第109回薬剤師国家試験が2月17、18日に実施されます。106回国試から「新出題基準」に対応し、合格基準に「相対基準」が適応された試験となっています。また、薬学教育モデル・コア・カリキュラムが2022年度に改訂され、多職種連携推進の観点から医学・歯学教育のコアカリとの一部共通化が行われました。この改訂において、疾病の予防や個々の患者の状況に適した責任ある薬物療法を実践できることが重要視されています。臨床現場では、電子カルテなどのITツールを活用した患者情報の把握とその応用が求められています。国試には、これら臨床現場を取り囲むトレンドや時事ニュースも多く出題されます。皆さんが実務実習中に体験した業務を思い出しながら、107回、108回国試で新傾向の問題を確認して、国試の勉強を始めましょう。薬ゼミでは、毎年1万人を超える受験生が登録してくれる自己採点システムの結果をもとに国試を分析してコアカリ改訂の流れを把握し、常に最新の情報を国試受験生に提供しています。国試に合格して、広い視野を持った薬剤師になれるよう、薬ゼミの全9領域の科目責任者が109回国試に向けた科目ごとの「最終チェックポイント」を紹介します。
まずは、国試の合格基準をおさらいしておきましょう。厚生労働省の通知により「以下のすべてを満たすことを合格基準とする。なお、禁忌肢の選択状況を加味する」が合格基準となっています。具体的な要件として、[1]問題の難易を補正して得た総得点について、平均点と標準偏差を用いた相対基準により設定した得点以上であること[2]必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれの配点の30%以上であること――が定められています。
禁忌肢については「薬剤師には、医療人としての高い倫理観と使命感が求められることにかんがみ、薬剤師として選択すべきでない選択肢(いわゆる『禁忌肢』)を含む問題について、導入することとする。禁忌肢の導入にあたっては、公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容、倫理的に誤った内容、患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容、法律に抵触する内容等、誤った知識を持った受験者を識別するという観点から作問することとする。ただし、偶発的な要素で不合格とならないよう出題数や問題の質に配慮する必要がある」とされています。
薬ゼミの自己採点システムの結果では、近年の国試で禁忌肢が合否に影響を与えた事例は少ないと推測されます。国試受験前に、禁忌肢を選択しないためのポイントを把握しておきましょう。
薬ゼミの全国統一模擬試験を使用した分析結果によると、禁忌肢を選択しないためには、▽時間配分をしっかり行って余裕を持って問題を読むこと▽「1つ選べ」が続いた後の「2つ選べ」などでマークミスをしないこと▽「適切でないのはどれか」などの否定形のリード文で選択ミスをしないこと――等が重要です。
物理
物理は「物理化学」と「分析化学」に大別されます。物理化学では基本的な問題、グラフや表を用いた考える問題、計算問題などが幅広く出題され、分析化学では研究や医療現場に応用される問題が多く出題されています。
物理で得点するために、▽既出問題を解く際に出てくる用語の意味を調べて自分で説明できる▽グラフや表を読み取り、何を表しているのか考えることができる▽計算問題は問題文から適切な式を導いて解説の再現ができるようになる――ことをお勧めします。また、出題頻度の高い範囲は、物理化学では熱力学、反応速度論、分子間相互作用、放射線と放射能です。分析化学では酸と塩基、定量試験、クロマトグラフィー、分光分析法、画像診断技術です。既出問題の演習を通して傾向を知り、知識の定着を図りましょう。
化学
化学は基礎から応用まで、幅広い出題が予想されます。いずれも構造式を見る力が重要となるため、定義や用語は理解に留めることなく、構造式に落とし込むことを意識してください。
まず、基礎事項、立体化学、酸塩基を徹底的に理解しましょう。化学反応は、主生成物の正誤だけでなく、なぜ生成するのかも意識してください。「糖やアミノ酸などの生体成分の構造と性質、関連する生体反応」「医薬品の化学」については、既出問題で問われた内容は分かるようにしましょう。最後に、「局方生薬」「生合成経路」「代表的な漢方処方とその副作用」も忘れずに、既出問題ベースで確認しましょう。
生物
生物は、既出問題レベルの基本的内容から、構造や図などを読み解く応用力を必要とする問題まで幅広く出題されています。また、近年では「機能形態学」「生化学」からの出題が多く見られ、他科目へつなげることも重要視されています。そのため、問題演習時には、既出問題の正誤を答えるだけでなく、その問題に対する周辺知識も把握して、構造や図などにつなげる意識を持つ必要があります。
機能形態学では「他科目につながる臓器や組織の機能」、生化学・分子生物学では「各栄養素や核酸の構造と代謝」、免疫学では「各免疫担当細胞の機能や免疫グロブリン(抗体)」、微生物学では「細菌・ウイルスの特徴」が特に重要になります。全体像を意識しながら学修を進めましょう。
衛生
衛生では既出問題に類似した内容が多く出題されるため、既出問題の学修を続けましょう。誤りの記述を正に直すだけでなく、考え方を身に付けることが得点アップの秘訣です。グラフや表を読み取る問題が多いのは「保健統計」「疫学」「食中毒」です。構造式から考える問題が多いのは「食品添加物」「代謝」「農薬」「発がん」です。構造式の注目すべきポイントを確認しておきましょう。その他、頻出の範囲として▽予防接種▽感染症(性感染症や母子感染を含む)▽ビタミン▽栄養素の代謝(特に飢餓時)▽乱用薬物(特に大麻)▽解毒薬▽学校薬剤師――が挙げられます。実践での出題も考えられますので、優先的に確認しておきましょう。
薬理
薬理は、例年出題基準から満遍なく出題されています。そのため、全範囲を満遍なく見直して総仕上げをしましょう。具体的には、既出問題で出題済みの薬物は、作用機序と薬理作用をつなげて暗記・理解しておく必要があります。薬物の作用機序だけの暗記では、必須問題は解けても理論問題で薬理作用がひっかけられた時に間違えてしまう可能性があります。従って、既出問題の中でも理論問題の解きなおしを中心に「薬物名+作用機序+薬理作用」の最終確認をしましょう。特に、自分が何回も間違えてしまった問題は優先して見直しをしましょう。
また、[1]代表的な薬物の構造確認[2]言葉の意味の最終確認(耐性、身体依存、pA2など)[3]薬理作用が複雑な薬物(ファスジルやトロンボモデュリンなど)――の確認も忘れないようにしましょう。
病態・薬物治療
本領域は、「病態・薬物治療」と「情報・検定」の範囲から出題されます。病態・薬物治療は、臨床現場で対応する一般的な疾患からの出題が多く、既出問題を解くことである程度の知識を習得することが可能です。具体的には、▽循環器系▽消化器系▽代謝・内分泌系▽中枢・精神神経系の疾患▽悪性腫瘍――の範囲を中心に、他科目との知識のつながりを意識しながら最終確認しましょう。近年で、患者が複数の疾患を合併しているため、使用できない特定の薬について解答する問題なども出題されていますので、患者ごとに「何が最も適切な治療か」を考えて問題を解きましょう。
情報・検定は、やや難易度は高いですが、一般的な医薬品情報源や検定・推定の手法に関して問う問題が多いため、頻出範囲を中心に、既出問題を理解しながら学修を進めましょう。
薬剤
薬剤は、近年、グラフや図の読解が必要となる内容が多数出題されています。実践問題では患者背景(複数疾患、剤形変更、経時的変化など)を考える個別最適化医療を意識した問題が多く出題されています。また、理論、実践を中心に計算問題が5~7題ほど出題され、特に薬物動態の範囲は、比較的シンプルな問題が増加していることもあり、正答率が高くなることが予想されます。
優先的に確認すべき範囲として、薬物動態学ではトランスポーター、遺伝的多型、投与計画を含めたTDMが頻出です。物理薬剤学では物質の溶解や分散系で図や表を読み取る内容が頻出です。製剤学ではDDS(放出制御、ターゲティング)が頻出です。いずれも既出問題を中心に確認しておきましょう。
法規・制度・倫理
従来の倫理・コミュニケーションの範囲がプロフェッショナリズムとして拡大されたのは106回からですが、近年の国試においては倫理の範囲では受験者間でさほど大きな差は見られない傾向があります。差が生じやすい問題は法規・制度の範囲に目立ちます。法規・制度については、既出問題の内容を理解していることで得点できる設問も多いので、特に次の範囲の既出問題を中心に確認しておきましょう。
具体的には、[1]薬剤師法[2]医薬品医療機器等法[3]承認後の制度(再審査・再評価、副作用等報告)[4]麻薬及び向精神薬取締法[5]毒物及び劇物取締法[6]薬害と健康被害救済制度[7]介護保険制度――の領域です。既出問題通りでの出題は少ないですが、余裕があれば医療法や医療保険制度の範囲も学修を進められると高得点につながります。
実務
実務は全体345問のうち95問と出題数が多く、幅広い知識を必要とする科目ですが、既出問題の内容を理解し、関連する知識の定着を図ることで得点力の向上が期待できます。薬理や治療の知識がベースとなる問題も多いため、実務で副作用や服薬指導等の範囲を勉強した時には薬理・治療に戻って薬の作用機序や医薬品の適応を確認しておくことをおすすめします。
実務の中で重要度の高い範囲としては、チーム医療、副作用、相互作用、服薬指導等があります。特に副作用に関しては、近年、薬剤師に求められる服薬後のフォローとして、検査値から患者の状態を判断する症例問題への対応も必要です。基準値を確認した上で、既出問題を用いた検査値の読み取り練習をしておきましょう。また、計算問題も毎年4~6問程度が出題されますので、こちらも既出問題を用いて解法の理解と反復練習を行いましょう。