて薬剤師に関する需給、養成、資質向上の今後のあり方について議論を行った。薬剤師の需給調査では「将来的には業務の充実により需要が増えると仮定しても、供給数が需要を上回る」とし、薬剤師が供給過剰になることが示された。
安川氏は、「薬剤師の供給が過剰になるという問題を別にしても、学生が減るのに学生の質を確保できるのかという質の懸念については、議論していかなくてはいけない」と指摘した上で、文科省が薬学教育、厚労省が卒後教育と卒前・卒後で管轄省庁が分かれる薬剤師養成のあり方に言及。
「厚労省は薬剤師免許の取得後にどういうキャリアパスを描いていくかを考えていくべき立場」としながらも、「薬剤師養成を議論のテーマにすると、卒前でのプロセスも必ず話題になるので、薬学教育とセットで議論しないといけない。卒前・卒後を一体化し、教育から免許取得、そしてその後のキャリアパスを考えないと議論が錯綜してしまう」と述べ、薬剤師養成で文科省と厚労省の連携強化を訴えた。
薬学教育については、2022年度には薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂を予定しているが、検討会の取りまとめでも▽今後の実務実習のあり方を検討する▽臨床現場の実態を学習できる内容にする▽薬科大が他の医療系学部を持つ大学と連携する――ことなどが提言された。
ただ、卒後研修は、免許取得直後の薬剤師を対象とした研修を実施している医療機関がある一方で、法制化されていない。検討会でも医師の臨床研修のように広く実施すべきとの意見も出た。
安川氏は、「卒前の実習をどう充実させるかを考え、そこでやりきれない部分を免許取得後の実習で対応していく。実務実習の段階で対応可能な部分は、卒後で対応しなくても十分という議論があってもいい」とし、卒前の実務実習との関係性を踏まえ、卒後研修のあり方を検討すべきとの考えを示す。
一方、薬剤師の地域偏在をめぐる問題については、「都道府県ごとに需給推計した時には、人口減少が大きい地域とそうでない地域で薬剤師需要の変動要因に差が出てくる。都道府県単位で薬剤師確保や医薬品提供をどう考えていくかがこれからの課題」と指摘。各地域で薬剤師の充足状況や需要度を把握し、今後の対応策を検討すべきとした。
(2021年7月9日掲載)
6割の施設で薬剤師採用難‐自治体病院の実態調査
約6割の自治体病院は常勤薬剤師を十分に確保できていないことが、全国自治体病院協議会薬剤部会が実施した調査で明らかになった。2019年度の採用状況について319施設の回答を解析したところ、募集しても1人も確保できなかった病院は36.1%、募集人数の一部しか確保できなかった病院は25.7%に達していた。
回答を病院立地別に解析すると、医療資源の少ない地域や過疎地域、不採算地区に立地する病院(109施設)では、募集しても1人も確保できなかった病院は54.1%、募集人数の一部しか確保できなかった病院は14.7%と合計で約7割になり、平均値より高かった。募集人数を全て確保できた病院は31.2%だけで、地域偏在が認められた。
一方、都市部に分類される病院(99施設)でも、募集人数を全て確保できた病院は48.5%と半数にとどまっており、都市部でも薬剤師を十分に確保できていないことが分かった。
病床規模別では、規模が小さい病院ほど薬剤師の確保に苦労していた。募集しても1人も確保できなかった病院の割合は、99床以下の病院では54.8%、100床台の病院では63.3%に達していた。
回答があった全病院で採用できた人数の合計値を、募集人数の合計値で割った常勤薬剤師の採用率は55.3%。17年度の調査では61.7%だったが、18年度には59.3%に低下した。19年度はさらに4.0ポイント下がっており、薬剤師の確保は年々困難になっていることが明らかになった。
病棟薬剤業務との相関を解析した結果、募集しても1人も確保できなかった病院の割合は、病棟薬剤業務実施病院では28.6%だったが、同業務を実施していない病院では60.9%に達し、薬剤師不足が病棟薬剤業務の実施に影響している可能性が示された。
7月10日に開かれた日本病院薬剤師会のフューチャーファーマシストフォーラムで結果を報告した同部会長の室井延之氏(神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部長)は「地方の病院ほど採用が困難な状況だった」と言及。病棟薬剤業務などの進展を薬剤師不足が阻んでいるとし、「その解決が喫緊の課題」と投げかけた。
(2021年7月14日掲載)
医薬品産業ビジョンで骨子案‐重点領域決め、創薬後押し
厚生労働省は8月4日、「医薬品産業ビジョン2021」の骨子案を自民党の創薬力の強化育成に関するプロジェクトチームに示した。コロナ禍を踏まえ、ワクチン・治療薬など優先度の高い領域を入口から出口まで支援すること、後発品の供給不安が発生した場合は保険収載を見送るといったメーカーの責任強化などを盛り込んだ。
政府の医薬品産業の方向性と取り組むべき施策を示した同ビジョンの改訂は8年ぶりで、8年間の環境変化を反映したものとなった。骨子案では、▽革新的創薬▽後発品▽医薬品流通▽経済安全保障――の各分野に分けて記載した。
革新的創薬分野では、医薬品開発が高度化する現状を踏まえ、重点支援領域を設定するほか、ワクチンや治療薬など政策的優先度の高い領域で入口から出口まで伴走して支援する。
薬価制度の透明性と予見性の確保も重要とし、イノベーションの評価、原価計算方式の透明性向上、ワクチン等の定期接種化プロセスの効率化、緊急時の国による買い上げ、承認取得後も支援するプル型インセンティブの導入検討も記載した。
後発品メーカーによる供給不安や、製造工程上の不正事案等が見られた後発品分野については、安定供給に関するメーカーの責任強化を明記。
具体的には、製造品目数や製造量等に見合った管理体制を承認段階、GMP適合調査で確認すること、開発段階のデータに対する説明責任の強化や規格揃えのあり方など共同開発の見直し、保険収載時の安定供給確認の徹底と供給不安発生時の収載見送りなどを行う。
使用促進策として、バイオ後続品処方時の診療報酬上の評価、フォーミュラリー活用などを盛り込んだ。
医薬品流通分野に関しては、供給不安発生時の流通スキームを検討すること、優先度の高い安定確保薬に関する緊急時の流通在庫等を把握するスキーム検討、厚労省の流通改善ガイドラインの見直しと徹底を通じて適切な価格交渉などを図る。
経済安全保障分野を見ると、国際的な合意に則った緊急時の臨床試験フレームプロトコルの作成、緊急事態における特別使用を認める制度のあり方を検討することや、ワクチン国家検定の迅速化と簡素化も記した。
(2021年8月6日掲載)