国際会議で披露、学長表彰も
東京理科大学の和太鼓サークル「樹(いつき)」は、トランペットやジャンプなどのパフォーマンスを取り入れたユニークな演奏で注目を浴びている。サークルには指導者がいないものの、先輩が後輩に曲を伝え続けることで、和太鼓の力強さとパフォーマンスの融合による独自のリズムを生み出している。薬学部や理工学部がある千葉県野田市のキャンパスで行う定期演奏会だけでなく、国際的な会議や東日本大震災の復興祈願祭でも演奏するなど、着実に活動の場を広げ続け、2014年には大学から学長表彰を受けた。部員にとっては学業との両立という厳しい現実もあるが、多くの部員は雰囲気の良さが決め手となって入部するなどチームワークも良好だ。熱心に演奏を聞いてくれる地域住民への思いから、「地域に密着したサークル」を目指し、精力的に練習に取り組んでいる。
「樹」は08年に創部し、現在の部員は男子16人、女子14人の計30人。火・水・木曜日の夕方から夜にかけて、野田キャンパスを中心に活動しているが、工学部などが拠点を置く葛飾キャンパスで演奏する日もある。練習では、前半は一人ひとりが自由に太鼓を叩き、後半は合奏に時間を充てるスタイルが基本だ。部員の大半を1~3年生が占め、毎年12月に行う定期演奏会で引退する慣例だが、4年生以上が残る場合もある。
演奏では主に、木製の胴に革を張った「長胴太鼓」と、よりサイズが小さい「締太鼓」を使用している。長胴太鼓は演奏の主役となる楽器で、重厚な音が特徴的。横向きに置いて1~2人で叩くスタイルは、和太鼓を設置する高さに応じて「八丈」、「三宅」などと呼ばれ、縦向きに置いて1人で叩くスタイルを平置きという。曲によって置き方を変えるが、平置きは腕の筋肉を集中的に使うため、疲労が溜まりやすい。一方、締太鼓は長胴太鼓よりも軽く高い音を出し、長胴太鼓の脇で伴奏することで演奏をリードする役割を果たしている。
樹の特徴は、篠笛、トランペット、マラカスなどの和洋楽器を交え、飛び跳ねながら和太鼓を叩くなど、他の大学・団体では見られないユニークなパフォーマンスを取り入れている点だ。通常の和太鼓チームでは、経験を積んだ指導者がいる場合が多く、力強い演奏で観客を魅了する。しかし、樹には指導者がおらず、差別化を図る必要性から独自の動きを取り入れた。部長を務める理工学部建築学科3年生の高平友博さんは、「力強いだけでなく、繊細なリズムも多いです」と他チームとの違いを語る。
練習の成果は、夏と冬に野田キャンパスで行う定期演奏会、学園祭などのイベントで披露している。本番前には大学の最寄り駅にポスターを掲示したり、回覧板で開催を案内するなどの宣伝も欠かさない。さらに、知的財産権に関する団体主催の国際会議や東日本大震災からの復興祈願祭でも演奏するなど、活動する舞台を着実に広げ続けている。これらの実績が大学から評価され、14年には学長表彰を受けた。
イベントでは、12曲前後を約2時間かけて叩く。樹の代表曲である「超躍動ノ狂華」は7分半にわたって6人程で演奏する。定期演奏会では、毎回30~40人のキャンパス周辺の地域住民が熱のこもった演奏に耳を傾ける。高平さんは「良かったよという言葉をもらうことが嬉しいですね」と喜びを語る。
大学から和太鼓を始めた人が大半という樹。大学の正式な部活に認められて5年程だが、先輩が後輩をコーチし、全身を使って曲を覚えるという伝統が確立しつつある。部員たちは、授業と練習を両立する難しさに直面しつつ、良好な上下関係の中で活動を続けている。毎年の退部者も1人程度で、高平さんは「やるときはやるというスタンスが気に入りました」と入部理由を語るなどチームワークは良好だ。
薬学部薬学科3年生の大平千陽さんは、高校時代にプロの和太鼓チームの演奏を見たことで興味を持った。吹奏楽部員であったことも影響し、「和楽器を演奏したかったことに加え、部の雰囲気も気に入りました」と入部したきっかけを語る。
同じ薬学部薬学科3年生の大坪みなみさんも、高校時代に吹奏楽に打ち込んでいたことと、友人の大平さんに誘われたことで入部を決めた。
今後の目標について、高平さんは「とにかく演奏会に足を運んでほしいです」とPR。「地域に密着したサークルにしたいですね」と近隣住民への感謝も忘れない。特に現在の3年生は、全員揃ってイベントで演奏した経験がないだけに、大平さんと大坪さんは「最後は一緒に演奏したいです」と近づく引退への思いを語った。