誠馨会総泉病院薬剤部長
棗(なつめ) 則明
高齢入院患者の特徴
高齢入院患者の特徴として、[1]複数の疾患に罹患していて、それらが薬物治療の継続が必要な慢性疾患である場合が多い[2]一度日常生活機能低下を来すと、短期間での回復が困難で入院が長期化する[3]腎機能低下等、薬物動態の加齢変化により、薬物有害事象発生のリスクが高い[4]各々の疾患への対処療法が行われ、多剤併用となる――ことが挙げられます。
多剤併用は相互作用のみならず、代謝・排泄機能の低下している高齢患者では、より薬物有害事象の発生リスクを高めてしまうといえます。
また、多剤併用に伴う弊害への対処方法として、[1]代替手段が存在する場合は、可能な限り非薬物療法を選択する[2]複数の診療科から処方されている同効薬剤の中止を検討する[3]治療目標に応じた薬物療法の優先順位の判断と、
優先度の低い薬剤の中止を検討する[4]高齢患者に有害事象を起こしやすい薬剤の代替薬への変更、または中止を検討する[5]薬物血中濃度測定、代謝・排泄機能検査により、必要最小限の投与量を検討する――ことが求められます。
これらの対処方法を実行する上で、エビデンス(証拠・根拠)に基づいた医師への処方提案を行う必要があります。
PBPMって何?
2010年4月30日に厚生労働省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について(医政発0430第1号)」が発せられました。
この中に「薬剤師を積極的に活用することが可能な業務」として、筆頭に「薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査オーダについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を通じて、医師等と協働して実施すること」が明記されています。
これは「医師・薬剤師が協議してプロトコールを作成し、これに基づき薬剤の用量用法の変更や、検査オーダを薬剤師が実施すること」を厚労省が推奨しているということです。
ここで重要なのは「事前に作成・合意されたプロトコール」の範囲内での業務ということになります。
PBPMとは、プロトコールに基づく薬物治療管理(Protocol-Based Pharmacotherapy Management)の略で、日本病院薬剤師会が推奨している用語です。プロトコールを取り決めて薬物治療を管理することは、前述の医政局長通知と共通しています。
病棟薬剤師による検査オーダと処方提案
次に、実践しているPBPMについて紹介しましょう。当院の「検査オーダに関するプロトコール」です。
<総論>
・医師の業務負担軽減および有効かつ安全に薬物治療を行うことを目的とし、次に挙げる血液検査については、薬剤師がオーダすることとする。
▽1.薬物血中濃度(以下の採用薬の血中濃度を測定、ジゴキシン、テオフィリン、ハロペリドール、リチウム、フェニトイン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、ゾニザミド、ジソピラミド、クロナゼパム、メキシレチン、塩酸ピルジカイニド)▽2.酸化マグネシウム製剤服用患者の血清マグネシウム▽3.カンファレンス時の定期的な検査(全身プロフィール、GOT GPT T-Bil LDH T-Cho BUN ALB ALP CRE CRP Na K Cl 血糖 WBC RBC Hb Ht Plt)▽4.ワーファリン投与患者のPT-INR▽5.糖尿病治療薬(インスリン製剤含む)投与患者のHbA1c▽6.骨密度測定(超音波法)困難患者の血清NTX(I型コラーゲン架橋N-テロペプチド)▽7.TPN(total parenteral nutrition)施行患者の、血清鉄・銅・亜鉛・フェリチン・総蛋白
・医師は必要と認めた場合は、随時検査オーダする。
・オーダした検査項目・採血日を、病棟薬剤業務記録として電子カルテに記入する。
・オーダした検査項目・採血日を、電子カルテ付箋機能を使用して医師に伝達する。
・医師は、薬剤師による検査オーダを必ず確認する。
・複数の検査項目をオーダする場合、患者負担に配慮し可能な限り同一日に採血が行われるようにオーダする(穿刺回数を最小となるようにする)
・検査日は月曜日から土曜日とし、看護業務を考慮し、原則、1日1病棟3人以内とする。
<各論>
ここでは「1.薬物血中濃度」について説明してみます。図1は電子カルテ画面で、薬剤師が実施した検査オーダを示します。[1]検査オーダ内容[2]検査オーダの病棟薬剤業務記録[3]電子カルテ付箋機能を用いた医師への検査オーダ項目と採血日の伝達。
図2は検査値からの薬物療法評価の記録です。[1]薬剤師による検査値評価の病棟薬剤業務記録[2]医師への検査結果の伝達[3]付箋の内容はコピー可能で、特定薬剤治療管理の医師記録として利用されています。
<処方提案>
基準値を超えている場合、また基準値内であっても臨床症状から漫然と処方されていることが疑われる場合は、漸減から中止することも提案しています。
ベッドサイドでの服薬指導と検査値による薬物療法評価は、処方提案を行う上で明確なエビデンスとなります。
おわりに
医師の的確な診断と処方から薬物療法が開始されますが、薬剤師による薬物療法評価に必要な検査オーダは、薬物療法の有効性の向上と安全性の向上に寄与するといえます。
今日の病棟薬剤師は、PBPMを念頭に全入院期間を通して、積極的に薬物療法に関わっていく必要があるといえます。