地域包括ケアや在宅医療など、他の医療従事者と連携しながら薬剤師の職能を発揮すべき臨床現場が多くなっています。臨床現場では患者さん1人ひとりの状況を総合的に評価することが大切で、薬学で学修した各科目の知識をつなげて対応することが求められます。近年の薬剤師国家試験では、個別最適化した医療を提供するために薬剤師の判断が求められる実践的な問題が多く出題されています。このような出題傾向は109回以降の国試でも継続すると予想されます。各科目で学修した知識を臨床につなげて総合的な能力を発揮できるように学修を進めましょう。薬ゼミの科目責任者が108回国試を引用して学修方法のアプローチを紹介します。
薬理領域の出題傾向
■第108回国試出題例
本問は、2型糖尿病を合併する高血圧症患者の問題です。高血圧症に対する第一選択薬を把握したうえで、個別最適化を意識し、服用中の薬剤と併用できるかどうかを個々の患者に応じて判断する必要があります。
循環器系の中で高血圧症を症例として含む既出問題は、糖尿病以外にも気管支喘息や心筋梗塞の合併例や妊娠高血圧症候群などが出題されています。実践問題(薬理)は、高血圧症治療薬の作用機序を問う王道の出題が多いため、正答率は高い傾向にあります。
しかし、理論問題の高血圧症治療薬の正答率は60~70%台であり、薬理作用の知識だけでは正解できない出題もあるため、例えばレニン-アンジオテンシン系(RA系)の流れ全体を把握するなど、薬物の作用点だけではなく全体像の理解も求められます。薬物の作用点だけの単純暗記だけだと正解できない出題があるため注意しましょう。
この領域における学修方法のアドバイスとしてまずは高血圧症の第一選択薬(カルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬など)を把握する必要があります。そのうえで、例えば心筋梗塞後の高血圧症に対してはACE阻害薬、ARB、β遮断薬が用いられることを理解する必要があります。薬理の実践問題では、実務の範囲で「その患者に対して適切な降圧薬はどれか」が問われます。従って、病態・薬物治療で学修する高血圧症治療の流れを優先して確認しましょう。
循環器系疾患では、特に虚血性心疾患、心不全、高血圧症の治療薬で共通薬物が多く、混同しがちです。セットで[1]病態の把握[2]適切な治療薬の選択[3]薬理作用の理解――までをしっかりと学修すると良いでしょう(解答 問258:1、問259:3、参考正答率 問258:70%、問259:97%)
病態・薬物治療領域の出題傾向
■第108回国試出題例
本問は、多疾患合併(高血圧症、脂質異常症、心筋梗塞)症例であり、各疾患の病態や検査値など患者情報から処方目的を判断する問題です。
選択肢1は、病態把握を必要とする問題です。まず、心筋梗塞から心不全を引き起こす可能性があります。次に、心不全の発症や進展には、RA系が関与しています。そこで、心不全の発症や進展を抑制する目的で、ACE阻害薬のエナラプリルが処方されています。
選択肢2は、薬理学の知識でカルシウム拮抗薬の違いが分かれば解答可能です。ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬は、血管選択性の高い薬物であることがわかれば、処方目的は不整脈の抑制ではなく、高血圧症の治療だと判断できます。
このように、病態と薬物の結びつきや薬物の特徴を学ぶことで解答できる問題は、今後も継続して出題されると予想できます。
この領域における学修方法のアドバイスとして、実際の臨床現場では、本問のように多疾患を合併した症例がほとんどです。近年の国試でも多疾患合併症例の問題が多く出題されており、2022年度に改訂された薬学教育モデル・コア・カリキュラムで重視されている「個別最適化」を意識したものと考えられます。
臨床現場で遭遇する可能性が高い疾患に関しては、病態の把握と何故その薬物を使用するのかを理解する必要があります。また、薬剤師には、合併症や併用薬など患者背景を読み取った上で、個別最適化に対応するために最適な薬物を提案する力が求められています。
実務実習での経験を国試の学修につなげ、問題演習などで疾患や薬物を学ぶときは、科目をまたいだ学修を進めましょう(問294 解答:1、4、参考正答率:80%)
法規・制度・倫理領域の出題傾向
■第108回国試出題例
国試において麻薬、向精神薬、覚醒剤や覚醒剤原料(管理薬)に関する問は毎年出題されます。管理薬の範囲では特に法規と実務の壁は薄くなっており、「法規の知識で解く実務」や「実務の知識で解く法規」の出題が多くあります。勉強する際に法規と実務でリンクしていくことが重要です。
例えば、廃棄に関する内容が第107回(問317)で法規として出題され、第108回(問336)、第106回(問333)では実務で出題されています。
この領域における学修方法のアドバイスとして、今回紹介した設問以外にも例えば、コミュニケーション技法(服薬指導、座り位置)、倫理的規範(〇〇宣言など)、麻薬や向精神薬などの管理薬の取り扱い(保管、事故、廃棄など)等の範囲において、法規または実務の双方で同様の内容が出題されています。法規と実務をつなげて学修すると相乗効果があることを念頭に学修を進めてください。
なお、両科目を学修する際には、「法規とは最低限守るべきもの」として線引きをし、「実務は現場・患者の目線にたって運用されるもの」と考えると、「法規では〇〇だが、実務的には□□」という内容にも納得できることが増えると思います(問315 解答:3、参考正答率:86%)
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