私たちの身体をつくる上で、栄養は欠かせません。栄養士さんは、私たちの健康を願ってチーム医療や日々の暮らしの中で活躍しています。薬学生の読者のみなさまにぜひ、栄養学を学ぶ学生のことを知っていただきたく、今回は栄養学生団体【N】から長谷なつみさん(東京農業大学3年生)、森山なつみさん(同)、高木美菜子さん(日本女子大学2年生)を座談会に招待しました。日本薬学生連盟からは、広報部の加藤愛貴(広島国際大学4年生)、山沢智(日本薬科大学5年生)の2人がお話を聞きました。
オンラインで調理実習も
山沢 栄養学生の1日の生活がどんな感じなのか教えてください。私の場合は、今は病院実習をしていますので、学生の生活とは少し離れています。座学があった学年の時は、朝の9時から夕方の5時まで授業があり、さらに実習もあって結構ハードでした。
長谷 授業がオンラインになって結構変わってしまった部分もあるのですが、オンラインではなかった頃だと1年生の時は朝9時から夕方4時ぐらいまで授業があることが多かったです。私はあまり日常的に復習をしないタイプなのですが、実験があった日は、図書館などに寄ってその日のうちにレポートを絶対終わらせて、夜6時からはアルバイトという1日でした。オンラインになってからは、朝ゆっくり起きて、家でダラダラと授業を受けて、レポートやるならレポートやって、そのあとアルバイトという流れが多い印象です。
山沢 オンライン授業はライブですか。オンデマンドですか。
長谷 農大はほとんどオンデマンドだったのでいつ見てもいいみたいな感じでした。朝起きなくてもいいんですけど、起きないと1日がすぐに終わっちゃうので、起きようかなという気持ちでやっていました。
山沢 栄養学生の方も1日中かつかつというかぎっしりと授業があるんですね。空きコマはないんですか。
長谷 2年後期は3個くらいありましたけど、それでも忙しかった印象です。
加藤 私の妹も栄養学科に通っているんですけれど、今3年生で休みがないぐらい忙しそうで、ずっと何かしら課題を抱えている感じですね。
山沢 高木さんは今2年生ですよね。昨年は入学早々オンライン授業が多くて大変でしたか。
高木 そうなんです。オンラインの授業しかまだ知らなくて。だから、1日中大学に行くとか、いわゆるキャンパスライフを知らないんです。昨年は100%オンラインの授業で、実習だけ登校するスタイルでした。
オンラインだと、出席するだけでよかったものがすべて課題を提出しないと出席とみなされないので、多分やることが余計に増えていました。実習は学校に行ったら18時40分までの授業時間のはずなのに、20時くらいまで実験があったことがあって、時間感覚がよくわからなくなってしまいました(笑)
最近は、割と座学でも対面の授業が増えてきて、友達としゃべったりする時間も取れるようになりました。
山沢 少しだけでもキャンパスライフを楽しめるようになって良かったですね。栄養学部の実習ってどんなことをするんですか。イメージは調理実習なんですが。
森山 調理実習がやっぱり栄養学部の見どころかなって思います。色々な国の料理を作ってみようということで、中国のお粥を食べたことがあります。ライフステージ栄養学という授業の子供の離乳食の勉強で、粉ミルクを飲んだこともあります。ローストチキンを焼いた回もありました。鶏の足などを丸めて糸で縛って、そのままオーブンに入れて焼きました。
高木 私もローストチキンを作りましたが、オンラインの実習だったので家でやらされました(笑)。家でちゃんと1羽用意してやってくださいね、みたいなことを言われて。
材料費は自費ですね。実習費は払わないのでプラスマイナスゼロなんですけど。自宅のオーブンだと鶏が入らない学生もいて、そうするとスタイル悪めな感じで焼き上がるんですよね(笑)。どうしても用意できない人は大きめの手羽先で代用可能でした。
管理栄養士は医療知識必須
山沢 実験もあるんですか。
高木 日本女子大学は、病院の管理栄養士になってほしいという思いが強いようで、解剖の実験や病理学など、ここは医学部なんじゃないかみたいな実験や授業が結構多いです。そういった授業が必修になっています。
山沢 東京農業大学はどうでしょうか。
長谷 医療系の授業はありました。管理栄養士は疾患を抱える方に栄養指導を行えるもので、管理のつかない栄養士のほうは疾病に関わるというよりは健康とか食の魅力を伝えるという感じなんです。多分どこの大学でも、管理栄養士の勉強をしている時点で医学概論や病理学は学びますし、解剖もします。
山沢 栄養学を勉強して私生活に変化はありましたか。料理がうまくなったとか。
森山 それは結構あると思います、学校で料理をするので。大学1年生の調理実習の実技試験が大根の千切りだったので、包丁を使えないといけないからみんな料理をするようになりますし、SNSに載せられるくらい素晴らしいお弁当を作る友人もいます。
私は、料理はそんなに得意じゃないですけど、家族の食事を任されることが増えました。洗濯よりはやる気になるので(笑)。最近は創作料理にはまっています。冷蔵庫にレシピ通りの材料が揃っていることが少ないので、ありあわせのものだけで何とか作れるようにするということをここ1年半位ずっとやっていて。最近はレシピを見ずに料理をしています。
山沢 素晴らしい。なんだかいいお母さんになりそうですね。
加藤 ダイエット中のカロリー計算もできるようになるんですか。
森山 病院に勤める管理栄養士さんなら、一部の食品のカロリーは頭の中に入っている方もいらっしゃるようなのですが、今の私だと肉は脂っこくて豆腐はヘルシーということぐらいしかわからないですね(笑)
細かいところまではなかなか覚えられないですけど、食品成分表とかは学校で計算するんですよ。学校で献立を立ててと言われた時に、栄養素がバーッと並んでいる表があって、それを見ながらアプリにひとつずつ入力するという作業があるんですけど、そこでなんとなくの栄養価を知るという感じですかね。最近知ったことは、牛乳や卵は意外と蛋白質だけではなく、ビタミンなどもバランスよく栄養素として入っているんだなってことです。
山沢 勉強になります。卵いっぱい食べよう!
長谷 その流れで言うと、この食品にこういうビタミンやミネラルが含まれているんだなというのは、覚えるまではいかなくても自分で計算するので、やっぱり色々な食品を食べて栄養素を摂るのが健康に良いんだなというのはやっていくうちに認識します。コンビニに行った時にもおにぎりだけではなくて、ちょっと野菜買っとくか、みたいな。
山沢 薬学部の場合は、食品添加物や物質系の授業が多いです。食品パッケージの裏を見て、食品添加物は何が入っているかを確認して、ちょっとこれは添加物が多いなと意識するようになったとか、無添加って書いてあるけど完全無添加ではないなと考えたりして、最終的には添加物ができるだけ入っていないものを買おうって頑張ったりします。栄養素は全然わからないんですけどね(笑)
栄養士と薬剤師、密接な関係を
森山 薬学生から見て、栄養科ってどう思いますか。あまり知られていないような気もしますし。薬学生の子と知り合ってから、同じ医療学生って思っていたけど、結構イメージと違いました。
山沢 どんなところが違うなって感じましたか。
森山 思った以上に勉強量が多くて、病気の知識もやっぱり桁違いですし、本屋さんに行った時に、辞書みたいに薬の名前がいっぱい書いてある教科書もあって、唖然としちゃって。これを薬学生は勉強しているのかと思いまして……。
山沢 私自身も薬学部に入る前に持っていたイメージと、実際に薬学生になってからのイメージはだいぶ違います。薬学ってやっぱり医療のイメージが強かったんですけど、入ってから薬学というのが病気の治療だけじゃなくて薬品全般、化合物全般という感じのくくりで捉えられていると知って、水質検査など公衆衛生の勉強もありました。その上で辞書みたいな量の薬の勉強をしていて、これは大変なところに来てしまったなと。
今ちょうど病院実習に行っていてそこで患者さんを見て思うことは、点滴で栄養を入れている患者さんもいるけれど、薬だけじゃ絶対に対応できない部分があって、食べることができなくなるのがQOLの低下も招くので、栄養素や食事はすごく大事です。学年が上がるに連れて、栄養学が身近になってきていますね。学生のうちからもっと薬学と栄養学が交わったらいいのにって思っています。
森山 それはすごく思います。薬学生に対抗する訳じゃないですけど、私は栄養学というのは天然の薬のスペシャリストだと思っているので。薬剤師が薬によって安心を与えるのであれば、栄養士は食事で喜びを与える。もっと密接に関わればいいのになって思っています。
加藤 病院でいうと、栄養サポートチームですかね。どういう関わりがあるかまだ詳しくは分かっていないですが、チームの中に管理栄養士さんも薬剤師さんもいる中で、薬と栄養がちゃんと関わりあえる関係があってほしいですね。
山沢 薬学生と栄養学生でコラボしてみたいことはありますか。昨年度、年会というイベントで、日本薬学生連盟では薬膳料理についてやったことがあるのですが。
長谷 かつては薬学生とコラボして薬膳を一緒に作るイベントをやったことがあるそうです。
山沢 例えば、症例解析ってあるじゃないですか。こういう病気の患者さんです、みたいな感じでポンって情報が与えられて、その患者さんのご飯を考えましょうとかはやりますか。
森山 バリバリ授業でやっていますね。私の大学の場合だと、アセスメント表が配られて検査値や食習慣などが全部書いてあって、それに基づいて分析して、食事のどこを変えるべきかというのを組み立てたあと、エネルギーや蛋白質などの基準値に全部あてはめて、それに従って献立を立てます。自分で作って、ちゃんと本当に食べられる量なのかもチェックします。
山沢 薬学部や医学部の症例解析だと、疾患から治療方針を考えて終わることが多くて。でもその先もある気がしていて、大体の薬は食後か食前に飲むのに、その食について考えないで議論をしているのは不自然ではと思う時があります。食事と薬の関係みたいな感じで、ディスカッションできたら面白そうだなって思います。
森山 例えば、ある薬ではグレープフルーツがダメ、納豆がダメとか、病気によってはカリウムに制限があるとか。薬や病気によって禁食が発生することがあるので、そこは栄養士の出番というか、しっかり配慮して提供することになりますね。
食品やIT、幅広い就職先
山沢 ダメな成分はわかりますが、それがどの食べ物に入っているかはわからないってなってしまいます(笑)
最後に、将来はどのような道に進みたいですか。
森山 少し前までは、急性期病院の管理栄養士になって臨床に携わりたいと思っていました。調理や献立を立てることも大事ですが、その患者さんに必要な栄養素を分析する方をやってみたいです。
ただ、ぶっちゃけると、病院勤務はそれほどお給料が高くなくて。栄養学生には、食品メーカーとかに勤める方がいいんじゃないかと考える時があると思います(笑)
私は今、とにかく様々な業界を見てみようと、既存の就職業界だけではなく、マーケティングやIT、コンサルティングなどの企業も見ています。今は、栄養学の幅って結構広がっていて、ITとヘルスケアをかけあわせてアプリ開発などをやっている企業もあるので、様々な業界を見ています。
長谷 私は、予防医学に携わりたいです。病気になった方の栄養管理に携わるのも大切ですが、病気にならないための栄養や食事を考える方に就きたいと思っています。
病院の管理栄養士より、保健所や食品メーカーに就くのが候補になっています。特に民間企業に就職しようかと考えが傾いてきています。
保健所の取り組みは、私自身も栄養学部に入るまで知らなかったくらいなので、一般の方に浸透させるのはなかなか難しいかなと思っています。企業でマーケティングなどに関わって、社会で必要な力や情報を広めていくための力を身につけて、みんなが無理なく食事を改善し健康になれるようにしたいです。自分に能力をつけてから、保健所に転職して地域の健康増進に活躍することも考えています。
高木 栄養科を4年で卒業した後に、医学部に編入することを考えています。大学に医学部出身の先生が多くいらっしゃるので話す機会があって、医学にも興味を持ちました。昔から料理や栄養学に興味があって栄養科に入って、そこで栄養学への熱が冷めたのではなく、むしろ医学と結びつけて学びたいと思って。
栄養だけでも薬だけでもダメで、より架け橋のような存在になりたいと思っています。栄養学を学んだ上で医学をやることによって、薬に頼れば100%良いということではなくて、日頃の食事からちゃんとケアをする、そして必要に応じて適切な薬を使っていくことで、より負担のない医療を提供できるのではないかと思って、頑張っているところです。
山沢 将来の目標が三者三様で、しっかり考えていて素晴らしいと思いました。もっと栄養学生とつながりたいと改めて思いました。本日はありがとうございました。