医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一
薬の効果は、薬理学や病態生理学として理解されているような生物学的要因と、服薬という行為や状況によってもたらされる社会・心理的要因に分けることができます。後者は薬を飲む人の背景や心理的な影響、あるいは「広義のプラセボ効果」と言い換えれば分かりやすいかもしれません。薬剤師にとって大事なことは、薬の効果に占める両者の割合が、その種類や治療目的によって変わる可能性です。
薬の効果について、2015年に興味深い研究が報告されています(PMID:26431961)。この研究は、過去に報告されているランダム化比較試験のデータから、19種の薬物治療に関する臨床的な効果の大きさを比較したものです。
解析の結果、2型糖尿病患者の死亡リスクに対するメトホルミン、高血圧患者の心血管疾患リスクに対するACE阻害薬、脂質異常症患者の心血管疾患リスクに対するスタチン系薬剤など、将来的な合併症リスクの低減を目的とした予防的な効果は、臨床的にはかなり小さいことが示されました。
一方で、逆流性食道炎患者の症状緩和に対するプロトンポンプ阻害薬、疼痛緩和に対するオキシコドンとアセトアミノフェン併用、慢性閉塞性肺疾患患者の呼吸機能に対するチオトロピウムなど、主観的な症状の緩和を目的とした対症的な効果は大きいことが示されています。
予防的な効果よりも対症的な効果の方が大きいことは、薬の効果に占めている社会・心理的要因の割合が、予防的な薬物治療で小さく、対症的な薬物治療で大きい可能性を示唆しています。例えば、死亡リスクに対する薬物治療と、疼痛に対する薬物治療、どちらがプラセボ的な効果の恩恵が強いのだろうかと考えれば、その意味が良く分かると思います。むろん、この場合は後者でしょう。プラセボ的な効果だけで死亡リスクが大きく減るとは考えにくいからです。
生物学的要因に基づく薬の効果は、薬剤成分が有する潜在的な薬効であり、不変的かつ絶対的なものです。しかし、社会・心理的要因に基づく薬の効果は、医療者と患者の関係性、あるいは服薬する文脈によって変化する可能性があります。そういう意味では、対症的な薬物治療は、「薬」が「人」を癒すというよりはむしろ、医療者という「人」が「人」を癒すということに他なりません。薬剤師による服薬説明や患者対応は、本質的には社会・心理的要因に基づく薬剤効果の一部なのです。