建築家の視点からメッセージ
第46回日本薬剤師会学術大会記念講演では、大阪出身の世界的建築家の安藤忠雄氏が建築家の視点から、「薬剤師が元気になるには、挑戦する勇気と絶対的な自信が最重要ファクターになる」とのメッセージを贈った。
講演の中で安藤氏は開口一番、「わが国の医療も建築技術も世界一である」と明言し、「これからの仕事は感性が重要になる。日本には四季があり、感性を磨く環境が整っている」と訴えかけた。
安藤氏は、現代の偏差値教育にも言及し、「終身雇用制度が確立された安定した時代は、偏差値で人間のレベルを決める方法で良かった。だが、不安定な近年では、教養と野生が重要になる」と断言。
「大人は、人間のコミュニケーションが、携帯電話では絶対に築けないことを子どもに教える必要がある。感性は、自分の力でしか磨けない。その一方で、子どもが憧れを持った職業に就ける社会を確立しなければならない」との考えを示した。
さらに、東京大学名誉教授の立場から、「東大の入学式には、たくさんの父兄が参加する。だが、東大出身者が社会や国を引っ張っていくには、まず、お互いに自立した親子関係を築くことがその第一歩になる」とした。
一方、薬剤師に向けては、「それぞれの責任を果たしていかねばならない」と指摘し、「そのためには、“挑戦する勇気”“自分の世界を切り開く勇気”と共に、私は誰にも負けないという“自信”が必要になる」と訴えかけた。
iPS由来心筋シートによる重症心不全治療に期待
大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科 澤 芳樹教授
近年の循環器医療の進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。このような現況の中、澤芳樹教授(大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科)らのグループは、重症心不全患者に対する治療として、世界に先駆けて足の筋肉由来の自己筋芽細胞シートや、iPS由来心筋シートを用いた心筋再生治療の研究に取り組んでいる。
自己筋芽細胞シートを用いた成人の拡張型心筋症(DCM)治療は、治験が終了、いよいよ臨床応用段階に進み、小児DCMの臨床研究への展開を見せている。iPS由来心筋シートを用いた高機能バイオ心筋の開発も、近未来の臨床応用を目指している。これらの研究には、薬学系の人材もたくさん活躍しており、最先端医療の推進も薬剤師の新しい使命の1つとなっている。
2000年から東京女子医大・岡野光夫教授との共同研究で開発された自己筋芽細胞シートは、これまで17例の重症心不全患者に移植され、重症心不全の心機能や症状を安全に改善することが証明されている。
一方、自己筋芽細胞シートで効果がない心筋損傷度の大きい患者には、iPS由来心筋シートを用いて直接的に心筋細胞を再生するiPS心筋再生治療の研究が進められている。同研究は、昨年の山中教授のノーベル賞受賞により、より一層拍車がかかっており、3~5年後の実用化が期待される。