【日本薬学生連盟】災害医療における薬剤師の役割‐大森眞樹さん(熊本県山鹿地区薬剤師会)に聞く

2022年3月1日 (火)

薬学生新聞


大森さん

大森さん

 地震や豪雨などたくさんの災害に見舞われることが多い日本では、災害医療の現場で薬剤師が活躍しています。そこで薬剤師はどのような役割を担っているのか、熊本地震や熊本豪雨で災害医療支援に従事された薬剤師の大森眞樹さん(熊本県山鹿地区薬剤師会)に、日本薬学生連盟広報部の山沢智(日本薬科大学5年)、高井薫子(東京薬科大学1年)が聞き手となってお話をうかがいました。

 ――学生時代から災害医療に関心があったのでしょうか。

 学生時代は薬剤師にそのような活躍の場があることすら知りませんでした。年が10歳離れている兄が薬学部に行っている姿を見て、自分も薬剤師という職種が意外に良いのかもしれないと思うようになって、中学生の頃には周りに薬剤師になると言っていたみたいです。

 薬剤師になって1年目の時に、地元の大阪で阪神・淡路大震災が起きて、ボランティア活動をしに行きたいと言ったのですが、忙しい薬局を希望して配属されていたため、被災した地元に向かうことができず、ショックを受けました。そのような経験から東日本大震災の時に、薬剤師による支援活動の要請があった時に手を挙げて現地に行かせていただきました。ただ東日本大震災の時もやはり職場が忙しく、支援で抜けている間の薬局の業務をどうしようかとなった時に、薬局がある地域の仲間にサポートに入ってもらうことで被災地へ向かうことができました。

医薬品の安定供給などに貢献‐モバイルファーマシーが活躍

 ――東日本大震災の時は、どのような形で派遣されたのでしょうか。

 薬剤師の災害派遣にはいくつかのルートがあります。当時は薬剤師会やD-MAT、J-MATの組織による災害支援があり、また、個人で来ている方もいました。私は、熊本県の薬剤師会を通して参加しました。

 ――個人でいらっしゃる方もいるんですね。

 そうですね、当時の被災地の報道を見て、すぐに行動を起こされた熱い薬剤師の方々もいらっしゃいました。ですが、最近は個人で来られる方は減っています。災害によっては個人でボランティアに来られた方の衣食住を揃えることに被災地の行政が苦労したということがあり、近年では災害派遣はどこかの組織に所属して支援に向かうことがかなり浸透してきました。

 ――大森さんは、ご自身がお住まいの地域である熊本県で地震や水害の際に活動されていましたが、東日本大震災のように被災地に派遣されて活動するのと、お住まいの地域が被災されてその中で活動するのとでは何か違いはありましたか?

 自分の住んでいる地域が被災すると、長期間に渡って多様な支援を行うところが違うかなと思います。他の地域から派遣された方は、発災直後から慢性期への移行時期までなど、決められた期間の中で支援を行いますが、自分の住む地域で支援をするとなると、長期間に渡って責任者になることもありますし、可能であれば、仕事をしながら自宅から通い支援を行うという方もいました。

 ――大森さんが行った支援にはどのようなものがありましたか。

 薬剤師が行う災害時の医療支援としては、被災地での災害医療救護活動、避難者への支援、医薬品の安定供給への貢献があります。仮設診療所や避難所で医師の傍らで処方箋を組み立てていったり、処方箋の要らないOTCなどの医薬品を出す対応をしたり、避難所ではお薬相談を受けたりしていました。熊本地震ではモバイルファーマシーという薬局機能を備えた移動車両が大分県から迅速に駆け付けていただき、早期の医薬品の安定供給に貢献していただきました。

 モバイルファーマシーには調剤に必要な分包機や水剤棚、医薬品、プリンターなどが備わっています。これまでは被災地で薬を出すことは容易ではなく、医療支援チームが自ら持参した医薬品の中からしか使うことができませんでした。それがモバイルファーマシーの導入で、被災1日目から薬を出すことができるようになりました。最近では、2020年7月の熊本豪雨災害で、熊本地震の経験から熊本県で準備していたモバイルファーマシーが初めて実際の災害に投入されました。

 医薬品の供給支援のあと公衆衛生に関する活動も行いました。薬剤師法には「公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」という言葉が明記されていますよね。

エコノミークラス症候群対策も‐避難所のトイレ掃除が鍵握る

 ――公衆衛生とは、具体的にはどのようなことを行ったのでしょうか。

 公衆衛生の向上及び増進に寄与しますと言っても、ピンとこないかもしれません。学生の皆さんに分かりやすくするために公衆衛生の定義を改めて考えると、公衆は“公の多くの人”、衛生は“命を守ること”として、公衆衛生は“みんなの命を守ること”と考えられます。

 薬剤師が公衆衛生に携わる例としては、避難所の避難者をサポートするために避難所の温度や湿度、二酸化炭素、粉塵を調べることや血栓対策、エコノミークラス症候群対策、浸水家屋の消毒、感染症対策があります。

 熊本地震の時には、多職種で行ったエコノミークラス症候群の対策にも携わりました。

 夜間救護所に救急車が何度も来るので、どうしたのかと尋ねると、エコノミークラス症候群で運ばれる人が増えています、と報告を受けました。災害関連死として、エコノミークラス症候群によって亡くなった方も多くいて、せっかく地震から助かった命を守りたいと思い、薬剤師同士で話し合いエコノミークラス症候群対策に携わりました。

 医療チームと連携して、医師からレクチャーを受けて、医師作成のアセスメントシートをもとに避難所周辺の駐車場で車中避難している方に声をかけてまわりました。この声かけのおかげで、数人の避難者の方を医療につなげることができました。

 また、エコノミークラス症候群の予防で弾性ストッキングを配布することが過去の災害時にもありましたが、うっ血性心不全の方や足首のサイズが合わない方など、弾性ストッキング禁忌の方がいます。なので、ただ配布するのは止めました。弾性ストッキングを配布していますと言って避難所を周って、受け取りに来た人にすぐに配布するのではなく、ストッキングを希望する理由を聞きました。血栓の危険性などを伝え、救護所で診察を受けて弾性ストッキングを使用すべきかの判断を医師にしてもらい、看護師さんからはき方を教えてもらって配布するようにしました。

 さらに、エコノミークラス症候群になる原因の一つとして、避難所の仮設トイレが汚くて、トイレに行くことが嫌で水分を取るのを控えることが挙げられます。そこで、施設の方やボランティアの方と協力してトイレ掃除を行いました。

災害現場で活動する大森さん

災害現場で活動する大森さん

 その時、とあるボランティアのグループからこんな声を聞きました。「私たちの活動はトイレ掃除?災害ボランティアでトイレ掃除をしてきただけなんて帰ってから家族や職場に言うのはちょっと……」

 その言葉を聞いた私はトイレ掃除の目的が伝わっていないことに愕然として、思わずその方たちにこう声をかけました。「あなた方のおかげで、エコノミークラス症候群や熱中症などの災害関連死が減っています。トイレが汚かった頃は、みんな行くことを控えたり、水分を取らないようにしたりして、命を危険にさらしていたんです」

 それを聞いたボランティアの方は「私たちの活動が命を助けているんだって!ここの避難所のトイレが1番きれいだって言わせよう!」と言って、掃除をしてくれました。それ以降トイレ掃除のボランティアの方々に薬剤師から声掛けを行うようにしました。トイレ掃除という手段の説明だけではなく、命を助けるという目的も説明し、理解してもらうことが大切だと思いました。

 ――多くの活躍をしてこられた大森さんが学生に伝えたいことはありますか。

 薬剤師の職能は、まだまだ一般の方々や他の職種に知られていないことがたくさんあります。薬学生や薬剤師になった人でさえ、その魅力に気づいていない場合も多いです。災害時の活動もご紹介したことが全てではありませんし、私のお伝えした事例が他の地域でそのまま実践できるとは限りません。地域ごとにできる、その人それぞれの長所を生かすような、薬剤師の職能や魅力を切り拓いていってほしいです。

取材後記(高井薫子)

 1年生の私は、まだ基礎的な分野しか学んでいないですが、勉強をしていて「薬剤師になってからこの知識使うの?」と思うことがあります。今回取材をして、薬剤師が生きるのは薬のことだけではなく、低学年からの知識も含めて色々な知識が生きてくることをとても感じました。私が感じた、全ての知識がちゃんと生きるよということを、記事を読んだ薬学生の皆さんに受け取っていただけたらと思います。



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