医学アカデミー薬学ゼミナール学長
木暮 喜久子
6年制薬剤師を輩出する7回目となる第103回薬剤師国家試験(国試)は、2月24、25日の両日に実施された。表1に示すように受験者総数1万3579人、総合格者数9584人、総合格率70.58%で、102回(71.58%)とほぼ同じ総合格率であった。6年制新卒の合格率は、84.87%(合格者数7304人)で、102回(85.06%)とほぼ同程度、6年制既卒の合格率は47.00%(合格者数2151人)で、102回(50.83%)よりやや低下している。その他(旧4年制卒、4年制卒を含む)も32.58%(合格者数129人)と102回(30.21%)と同様に低い割合を示した。
第101回国試より「合格基準」が改訂され、相対基準が適応されたことを踏まえ、問題のレベルは103回においても易化することはなく、「基礎力」「考える力」「医療現場での実践力」を問う問題は継続して多く出題されている。臨床的見地からの判断を問う内容が多くなっていることからも「問題解決能力」や「臨床能力」を持つ6年制薬剤師に対する期待を感じさせる傾向は続いているといえる。
2019年春に実施される第104回国試は、103回と同様の傾向で、実践力・臨床能力を問われる問題は継続出題されると思われる。また、新しく104回より「禁忌肢」が導入され、公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容、倫理的に誤った内容、患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容、法律に抵触する内容等、誤った知識を持った受験者が識別されることになる。受験者は、導入の意義を理解し、対応していくことが重要である。
1 第103回薬剤師国家試験の総評と104回の合格に向かって
第103回国試の平均点は、表2のように102回に比べて合計で1.05点低下、必須問題で102回よりわずかに低下しているが、ほぼ同様であった。ただし、採点における調整により、不適切問題が1題(問217:全員を正解として採点)、複数解答問題が4題(問127、問224、問260、問292:複数の選択肢を正解として採点)あった。
「薬ゼミ自己採点システム※1」による103回の領域別正答率(表3)では、例年難易度の高い理論問題の「物理・化学・生物」で、同様に低い正答率となった。また、実践問題では、「病態・薬物治療」の正答率が低かった。
1)既出問題の出題は全体の20%くらいとされ、単なる正答の暗記による解答が行われないように、問題の趣旨が変わらない範囲で設問および解答肢などを工夫することになっている。101回では再出題が「物理」と「衛生」で出題されたが、103回では102回と同様に既出問題そのままの再出題はなかった(薬ゼミリサーチ:再出題0%)。近年の既出問題を解くことは傾向をつかむために重要であるが、答えを丸暗記するのでなく、参考書などで周辺の知識もしっかり勉強してほしい。
2)コア・カリキュラムの改訂(改訂コア・カリ)により、19年からの長期実務実習中に必ず体験してほしいとされる「代表的な8疾患※2」が発表されているが、実践問題を中心にその疾患が多く出題され、102回を上回る出題数であった。
2 薬剤師国家試験の概略と104回に向けての対策
国家試験は、必須問題(90問)と一般問題(255問)の合計345題である。出題試験領域は「物理・化学・生物」「衛生」「薬理」「薬剤」「病態・薬物治療」「法規・制度・倫理」「実務」の7領域である。試験は、領域別に行うのではなく、薬学全領域を出題の対象として、「必須問題」と「一般問題」とに分け、さらに一般問題を「薬学理論問題」と「薬学実践問題」とした3区分で行われる(表4)。それぞれの出題区分は下記のような問題内容で出題される。
1)「必須問題」は、全領域で出題され、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確認する問題であり、共用試験と同様の五肢択一の問題である。また「必須問題」は、一般問題に比べて比較的正答率が高い問題が多く得点源である。「必須問題」は、80~90%の得点率を目指して勉強してほしい。103回薬ゼミ自己採点システムにおいて正答率が、「法規・制度・倫理」が101回、102回と比較して5%程度、「実務」が10%程度低かったため、若干足切りに該当する受験者が出たと考えられる。
2)一般問題の「薬学理論問題」は「実務」を除く全科目で出題され、6年間で学んだ薬学理論に基づいた内容の問題であり、難易度は必須問題より高い。103回は、102回とほぼ同等の正答率であった。103回の「薬学理論問題」において、生物と衛生の連問が出題された。今後も科目の壁を越えた連問が出題される傾向は変わらないと考えられる。
3)一般問題の「薬学実践問題」は、「実務」のみの単問と「実務」とそれ以外の科目とを関連させた連問形式の「複合問題」からなる。「複合問題」は、症例や事例を挙げて臨床の現場で薬剤師が直面する問題を解釈・解決するための資質を問う問題で、実践力・総合力を確認する出題である。103回の複合問題では、科目をまたいだ4連問(生物、衛生、2題の実務)や薬理と実務での4連問など4連問の出題が増加した。今後も長期実務実習の成果を問う実践的な問題は経時的な背景を連問として問う形式で出題されるであろう。
4)薬剤師国家試験は2日間で実施され、「必須問題」は1問1分、「一般問題」は1問2.5分で解くことになっている。時間配分を考えて、難易度の高い問題を飛ばし、解きやすい問題から解くのもよいであろう。その際は、マークシートのつけ間違いには十分に注意してほしい。
5)101回から適応された改訂後の合格基準を表4に挙げている。合格基準は一部改正され、これまでの「総得点率65%以上という絶対基準」から「平均点と標準偏差を用いた相対基準」に変更となり、必須問題を構成する各科目の足切りを50%から30%に引き下げたほか、35%に設定されていた理論・実践(一般問題)の各科目の足切りは廃止となった。しかし「当分の間、全問題への配点の65%以上であり、かつ、他の基準を満たしている受験生は少なくとも合格となるように合格基準を設定する」とある。
3 科目別総評と科目別103回の傾向
■物理
〔難易度〕必須「平易」、理論「やや難」、実践(物理:「中等」、実務:「中等」)
〔総評〕必須問題では、物理の基礎的なキーワードを理解した上で活用する問題や99回に出題された高校レベルである有効数字の考え方を活用した問題が出題された。物理化学は、グラフや文章をよく読み、知識を活用する難解な問題が出題された。分析化学は日本薬局方の問題が多く出題されており、基本知識があれば既出問題レベルの知識で正答できる問題が多かった。他科目の知識を必要とする出題、イラストから測定原理を読み取り、解答する問題が出題されており、「複合的な知識」や「考える力」が必要であった。医療現場において使用する製剤やキットの物理的性質の出題が多く、基礎を医療へ応用する意識が感じられた。今後も既出問題やキーワードを暗記するだけでなく、理解して、既出問題の内容を応用できるようにする必要性がある。
■化学
〔難易度〕必須「平易」、理論「やや難」、実践(化学:「中等」、実務:「中等」)
〔総評〕近年の傾向通り、構造式が多く出題された。また、亜鉛がとりやすい酸化数を選ぶ問題など化学の基礎を問う内容も出題された。理論問題、実践問題ともに生薬の1題以外は構造を絡めた問題や図から判断する問題が出題された。電子配置を問う問題、化学反応の問題においては単に反応生成物を問う問題ではなく、反応機構を理解した上で解答する問題も出題された。共役系による着色を構造で問う問題や処方薬の構造から内容を問う問題、医薬品と金属とのキレートに関する問題など、考えさせる問題の出題が見られた。生薬は、代表的な日本薬局方生薬の出題が例年に比べ多かった。既出問題のみの習得では解答は難しく、「考える力」や「構造をみて判断する力」が要求される試験であった。
■生物
〔難易度〕必須「平易」は、理論「やや難」、実践(生物:「やや平易」、実務:「中等」)
〔総評〕図や構造式を用いた考える力を必要とする問題が多く出題された。理論問題で、物理との連問で未知タンパク質Xの分離精製が出題され、与えられた情報を正確に理解し推測する総合的な力が求められた。実践問題では、生物と衛生の4連問が出題され、「日焼け止め」「サプリメント」についての薬剤師への相談といった、より現場を意識した問題が出題された。既出問題の知識に加えて、広く深い知識、図や実験などから与えられた情報を総合的に判断・考察する力が必要とされた。
■衛生
〔難易度〕必須「やや平易」、理論「中等」、実践(衛生:「中等」、実務:「やや平易」)
〔総評〕必須問題では、既出問題の1記述を必須形式に直したものが多く出題された。時事問題としては、近年話題になったハチミツに含まれるボツリヌス菌の芽胞についてなどが出題された。また、予防接種法の定期接種に追加されたHBVワクチンが出題された。基本は既出問題レベルの知識で解けるものではあるが、図や表などを用いた「考える力」を必要とする出題が多いため、問題を解く前にまず問題文を理解することが重要である。
■薬理
〔難易度〕必須「平易」、理論「中等」、実践(薬理:「やや平易」、実務:「やや平易」)
〔総評〕細胞内情報伝達系の変化から薬物を推定する問題、副作用から薬物を推定する問題など今までにない形式や内容の問題があった。未出題薬物の作用機序を問う内容も多く、現場で用いられている話題性のある薬物まで勉強する必要がある。また、構造式から考える問題は102回から継続して出題されており、構造式と作用機序を結びつける力が求められている。実践問題では、患者背景を理解した上で、問題解決能力を問う内容が中心であった。
また、病態を理解した上で治療薬の作用機序につなげる問題も出題され、疾患に対して病態・薬理の両面からアプローチする力が求められている。
■薬剤
〔難易度〕必須「やや平易」、理論「難」、実践(薬剤:「やや難」、実務:「平易」)
〔総評〕構造や写真を用いた出題や内容の理解が求められる問い方など切り口の工夫が見られる出題であった。知識を活用して解答するグラフや図の問題、計算問題も例年通り出題されていた。また、17局改定内容についても触れた問題も昨年に引き続き出題されていた。実践問題は、現場で実際に使用されている薬剤を中心とした出題であった。
■病態・薬物治療
〔難易度〕必須「平易」、理論「難」、実践(病態・治療:「難」、実務:「難」)
〔総評〕情報以外の必須問題は、今まで国試に出題されている基本的な疾患に関する出題が多く、解きやすい問題が多かった。情報・検定の理論問題では、連問での出題があり、内容も新傾向であったため、正答を導くことは困難であった。また、症候に関して、詳細を問う難しい出題もあった。実践問題では、患者の検査値などを読み取る「問題解決能力」を必要とする難易度の高い問題もあった。また、検定の問題は、データの解析を行い解答する「考える力」を必要とする問題であった。
■法規・制度・倫理度
〔難易度〕必須「平易」、理論「平易」、実践(法規:「平易」、実務:「中等」)
〔総評〕必須問題は、近年の既出問題の関連知識で対応できるものが多かったが、病院内の設置施設と国民医療費の問題は近年出題された内容ではない。また、薬害は毎年出題されているが、原因薬物で治療されていた疾患を問う形式に出題の工夫が見られた。新傾向としては尊厳死の社会的認知もあってか、リビングウィルが初出題であった。理論問題は、既出問題から得られる知識で解答を導ける記述が大半であり、得点しやすい構成であった。調剤された薬剤の規定、増分費用効果比が初出題であるが基本内容であった。実践問題では、昨年と同様に、様々な場面で薬剤師としての対応を求める実践的な問題が増加している。直近の国家試験と同範囲の出題が目立ち、薬剤師として必要性の高い範囲は今後も繰り返し出題されると予想される。
■実務
〔難易度〕必須「中等」、実践(実務の単問)「やや難」
〔総評〕必須問題では、近年の出題傾向と多少の変化があった。定義・用語・薬剤師の業務関連などの出題が近年は目立っており、医薬品関連の出題が低下していたが、103回は医薬品関連の出題が2倍となり、定義・用語・薬剤師の業務関連は0問であった。
実践問題では、検査値やスケール、添付文書の記載内容などの情報を活用する問題が多かった。考える力を必要とする問題が多く出題されたため得点しにくかった学生もいたと思われる。また、計算問題以外は新規の内容の出題も目立った。